第2話:魔法少女とオタクくん
オタクくんのお通夜は、悪趣味なバラエティ番組じみた展開、本人の登場によって阿鼻叫喚の巷と化した。
迷わず成仏してくれと急に念仏を唱え始める人。
言動からオタク君本人だと判断して復活を喜ぶ人。
不審者だと警察を呼ぶ人。
ありえない光景に泡を吹いて倒れる人と、救急車を呼ぶ人。
様々な反応が入り乱れ、騒がしくてかなわない。
そんな中、オタクくんが現れた謎の光から、ふわりと二つの影が現れた。
フリルだらけのスカート、装飾過多な杖、過剰なサイズのリボン。
どう見ても現実に存在しちゃいけない格好の少女が、二人。
「はじめまして。カスガイさん」
「やあ。クロウから話は聞いているよ」
にこっと私に笑いかけるその二人は、どう見ても。
どこからどう見ても。
……魔法少女だった。
鑑写しのように左右逆のサイドテールや対になる色使いが、二人で一つ、な感じの主張をしてくる二人の魔法少女は、私を知っているようだった。
「え、誰?」
私はオタクくんに目を向ける。
オタクくんは「あ、紹介するわ」と実に軽いノリで2人を示した。
「転生先の異世界での相棒とその姉。職業:魔法少女。性格:かわいい。倫理観:外道。以上」
そう答えた直後、二人の魔法少女のマジカルステッキがオタクくんの後頭部を直撃した。
転生とか異世界とか魔法少女とか情報量が多いうえに状況も目まぐるしい。
「説明が雑すぎるのです!」
「罰としてキスを要求する」
「うごご……」
シバかれたオタクくんは少しの間うずくまる。
その間に、クラスメイトの男子は急に登場した超絶美少女にテンションが上がって周りに人だかりを作っていた。
さっきまでの悲しい空気はもう、どこにも残っていない。
やがて立ち上がったオタクくんは、まず、黒髪で黒い衣装の、なんか最初は敵役で後から仲間になりそうな、闇属性な感じの魔法少女を指さした。
「黒いほうがミリア。転生先の異世界では一番付き合いが長い相棒。いい奴なんだけど、生け捕りにした盗賊が不意打ちしてこないように躊躇なく殺す一面もある」
闇属性な服装にたがわず、なんかものすごくバイオレンスな人だった。
顔だけ見ると柔和で可愛い人なんだけど……世の中顔が全てじゃないなぁ。
その次に、オタクくんは銀髪で白い衣装の、天使っぽいというか主役っぽい、光属性な感じの魔法少女を指さした。
「白いほうがアリア。ミリアの双子の姉。まあいろいろあって先週まで敵だったけど話してみるといい奴だった。ことあるごとにキスを要求してくるキス魔なのが玉に瑕。生け捕りにした盗賊は手足をへし折って戦えなくして、魔法も使えないように舌も引っこ抜くタイプ」
こっちはもう、何から何までダメだった。
この天使みたいな衣装で敵なのか、なんて驚きはもうどうでもよかった。
ことあるごとにキスを要求するキス魔というのは魔法少女にあるまじき個性なのではないかと私の中の幼女が解釈違いに泣き叫んでいる。
そして、もういっそ殺したほうが慈悲なレベルのことをするのは絶対に魔法少女の所業じゃない。
「で、こっちは春日井渚。こっちの世界の俺の友達。あと、俺の夢を2つ叶えてくれた大恩人だな」
そしてオタクくんは、流れるように魔法少女2人に私を紹介した。
オタクくんの夢って、なんだっけ?
「夢? その話は初耳なのです」
「うん。今初めて話した」
小首をかしげる黒髪の魔法少女ミリアに、オタクくんは軽い調子で応える。
「この話を最初にするのは春日井にって決めてたし」
え、なにそれ。
異世界からこっちの世界に戻ってこれない可能性もあるのに絶対私に話したいことがあるとか聞いてない。
普通にときめくからやめてほしいんだけど。
「妬ける話だ。それで、どんな夢をかなえてもらったんだい?」
銀髪の魔法少女アリアが呆れたように促し、オタクくんは拳を握って早口で返す。
「まずは女の子助けてトラックにはねられて異世界転生とかいうベッタベタの王道展開を体験させてくれたことだな! 二人は知らないだろうけどトラックにはねられて異世界行きってのはこっちの世界では聖戦士〇ンバインの時代からのお約束で……」
「話が長いのです!」
「早口やめい! キスで塞がれたいか!」
熱弁するオタクくんの脳天に、2つのマジカルステッキが直撃した。
ため息をつきながら、銀髪の魔法少女アリアが私に目を向ける。
「カスガイ、この世界にいた頃からクロウはこうなのかい? つまり、楽しくなると急に早口でまくし立てる悪癖についてなんだが」
「アッハイ」
私が知っているオタクくんと何ら変わらない姿に、仲間の魔法少女も辟易しているらしい。
それはそれとして。
私、そんな理由で助けられたの?
このシチュエーションやってみたかったんだよねー的なノリで?
私は、額に青筋が浮かぶのを感じた。
「ところでオタクくん、もう一つは?」
必死に笑顔を作りながら、オタクくんに先を促す。
答え次第では、たぶん手が出る。
オタクくんはすごく楽しそうな笑顔を私に向けた。
「なんだっていい! 女の子にドロップキックするチャンスだ!」
「昇〇拳!」
最高の笑顔で最低極まることを答えたオタクくんの顎に、私の全力のアッパーが火を噴いた。
ほんとにそんなしょーもない理由で私は助けられて、オタクくんは死んだのか。
……私の涙返せマジで。
「そんな面白半分で私助けられたの!?」
問い詰める私に、オタクくんはムッとしたように眉を寄せる。
「面白半分なわけないだろ」
その真剣な表情に、実は照れ隠しで、本当は命がけで助けてくれたのかとときめきかけて。
「面白全部だ!」
「男女平等キック!」
台無しにも程があることをいうオタクくんの鳩尾に、私はドロップキックをぶち込んだ。
尻餅をつくオタクくんに飛びかかり、マウントポジションをとって、何発かぶん殴ってやろうとして。
「馬鹿! もうすごい馬鹿! ありえないぐらい馬鹿! 信じられないぐらい馬鹿! 許せないぐらい馬鹿ぁ!」
……できなかった。
できたのは、泣きながら抱きつくことだけ。
永遠に取り上げられたはずの、こんなやりとりができる。
馬鹿な理由で死んだオタクくんが、きっと、馬鹿な理由で帰ってきてくれた。
それだけで、もうほとんどのことは許せる気がした。
そんな私をあやすように抱え上げて、オタクくんはすっと立ち上がった。
……筋力がおかしい。
異世界でもらってきたチートとかだろうか。
「なあ、オタク、異世界転生したってのは、魔法少女もいるし信じるけどさ、どうやって戻ってきたんだ?」
私との話が一区切りしたのを見計らって、クラスメイトの中でも特にオタクくんと仲が良かった阿部くんがオタクくんの肩をつつく。
オタクくんは少しの間、思い出にふけるように目を閉じて、ゆっくりと目をあけて、口を開いた。
好きなアニメについて早口で話しそうになるのをぐっとこらえて、どんな作品なのかを短く説明するときに、オタクくんはよくそんな仕草をしていた。
きっと、旅路のすべてを思い出し、全部は話せないから重要なポイントを拾い上げていたんだと思う。
「向こうの世界に転生して、なんやかんやあって10年くらい旅してたんだけど、運よく異世界移動のスキルが手に入ってさ」
……なんやかんやの密度がやたらでかい。途中の説明が何段階か飛んでる気がする。
いや、オタクくんに借りて読んだ異世界転生モノの定番だけども。
「で、10年後のこっちの世界どうなってるかなーって見に来たら、俺の葬式だった」
俺の葬式だった、とかいうパワーワードに、周囲のクラスメイトが何人か噴き出して笑う。
ほんの先週までの学校生活のような、穏やかで楽しい時間がそこには流れていた。
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