大学ノート

―――――――

 

○月○日


 彼岸花の群生の下にも屍体が埋まっているっ! これもほぼ間違いないことなんだろうね。だって、どうしてあんなに赤いんだろうって思うじゃない。綺麗だけどやけに恐ろしい形状だもん。何枚かの禍々しい花弁から神経のような雄蕊と雌蕊がヒョロリと伸びているよ。あれはきっと屍体から拝借した神経だか毛細血管なんだろうね。あんなリアルな赤さって植物の色ではないよ。ヘモグロビンを豊富に含んでいるに違いない。貧血にいいかも。



 彼岸花は色々な呼び方があるみたい。これは地域によって違うらしい。例えば、曼珠沙華、葬式花、墓花、死人花、地獄花、幽霊花、火事花、蛇花、剃刀花、狐花、捨て子花、灯籠花、天蓋花などなど。って全部不吉な名前じゃん! 不吉不吉不吉、不吉のカーニバル! そうだなー、例えば嫌いな花嫁が結婚式で投げるブーケに彼岸花を一本差し込んでおくっていうのはどうだろう。差し色としては映えるかもね。もう必要ないかもだけど。



―――――――

○月○日


 本当に埋まっているか確かめるために掘ってみたんだよ。あそこの神社の裏手のところにいっぱい生えてるでしょ。お寺のお墓の脇にも。昼間だと見られるとまずいから、夜中にこっそりとね。やっぱり埋まっていたよ。予想した通りだったよ少し細長くて丸っこいのが幾つも幾つも幾つも塊になって、びっしりとみちみちに埋まっているの。ほんとうに気持ち悪い。彼岸花に取り憑かれた屍体ってああなっちゃうんだね。



 木を隠すなら森の中。木を見て森を見ず。いい作戦だと思わない? ちょうど置き場所に困ってたから、あの辺りに移しちゃおうかな。球根になったら少しお兄ちゃんにも持って行ってあげよう。最近元気ないから心配なんだよね。どうしちゃったのかな? 食欲もなくてずっと落ち込んでるみたいだし。そうだ! 彼岸花の球根って食べられるみたいだから、それで何かお料理してあげようっと。きっと喜ぶよ! でも毒があるみたいだから、きちんと処理しないといけないよね。



―――――――

○月○日


 そろそろ球根が収穫できそうな頃かなって、昨晩様子を見に行ってきたんだ。わたしの予想通りバッチリで、みっちみちのパンパンの球根がゴロゴロとなっていたから、二つ三つ掘り起こして来たんだ。毒を抜くには清潔な流水に晒さないといけないんだって。どす黒い色の球根を水に晒すと、そのどす黒いのが溶けだしてお水がすぐに真っ赤に染まっちゃう。キッチンのシンクだと間に合わないからお風呂場の浴槽でやったんだけど、いくら流してもおちないおちないおちないおちない。おちないんだ。


 あれ? なんか違うかも。収穫時期を間違えたのかな。まだしっかり球根になり切ってなかったのかもしれないな。うーん。まあいっか。これでいこう。



―――――――

○月○日


 意外とうまくできたかも! 和三盆でコーティングしたし、たぶんバッチリだね。けっこう日持ちするからねー。渡すの楽しみー。



―――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シュトーレンに祝福を ひばかり @l_panna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画