第2話 判定
「ですが……」
「たとえばの話、カメラが密かに設置されていて、君がルールの隙間を縫って、必勝法を選びやしないかと監視しているとでも考えたかな?」
「いいえ、そういう訳ではなく、自分の信条としてできません」
「あくまでも、君自身の考えで、ルール上は禁止と謳われていなくても、実行するには踏み切れない、ということか」
「はい」
「そうか。――まったく。当初掲げたテストの目的に照らせば、深海君はいざというときに機転を利かせられない、胆力も頼りない。あとは運があるかどうかだが、運任せでやってみるかね?」
「それは」
「どうした? 勇気が出ないか」
「いえ。……実を言いますと、たまたまですが、結果的に別のずるをできる環境が整っているんです」
「うん? 何を言い出すんだ?」
「克己さんには見えていないから分からなくて当然ですが、先ほど、札を箱に戻すときに、僕は半分手伝ったんです」
「半分……」
「四枚のうちの二枚、あなたから受け取ったのは僕なんです」
「ふむ。それがテストにどう影響するのかな」
「僕が受け取ったのは、“ネ”と“兄”の札でした。渡辺さんが受け取ったのは、“口”と“斤”であり、他の二枚には触れてもいません。そして渡辺さんは本日、珍しく強めの香水を付けていました」
「む?」
「今の克己さんの鼻では、恐らく分からなかったでしょう。ですが、通常であれば、確実に嗅ぎ分けられる匂いです。その渡辺さんが触った“口”と“斤”の札にも、香りが移ったに違いない。その匂いのあるなしを手掛かりにすれば、僕はほぼ確実に、目当ての札を選べるはず。箱に手を入れ、どちらか一枚を慎重に触り、それから手を一旦戻す。指先の匂いを嗅いで、“ネ”か“口”かを判定できるという訳です。一旦入れた手を、札を掴まずに出してはいけないというルールはありませんよね?」
「うむむ……」
「この手段を採ってよいのなら、安心して挑戦させてもらいます、克己さん」
「……なるほどな。つい最前まで、ずるをするのを躊躇っていた君が、別の方法だからと言って、そこまで積極的になれるとはおかしい気もする。これは想像だが、恐らく君は、今し方私に言われて、それならばと機転を利かせ、胆力を発揮したんじゃないか。すなわち、すべては君のはったり。どうだろう?」
「――さあ、どうでしょうね」
「ふふふ。答えなくていい。分かった。深海君という人間が、ようやく見えてきた気がする。私の負けだ。機転や胆力で失格だなんて、とんでもない。充分に合格レベルだ。加えて、テストの二日前から私が鼻風邪に見舞われるという、君にとっての幸運もあった。唯一、正直に過ぎるところは、少々不安に感じなくもないが、そこは改まる余地があるだろうし、留美と一緒になることでしたたかになることを期待しよう」
「それでは、お義兄さんと呼んでも?」
「もちろんだ。私からは祝いに、
終
ネ・ロの配剤 小石原淳 @koIshiara-Jun
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