第6話

 皿に盛られた揚げ鳥の上にすぐたれをかける。何とも言えない食欲をそそる香りが立ち上る。ぱらぱらと白いりごまを振りかける。油淋鶏の完成だ。


冷凍ご飯をレンジで解凍し買っておいたチョレギサラダのパックを開け、折り畳みのローテーブルに油淋鶏と共に置く。ビールも箸も、きちんと全部乗り切った。彼がいた時はいつも食卓に料理が乗り切らず、横にお盆を置いてそこにビールやお茶碗を置いていた。


「そもそも一人用のテーブルだもんね!ちょうどいい感じだわ」


私はテーブルの位置も壁側によせ、広々と座れるようにした。すこぶる快適だ。


「よし、いっただっきまーす!」


私は熱々の油淋鶏にかぶりつく。サクサクの衣にたれが絡んでうまい。ごまが良いアクセントだ。何度も食べた味だが、やはりおいしい。


一人で食べたって、おいしい。


ご飯も口に運び入れ、油淋鶏と共に飲み込む。冷えたビールを流し込む。プハーッと息を吐き、サラダをつまむ。


私は望んで一人になった。彼のことは恨んではいないし、むしろ感謝している。


だから、私は平気だ。彼とのことは素敵な楽しい思い出。思い出なんだから、ゆかりの物を使おうが食べようが悲しい気持ちになんてならない。がんがん使うし作るし食べる。私は自分の将来のために、すでに次に目を向けている。


はずなんだけどなぁ……


「醤油、少なめで良かったかもな…こんな塩辛くなっちゃうなら」


食べる手は止めない。止めたらきっと、もっととめどない。視界がぼやけたまま、私は料理を口に入れ湧き上がる喪失感もろとも咀嚼し飲み込む。


全て食べきった後、しっかり手を合わせ「ご馳走様でした!」とぐいっと口角を上げて大きめの声で言った。そして、食器をまとめて流しへ持って行く。一人分の食器しかない流しは、十分なスペースがあり洗い物がしやすそうだ。


私はこれからも、得意料理の油淋鶏を作り続ける。大好きだった彼がいないのに、面倒な料理をする意味なんてない……なんて思わないのだ、絶対に。




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得意料理 鈴木まる @suzuki_maru

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