第4話「裏切り者」
第4話「裏切り者」
朝:4日目の始まり
朝、俺は重苦しい空気の中で目を覚ました。
残りは6人。
椎名リョウ、青山ユキ、桐生タクミ、田中リク、鈴木アイ、山田ハルカ。
桐生タクミは、俺を睨んでいた。昨夜の会話以来、彼の視線が痛い。
「椎名...俺たちは話す必要がある」
「...後でな」
俺は目を逸らした。
その時、黒木が現れた。
でも、いつもと様子が違う。顔色が悪く、目に光がない。
「おはよう...諸君」
黒木の声が震えている。
「4日目の課題を...」
黒木が言葉を途切れさせた。
「いや...違う。もう、無理だ」
「黒木さん?」
ユキが心配そうに聞く。
黒木が膝をついた。
「すまない...全員に謝らなければならない」
黒木の告白
黒木が顔を上げた。目に涙が浮かんでいる。
「俺は...裏切り者だ」
ざわめきが広がる。
「このゲームの運営側の人間だ。でも、俺も被害者なんだ」
黒木が震える声で続ける。
「3年前、俺もこのゲームに参加した。そして、生き残った。でも、代償を払った」
黒木がスマホを取り出し、写真を見せた。
「これが、俺の妻と息子だ。でも、俺は彼らの顔を思い出せない」
写真には、笑顔の女性と子供が映っている。
「俺は、何度もリープした。仲間を救うために。でも、リープする度に、記憶が消えていった」
黒木の目から涙が流れた。
「最後には、妻の顔も、息子の名前も、全て忘れた。家に帰っても、誰なのか分からなかった」
「それで...忘却に取り込まれたのか?」
タクミが聞いた。
「ああ...忘却は言った。『お前の記憶を取り戻してやる。代わりに、私のために働け』と」
黒木が続ける。
「俺は従った。新しい参加者を集め、課題を運営し...でも、記憶は戻らなかった」
「忘却は、嘘をついたのか」
「そうだ。忘却の目的は、記憶を集めることだ。人間の記憶、特に『大切な記憶』を集めて、完全な存在になろうとしている」
黒木が俺を見つめた。
「椎名...お前も気づいているだろう。お前の能力の代償を」
「...ああ」
「リープする度に、誰かの記憶が消える。その記憶は、忘却の世界へ吸収される」
黒木が立ち上がった。
「俺は、もう耐えられない。このゲームを終わらせる」
黒木の決意
黒木が自分の首輪に手をかけた。
「待て、黒木!」
タクミが叫ぶ。
「この首輪には、自爆機能がある。俺が死ねば、このゲームは停止する。お前たちは助かる」
「やめろ! 他に方法があるはずだ!」
ユキが叫ぶ。
「ない...俺はもう、忘却の支配から逃れられない」
黒木が首輪のロックを外し始めた。
「椎名...お前なら、忘却を倒せるかもしれない。頼む」
「黒木...」
「すまない...本当に、すまない」
黒木が首輪を無理やり外そうとした。
ピピピピピ——
首輪が赤く点滅する。
「黒木、やめろ!」
俺は走り出した。
でも、間に合わなかった。
ドンッ!
爆発。
黒木の体が吹き飛んだ。
血が壁に飛び散る。
「黒木ぃぃ!!」
俺は叫んだ。
1回目のリープ:朝に戻る
視界が暗転する。
そして、気づいたら朝に戻っていた。
「はあ、はあ...」
息が荒い。
黒木が死んだ。
俺は、黒木を救えなかった。
「椎名くん、大丈夫?」
ユキが心配そうに見つめる。
「...大丈夫だ」
俺は立ち上がった。
今度こそ、黒木を救う。
**2回目の挑戦:黒木を止める**
黒木が現れた。
「おはよう...諸君」
黒木の声が震えている。
「4日目の課題を...」
「待て、黒木」
俺は黒木の前に立った。
「椎名...?」
「お前は、死ぬつもりなんだろう。でも、俺は止める」
黒木が驚いた表情を見せた。
「なぜ...お前は、なぜ俺の考えを...」
「俺には、死に戻る能力がある。お前が死ぬ未来を見た」
全員がざわめく。
「死に戻る...能力?」
タクミが聞く。
「ああ。俺は死んだら、60分前に戻る。でも、代償がある。リープする度に、誰かの記憶が消える」
俺は全員を見渡した。
「タクミ、お前の娘の記憶が消えたのは、俺のせいだ」
「...やっぱりか」
タクミが拳を握りしめた。
「リク、お前の娘の名前が消えたのも、俺のせいだ」
「椎名くん...」
リクが複雑な表情を浮かべた。
「すまない...俺が生きるために、お前たちの記憶を奪った」
「椎名くん...」
ユキが俺の手を握った。
「謝らないで。あなたは、私を救ってくれた」
「でも...」
「大丈夫。私たちは、あなたを責めない」
ユキが笑った。
黒木の説得
俺は黒木に向き直った。
「黒木、お前が死んでも、忘却は止まらない。むしろ、喜ぶだけだ」
「でも...俺には、もう選択肢がない」
「ある。俺たちと一緒に戦え。忘却を倒すために」
黒木が目を見開いた。
「倒す...? 忘却を?」
「ああ。忘却は記憶を集めている。なら、俺たちは記憶を守る」
俺は続けた。
「お前は、忘却に操られている。でも、お前の心はまだ残っている。妻と息子を愛していた心が」
「椎名...」
「一緒に戦おう。妻と息子の記憶を取り戻すために」
黒木の目から涙が流れた。
「...ありがとう」
黒木が首輪に手をかけようとした。
でも、その瞬間、黒木の体が硬直した。
「...ダメだ。俺の体が...動かない」
黒木の目が見開かれる。
「忘却が...俺を操っている...!」
黒木の手が、勝手に首輪のロックを外し始めた。
「やめろ...やめてくれ...!」
黒木が叫ぶ。
「椎名...すまない...俺は...」
ピピピピピ——
首輪が赤く点滅する。
「黒木!」
俺は走り出した。
黒木を突き飛ばそうとした。
でも、間に合わなかった。
ドンッ!
爆発。
黒木の体が吹き飛ぶ。
「黒木ぃぃ!!」
2回目のリープ:再び朝に戻る
視界が暗転する。
朝に戻った。
「くそ...!」
俺は拳を床に叩きつけた。
黒木を救えなかった。
忘却が、黒木を操っていた。
どうすれば、救えるんだ?
「椎名くん、どうしたの?」
ユキが心配そうに見つめる。
「...もう一度だ」
俺は立ち上がった。
3回目の挑戦:時間切れ
黒木が現れた。
俺は黒木に走り寄り、首輪を掴んだ。
「椎名!? 何を...」
「お前を救う。忘却には渡さない」
俺は首輪を無理やり外そうとした。
でも、ロックが固い。
「やめろ、椎名! 爆発する!」
黒木が叫ぶ。
その時、黒木の目が虚ろになった。
「...もう、遅い」
黒木の声が変わった。まるで、別人のように。
「忘却...お前か!」
「その通り。黒木はもう、私の一部だ」
黒木の口から、忘却の声が聞こえた。
「お前がどれだけリープしても、無駄だ。黒木は死ぬ運命にある」
「くそ...!」
ピピピピピ——
首輪が赤く点滅する。
「椎名、逃げろ!」
黒木の意識が一瞬戻った。
「お前だけでも...生きろ...!」
ドンッ!
爆発。
俺は吹き飛ばされた。
視界が暗くなる。
俺も、死んだ。
3回目のリープ:限界
朝に戻った。
「はあ、はあ、はあ...」
息が荒い。全身が汗でびっしょりだ。
3回リープした。
つまり、3人の記憶が消えた。
「椎名くん...」
ユキが俺に駆け寄った。
「大丈夫? 顔色が...」
「...ユキ、お前は誰だ?」
「え...?」
ユキが困惑した表情を浮かべる。
「私は、青山ユキだよ。医学生の」
「ああ...そうだった」
俺は頭を抱えた。
俺自身の記憶も、消え始めている。
ユキの顔は分かる。でも、出会った経緯が曖昧だ。
「椎名くん、本当に大丈夫?」
「...大丈夫じゃない」
俺は立ち上がった。
「黒木を救えない。何度リープしても、忘却が邪魔をする」
「じゃあ...」
「今回は、黒木を救うのを諦める」
俺は拳を握りしめた。
「黒木、すまない」
4回目の挑戦:黒木の死を受け入れる
黒木が現れた。
俺は、何もしなかった。
黒木が告白する。
裏切り者であること。
忘却に操られていること。
妻と息子の記憶を失ったこと。
そして、自ら首輪を爆破する決意。
「椎名...お前なら、忘却を倒せるかもしれない。頼む」
「...ああ。任せろ」
俺は答えた。
「黒木、お前の意志は、俺が継ぐ」
「ありがとう...」
黒木が微笑んだ。
そして、首輪のロックを外した。
ピピピピピ——
首輪が赤く点滅する。
「みんな、すまない...」
ドンッ!
爆発。
黒木の体が吹き飛んだ。
「黒木ぃぃ...」
俺は拳を握りしめた。
今度は、リープしない。
黒木の死を、受け入れる。
**課題の停止**
黒木が死んだ後、しばらく何も起きなかった。
それから、全員の首輪が鳴り始めた。
ピピッ!
『4日目の課題は中止されました』
「中止...?」
ユキが呟く。
『本日は自由時間です。明日、5日目の課題を開始します』
黒木の言っていた通りだ。
彼が死ねば、課題が停止する。
でも、ゲームは終わらなかった。
夜:仲間との会話
夜、俺たちは黒木の遺体を埋葬した。
廃病院の裏庭に、簡単な墓を作った。
「黒木さん...安らかに」
ユキが祈った。
「黒木...お前の意志は、俺が継ぐ」
タクミが言った。
「黒木さん、ありがとうございました」
リクが涙を流した。
俺は、何も言えなかった。
黒木を救えなかった自分が、情けなかった。
墓の前で、タクミが俺に話しかけてきた。
「椎名...お前は、何回リープした?」
「...3回だ」
「つまり、3人の記憶が消えた」
「ああ」
タクミが俺の肩を叩いた。
「お前を責めるつもりはない。お前は、俺たちを救おうとしてくれた」
「でも...」
「いいんだ。俺は娘の顔を忘れた。でも、娘を愛していた事実は残っている」
タクミが微笑んだ。
「それで、十分だ」
夢の中:忘却との対話
その夜、また夢を見た。
「黒木を救えなかったね」
忘却の声。
「...ああ」
「何回リープしても、無駄だったろう? 私が彼を支配していたからだ」
「お前...」
「黒木は優秀な駒だった。でも、もう用済みだ」
忘却が笑った。
「次は、お前たちだ。5日目の課題を楽しみにしているよ」
「忘却...お前を必ず倒す」
「できるかな? お前がリープする度に、仲間は壊れていく。最後には、全員が廃人になる」
「...」
「さあ、どうする? このまま戦い続けるか? それとも、諦めるか?」
忘却の声が消えた。
第4話の終わり
翌朝、俺は目を覚ました。
残りは5人。
椎名リョウ、青山ユキ、桐生タクミ、田中リク、鈴木アイ。
山田ハルカは...
「ハルカさんがいない」
ユキが言った。
ベッドには、メモが残されていた。
『もう、無理です。記憶が消えていくのが怖い。先に帰ります。ごめんなさい』
ハルカは、逃げ出したのだ。
でも、首輪をつけたまま。
その瞬間、遠くで爆発音が聞こえた。
ハルカは、死んだ。
残りは4人。
窓の外を見る。朝日が昇っている。
5日目が始まる。
黒木の意志を継ぎ、俺は戦い続ける。
忘却を倒すために。
次回予告:第5話『サバイバル』
「記憶を奪い合え」
5日目の課題は、記憶抽出装置を使ったサバイバル。
他者の記憶を奪えば、自分の首輪が解除される。
仲間同士が、殺し合う。
リョウは、10回のリープを強いられる。
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