第20章 エピローグ——物語は続く



 魔王討伐から、三ヶ月が経った。


 世界には、平和が戻っていた。


     ◆


 王都グランディアは、復興の真っ只中にあった。


 魔王軍によって破壊された建物は再建され、逃げていた人々は戻ってきて、街には活気が溢れていた。


 クロートは、王城の一室で、報告書を読んでいた。


 「王国宣伝局」は、「王国広報院」として再編された。


 魔王討伐後の復興広報、新しい平和への啓発活動——やることは、山ほどあった。


「相変わらず、忙しいわね」


 ノックもなしに入ってきたのは、セレナだった。


「ああ。仕事は、いくらでもある」


「でも、前みたいに徹夜はしてないでしょ」


「……まあな」


 クロートは、苦笑した。


「この世界では、ワーカホリックは命取りだと学んだ」


「学んでよかったわね」


 セレナは、窓際に歩み寄った。


「ねえ、クロート」


「何だ」


「みんな、どうしてるか知ってる?」


「ああ」


 クロートは、報告書を置いた。


「アルトは、東部の復興支援に行っている。魔王軍に破壊された村々を、自分の手で助けたいそうだ」


「あの子らしいわね」


「リゼットは、魔法学院の講師になった。『禁忌の血族』の汚名は晴れて、今では『魔王を倒した英雄魔法使い』として尊敬されている」


「良かったわ」


「ガルドは——騎士団に復帰した。副団長としてではなく、新人教官として」


「へえ。意外ね」


「『若い奴らに、本当の正義を教えたい』だそうだ」


 セレナは、笑った。


「あの堅物も、変わったわね」


「ああ」


 クロートは、セレナを見た。


「で、お前は?」


「私?」


 セレナは、肩をすくめた。


「私は——まだ、考え中」


「考え中?」


「何をしたいか、まだわからないの。——でも」


 セレナは、窓の外を見た。


「この街が好きになった。ここで、何かを始めたい」


「……そうか」


「あんたは?」


「俺?」


「これからも、ここで働くの?」


 クロートは、しばらく黙っていた。


 やがて、口を開いた。


「……俺は、結局——広告屋のままだった」


「……」


「剣も魔法も使えない。戦いでは、役に立たなかった。——でも」


 クロートの口元に、笑みが浮かんだ。


「言葉で、世界を動かせた。——それが、俺の仕事だ」


「……」


「だから、これからも——ここで働く。人の心を動かす仕事を」


 セレナは、クロートを見つめた。


「……あんた、変わったわね」


「そうか?」


「最初に会った時は——もっと、冷たかった。仕事のことしか考えてない、って感じ」


「……」


「今は——違う。ちゃんと、人を見てる」


 クロートは、少し照れくさそうに目を逸らした。


「……お前たちのおかげだ」


「私たち?」


「ああ。お前たちと一緒にいて——仕事の意味を、思い出した」


 クロートは、窓の外を見た。


「広告は——売るための技術じゃない」


「……」


「人と人を、繋げる技術だ。——真実を、届ける技術だ」


 セレナは、笑った。


「あんた、カッコつけすぎよ」


「うるさい」


 二人は、笑い合った。


     ◆


 その時、扉がノックされた。


「クロート様、お客様です」


「客?」


 扉が開くと——


 エリザベート王女が、立っていた。


「王女殿下」


 クロートは、立ち上がった。


「何か、ご用ですか」


「ええ」


 エリザベートは、微笑んだ。


「新しい依頼があるの」


「依頼?」


「商業ギルドから——」


 王女は、書類を差し出した。


「『王国の特産品を、他国に売り込みたい』という相談よ」


 クロートは、書類を受け取った。


「特産品の……マーケティング?」


「そう。あなたの力を、貸してほしいの」


 クロートは、書類を見つめた。


 そして——


 笑った。


「……断れないですね」


「断らないでしょう?」


「ええ」


 クロートは、立ち上がった。


「俺は——広告屋ですから」


     ◆


 窓の外には、青空が広がっていた。


 王都グランディアの街には、活気が溢れている。


 クロートは、窓の外を見つめた。


(俺は——前世で、何のために働いていたんだろう)


 数字のため? 評価のため? 金のため?


 答えは、ずっとわからなかった。


 でも——今なら、わかる。


(人の心を、動かすため)


 それが、広告の本質だ。


 真実を伝え、人と人を繋げ、世界を動かす——


 それが、俺の仕事だ。


「さて」


 クロートは、振り返った。


「新しい仕事の準備を始めようか」


 セレナが、呆れたように笑った。


「ほんと、仕事中毒ね、あんた」


「うるさい」


 王女が、微笑んだ。


「期待しているわ、宣伝局長」


「——広報院長です」


「あら、ごめんなさい」


 三人は、笑い合った。


     ◆


 異世界転生した広告屋、クロート・サキアスの物語は——


 まだまだ、続く。


                                     ——完——

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広告屋異世界転生〜勇者を売り出して世界を救います〜 もしもノベリスト @moshimo_novelist

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