第二話 脳に響く声
花を持ち帰ることにした帰り道、二人はほとんど口をきかなかった。
自転車のチェーンの音と、山道を抜ける風の音だけが耳に残る。
雄和は、膝の上に置いたビニル袋から目を離せずにいた。
赤黒い花弁が、袋越しにぼんやりと見える。
「なあ。」
前を走る祐一が、振り返らずに言った。
「さっきの、もう聞こえないな。」
「……ああ。」
確かに、あの不快な感覚は消えていた。
耳鳴りでもなく、頭痛とも違う。
考えれば考えるほど、説明できない。
「花、だよな。」
「たぶん。」
「生きてんのか。」
「……わからない。」
それ以上、会話は続かなかった。
⸻
雄和の家に着いたのは、日が落ちかけた頃だった。
「俺の家は猫がいるからな。」
祐一は玄関先で言った。
「傷つけられたら困る。」
「都合いいな。」
「そういうことだ。」
結局、花は雄和の部屋に置かれることになった。
机の上に新聞紙を敷き、その上に花瓶を置く。
花は、水を入れても反応しなかった。
茎は揺れず、花弁も開かない。
「……普通じゃないな。」
「普通の花なら、もう萎れてる。」
祐一は腕を組み、しばらく黙って花を見つめていた。
「なあ。」
「なんだ。」
「これ、ほんとに持ってきてよかったのか。」
雄和はすぐに答えられなかった。
あのとき感じた衝動が、まだ胸の奥に残っている。
「……今さら戻せない。」
「だよな。」
それだけ言って、祐一は帰っていった。
⸻
その夜、雄和は眠れなかった。
花瓶のある机を何度も見てしまう。
暗闇の中でも、花の輪郭だけは妙にはっきりと見えた。
音はしない。
匂いもしない。
それでも、そこに「何か」がある気がした。
目を閉じた瞬間、頭の奥がざわついた。
耳ではない。
鼓膜でもない。
脳の内側を、爪でなぞられるような感覚。
「……っ。」
思わず身を起こす。
花は、変わらずそこにあった。
だが、雄和にはわかった。
さっきより、少しだけ――近い。
距離ではない。
存在感が、だ。
⸻
翌朝、雄和は学校で祐一に声をかけた。
「昨日の夜、何かあったか。」
「いや。」
祐一はあっさり首を振る。
「爆睡。」
「……そうか。」
雄和だけが、眠れなかったらしい。
六時間目の国語の授業。
教科書をめくっていた雄和は、ふと手を止めた。
ページの隅に載っている写真。
赤い花弁。
葉のない茎。
「……。」
喉が、ひくりと鳴る。
写真の下に書かれていた名前を、雄和は声に出さずに読んだ。
彼岸花。
その瞬間、窓の外が赤く染まった。
夕焼けにしては、早すぎる。
教室がざわつく。
誰かが窓の方を指さした。
雄和は、立ち上がれなかった。
胸の奥で、あの感覚が、はっきりと形を持った。
これは、音じゃない。
――呼ばれている。
ーーーーーーーーーー
あとがき
皆さんは好きな花とかありますか。
この話のメイン要素である彼岸花は、別名曼珠沙華ともいうようです。その球根には僅かながら毒があり、お墓などでよく見かけるのは、お供物を食べようとする野生動物たちが、その毒性を嫌がり近づかなるからとも言われています。
その花の性質ゆえあまり自然繁殖は不得手なので、何にもないところに生えているということは、そこにはお墓、あるいは何かがうまっているのかもしれませんね。
これからもどんどん上げていくので、もしよろしければ、
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