第4話 メィアが殺される場所
宿屋の恰幅の良い女将さんが、不安げな顔で俺に駆けよる。
「中央にいるんですね」
「え、ええ、なんで、領主様の娘なんかに……」
なんか、か。
町人からの人気はあまりなさそうだ。
「家宝が消え、エルデヴァイン家が繁栄しないのも、お父様の病が良くならないのも――全て貴様のせい、悪魔のメィア――ッ!!」
「うっ……!? ご、ごめんなさ、い」
俺からでは見えないが、今の言い方は間違いなく――蹴った。
「私の言いつけ通りに死なないのは何故だ!?
このアザレアは、メィアの主であり、友なのに!」
「ごめなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
謝罪を続けるメイアの声を聴きたくない。
人込みをかき分けて、俺は演説する女を見た。
ウェーブがかった赤い髪。
整った顔立ちだが、他人を見下す視線が性格を物語っていた。
服装は装飾の入った軽防具を身につけている。
狩りを楽しんだ帰りかもしれない。
「つまりメィアは、私という主であり、友の声も聞かずに、のうのうと生きている。
ああ、私の胸は裏切りによって強く引き裂かれそう――!!」
アザレアは鉄甲冑の胸に手を当て、ワザとらしく目を瞑る。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――!」
地面で土下座をしながら、メィアは頭をこすり付け、呪文のように唱え続ける。
辺境貴族の女は革のブーツで、メィアの後頭部を踏みつけた。
「謝って済むわけないじゃない。
あなたの左腕には悪魔の紋章が刻まれている。
一秒でも早く死ななければ――お父様も病に蝕まれ、メルルすらも悪魔によって不幸がもたらされる!!」
さらに後頭部を強く踏み、彼女は近くにいた女戦士から長槍をもぎ取った。
「……一人で死ねないのなら、私が悪魔を殺してあげる。
悪魔のまま生きるよりも、今死んだ方が――何百倍も幸せですものねえ!!」
震える小さな背中へ、鋭い槍の先端が迫る。
群衆は息を飲んだ。
「……なんのつもり?」
氷の如く、冷たい声がアザレアから漏れる。
俺は咄嗟に飛び出して、槍の柄を両手で掴んでいた。
幸いなことに背中に到達する前に、止めることができた。
「公開処刑はやりすぎじゃないのか」
ここは彼女が望む、綺麗な死に場所じゃない。
互いに槍を押し合う。
二十代そこそこの女性と力で拮抗しているなんて、俺の力は何と軟弱なものか。
「……こんな時代に死に場所を選べると思ってるの?」
魔物の王である七龍が目覚めたことに加え、国同士の摩擦が強くなり、力なき者は死ぬ場所すら選べない――彼女の考えは間違いではない、が。
「選ぶために足掻くことはできるだろう?」
犬死することもあるだろう。
けどここは、まだ歯向かうことができる場所だ――!
「お前たち、何を見てる!!」
「ハッ!」
貴族女の半歩後ろで控えていた二人の従者が、俺へと掴みかかってくる。
戦士風の装備と、彼女たちの剛腕に掴まれては簡単に引きはがされてしまう。
「くっ――」
――ドローン召喚。
意識すると魔力で構成された一機の小型ドローンが、彼女たちの前に立ちはだかった。
「な、なんだこれは?!」
「魔術師……いや錬金術師――召喚師か!」
彼女たちは腰の片手剣を抜いた。
叩き落す腹らしいが、俺のドローンに戦闘力はない。
「良いのか? 触れたらこの辺一帯は火の海になる」
「な……なんだと?」
女戦士たちはおろか、辺境貴族の女の力も緩む。
うまくいったか……?
ブラフでしか、今を切り抜ける方法は思いつかなかった。
俺はその隙に彼女へ体当たりをして、メィアを引き寄せる。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「もういい、もういいんだ」
メィアは焦点を失ったまま、全身を震わせて自分の両肩を強く掴んでいる。
よほどアザレアに辛い仕打ちを受けてきたのだろう。
メィアを抱き寄せたまま、俺は彼女を睨みつけた。
「なんだオッサン。その目は私に歯向かう気か?
このエルデヴァイン家の長女、アザレアに」
「歯向かう気はない。俺たちを見逃してくれるならな」
俺たちは誰かと争いたいわけじゃない。
せめて、望む死に場所を探してるだけだ。
だがそもそも俺の話を聞く気はないのだろう。
女は大きく口を歪ませた。
「聞いた? ただの村人が見逃せですって。
悪魔に魅入られた女を野放しにしておく方が、問題じゃなくって?」
「……その悪魔ってのはなんだ。
メィアは普通の子だろう」
「ふふふふ、何も知らないの?
このオッサンは別世界からでも来たのかしら」
見下すように髪をかき上げる。
「その子の左腕の焼け焦げた痣は、悪魔の証拠。
だから私は――不幸な毎日を送っているというのに!」
口元を歪め、勝ち誇ったようにアザレアは腰に手を当てて胸を張った。
【あとがき】=============
カクヨムコンテスト11の公募作品(~2026年2月2日(月)午前11:59迄)です。
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