第19章 言葉の戦場——魔王との対峙



 作戦開始から二週間後。


 魔王軍は、王都の目前まで迫っていた。


 しかし——予想よりも、進軍は遅れていた。


 「希望の灯火作戦」が、効果を発揮していた。各地で民衆が立ち上がり、魔王軍の進路を妨害している。完全に止めることはできなかったが、時間を稼ぐことには成功した。


 そして——


 勇者パーティーは、動いた。


     ◆


「魔王城に、突入する」


 アルトの声は、静かだった。


 しかし、そこには確かな決意があった。


「魔王を——倒す」


 勇者パーティー全員が、頷いた。


 セレナ、リゼット、ガルド——そして、クロート。


「俺も、行く」


 クロートの言葉に、全員が驚いた。


「クロート、あんたは——」


「戦えない。わかってる」


 クロートは、自嘲気味に笑った。


「でも、俺にはやることがある」


「やること?」


「魔王の武器は、『絶望の言葉』だ。——なら、俺が『希望の言葉』で対抗する」


 アルトが、クロートを見た。


「……一緒に、来てくれるのか」


「当たり前だ」


 クロートは、アルトの肩を叩いた。


「俺は、お前の宣伝局長だ。最後まで——一緒にいる」


 アルトの目に、涙が滲んだ。


「……ありがとう」


     ◆


 魔王城への突入は、困難を極めた。


 魔物の群れ、罠、そして——「絶望の囁き」。


 しかし、勇者パーティーは止まらなかった。


 アルトが神剣で道を切り開き、セレナが罠を解除し、リゼットが魔法で援護し、ガルドが後衛を守る。


 そして、クロートは——


 「言葉」で戦った。


「諦めるな! 俺たちは、ここまで来た!」


 魔王の「絶望の囁き」が、パーティーを蝕もうとする。


 しかし、クロートの声が——それを打ち消した。


「お前たちは、最高のチームだ! 俺が保証する!」


 言葉には、力がある。


 真実の言葉には——


 絶望を打ち破る力がある。


     ◆


 そして——


 玉座の間に、たどり着いた。


 そこには——


 魔王ヴァルハザードが、待っていた。


「よく来た、人間ども」


 魔王の声は、低く、重く、そして——冷たかった。


「しかし、無駄な努力だ」


 魔王が、手を掲げた。


 瞬間——


 「絶望の囁き」が、最大出力で放たれた。


 お前たちは、勝てない。  すべては、無駄だ。  諦めろ。諦めろ。諦めろ——


 パーティー全員が、膝をついた。


 圧倒的な絶望感が、心を蝕む。


「アルト——」


 クロートは、震える声で呼びかけた。


「立て——」


 しかし、アルトは動かない。


 目が、虚ろになっている。


「無駄だ」


 魔王が、嘲笑った。


「勇者とて、所詮は人間。『絶望』には勝てん」


「……」


「お前たちの『希望』とやらは、所詮は幻想だ。現実の前には、無力だ」


 魔王の言葉が、クロートの心にも突き刺さる。


(そうだ。俺は——無力だ。剣も魔法も使えない。前世でも、今世でも——何もできない——)


 絶望が、心を覆い尽くそうとする。


 しかし——


(いや)


 クロートは、歯を食いしばった。


(俺には——言葉がある)


 震える足で、立ち上がる。


「アルト」


 声が、かすれている。


 しかし、クロートは話し続けた。


「お前は——完璧じゃない」


「……」


「弱くて、臆病で、自信がない。——俺も、同じだ」


 クロートは、アルトの前に歩み寄った。


「でも——」


 クロートの声が、強くなった。


「それでも、お前は立ち上がった。何度も、何度も。——だから、今ここにいる」


 アルトの目に、かすかな光が戻った。


「俺は——」


「お前は、勇者だ。完璧じゃなくても、最強じゃなくても——それでも立ち上がる者こそが、勇者なんだ」


 クロートは、アルトの手を取った。


「立て、アルト。——世界が、お前を待っている」


     ◆


 アルトの体が、震えた。


 魔王の「絶望の囁き」が、まだ響いている。


 しかし——


 クロートの言葉が、それを打ち消した。


 お前は、勇者だ。  完璧じゃなくても。  それでも立ち上がる者こそが——


「……俺は」


 アルトの目に、光が宿った。


「俺は——勇者だ」


 立ち上がった。


 神剣が、白銀の光を放った。


「馬鹿な——」


 魔王の表情が、初めて歪んだ。


「なぜだ。なぜ、お前は立てる——」


「あんたにはわからないだろうな」


 アルトの声は、静かだった。


 しかし、そこには——確かな力があった。


「絶望は、一人では乗り越えられない。でも——」


 アルトは、仲間たちを見た。


 セレナ、リゼット、ガルド——そして、クロート。


 全員が、立ち上がっていた。


「仲間がいれば——乗り越えられる」


「……」


「それが——希望だ」


 アルトが、神剣を構えた。


 白銀の光が、玉座の間を満たした。


「終わりだ、魔王」


     ◆


 最終決戦は、壮絶だった。


 魔王の力は、凄まじかった。


 しかし——


 勇者パーティーは、負けなかった。


 アルトの剣が、魔王を切り裂く。


 セレナの短剣が、急所を突く。


 リゼットの魔法が、魔王を焼く。


 ガルドの盾が、仲間を守る。


 そして——


 クロートの言葉が、全員を支え続けた。


「諦めるな! あと少しだ!」


「お前たちなら、できる! 俺が保証する!」


 言葉には、力がある。


 真実の言葉には——


 奇跡を起こす力がある。


     ◆


「ぐおおおおおお——!」


 魔王の絶叫が、玉座の間に響いた。


 アルトの神剣が、魔王の胸を貫いていた。


「馬鹿な……この俺が……人間ごときに……」


「あんたは、間違っていた」


 アルトの声は、静かだった。


「絶望は、確かに強い。——でも、希望は、もっと強い」


「……」


「人は、一人では弱い。——でも、繋がれば、強くなれる」


 魔王の体が、崩れ始めた。


「覚えておけ、人間——」


 最後の言葉が、響いた。


「絶望は——消えない——必ず——また——」


 そして——


 魔王は、消滅した。


     ◆


 玉座の間に、静寂が訪れた。


 五人は、立ち尽くしていた。


「……終わったのか」


 ガルドが、呟いた。


「終わった——のよね」


 セレナが、震える声で言った。


「……終わりました」


 リゼットが、小さく頷いた。


 アルトは——


 膝から崩れ落ちた。


「……やった」


 涙が、頬を伝った。


「俺たち——やったんだ」


 クロートは、アルトの隣に座り込んだ。


「ああ。やったよ」


 空には、朝日が昇り始めていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る