この動画を検索するのは絶対にやめてください
安珠あんこ
この動画を検索するのは絶対にやめてください
ぜんだもん(アニメ絵のアバター):「ぜんだ都市伝説調査班の動画へようこそ。この動画チャンネルでは、今ネットで話題の都市伝説や事件を解説していくよ。さて、みかん。今日はどんな内容なのだ?」
鎖国みかん(アニメ絵のアバター):「今回は、今年、ネット掲示板やSNSを騒がせた、ある大手動画プラットフォームに投稿された1本の配信動画について取り上げていくよ。この動画の投稿者は、歴史系動画配信者のタカさんという男性。彼は、この動画配信を最後に消息を絶っているの」
ぜんだもん:「え……行方不明になっているの?」
鎖国みかん:「そうなの、ぜんだもん。タカさんの家族が捜索願いを出したみたいなんだけど、いまだに見つかっていないらしいわ。まずは、そのタカさんの最後の配信動画を見てみましょう」
ぜんだもん:「うう、怖いけど、気になるのだ」
◇◇◇
[映像:タカの自室。本棚には歴史書が並んでいる]
タカ:「……えー、皆さんこんにちは。タカです。今日は、茨城県の北部、旧水戸藩領の山中に来て……あ、失礼。今はまだ自宅です。興奮して先走っちゃいました。今回追いかけるのは、戦国大名・佐竹氏の『埋蔵金伝説』です。でも、ただの埋蔵金じゃない。佐竹氏が秀吉の朝鮮出兵に備えて蓄えていた軍用金。その額、現在価値で数百億円とも言われています」
(タカが茨城県北部の地図を指差しながら、視聴者に見せる)
タカ:「面白いのはここから。秋田に国替となった佐竹氏が去った後、この地を治めた徳川光圀──あの水戸黄門ですね。彼は、わざわざ甲州、今の山梨から、武田信玄の隠し金山を管理していたプロ中のプロ、永田茂衛門・勘衛門父子を呼び寄せてまで、この金山を探させたんです。でも、結果は『発見できず』。おかしくないですか? プロフェッショナルであるはずの彼らが、何年もかけて調査しても、何も見つけられないなんて」
(タカは身を乗り出して興奮気味に視聴者に語りかけている)
タカ:「僕は先日、ある古書店で水戸藩の極秘記録とされる写しを入手しました。そこには、永田父子が光圀に宛てた、震えるような文字で書かれた報告書がありました。『金脈にあらず。掘り当てたるは、常世の門なり』……彼らは何かを見つけた。でも、それは金ではなかった。僕はこれから、その『門』があるとされる廃坑へ向かいます。ライブ配信するので、みなさん、必ず見に来てくださいね」
[ライブ配信映像:夜。ヘッドライトの光が揺れている]
(映像が激しく揺れ、荒い息遣いが聞こえる)
タカ:「時刻は深夜2時です。場所は……詳しい位置は伏せます。地元の人が異常に嫌がって教えてくれなかったので、国土地理院の作成した地形図を頼りにたどり着きました。あ、見えました。あれです」
(ライトが、斜面にぽっかりと開いた不自然な穴を照らす。入り口は崩れかけ、朽ち果てたしめ縄が地面に落ちている)
タカ:「見てください。明治以降の近代的な鉱山とは明らかに構造が違う。佐竹時代の古い掘り方です。……いや、何かおかしい。空気が、ここだけ妙に生暖かいんです。鉄の匂いというか……血の匂いみたいな……」
(タカが坑道の中へ一歩踏み出す。ノイズがひどくなり始める)
タカ:「うわ、奥が深い。……待って。今、何か聞こえませんでした? 誰かいるのか? ……すみません! 誰かいますか?」
(返事はない。しかし、遠くの坑道の奥から『チャリン……チャリン……』という、硬貨同士が擦れ合うような金属音が微かに響いてくる)
タカ:「この音……奥からだ。奥に何かがあるんだ! 本当に、本当にあったんだ!」
(タカは興奮し、足元を気にせず奥へと走り出す。ライトの光が激しく上下する。突然、彼が立ち止まる)
タカ:「あ、坑道の中なのにどうして配信できてるの?って質問が来てますね。実は、スマホの電波が届かなそうだったんで、入口付近にもう一台のスマホを置いてきてテザリングしてるんです。そのおかげで、この坑道の中でも何とか配信を続けられてます。……あれ? 壁に何か書いてある。これ、永田父子の印か? ……いや、似ているが、少し違う。これ、文字みたいだ。まるで、小さな子供が書いたような文字の印がびっしりと……」
(スマホのレンズを壁に近づける。そこには、数え切れないほどの印が、規則正しく書かれている。そして、坑道の奥で、『何か』が動いているのが見える)
タカ:「え、あ……。……あ、あああああ!」
(突如、坑道内に響き渡る『ジャラジャラジャラ!』という凄まじい音。それは小銭の音ではなく、巨大な鎖が引きずられるような音だった。その音に、何百人もの人間が低い声で『
タカ:「やめろ! 来るな! 来るな!」
(スマホが地面に落ちる。映像には、タカの背中が映っている。そのタカの体が、真っ暗な坑道の奥へと『目に見えない力』によって、猛烈な速度で引きずり込まれていく)
(タカの絶叫が遠ざかり、やがて無音になる。映像がノイズで乱れる中、目の前に、泥と金粉で汚れた『古い草履』がゆっくりと歩み寄ってくる)
(ブツリ、と映像が途切れる)
◇◇◇
鎖国みかん:「……この映像が、失踪したタカさんが最後に配信した映像です。しかし、視聴者から通報を受けた警察がこの付近の『金山跡』と思われる廃坑を捜索しましたが、映像にあったような『印』も、彼自身の遺留品も、一切発見されなかったそうです。では、タカさんが配信したあの映像は、一体何だったのでしょうか? そして、彼を連れ去った『何か』とは……」
ぜんだもん:「うぅ……とっても怖い配信動画だったのだ」
鎖国みかん:「そうね、ぜんだもん。実は、このタカさんの動画を解析した別の動画配信者がいたの。次はその人の動画を見てもらうわね」
◇◇◇
[ライブ配信映像:薄暗い自室。モニターの明かりに照らされた男の横顔]
男(ハンドルネーム:レン):
「……これ、みんな見落としてるよ。警察も、この動画を検証した都市伝説系の動画チャンネルも、全員節穴だ。タカさんが最後に映したあの壁の『印』……あれをただの鉱区記号だと思ってる」
ぜんだもん(声):「ちょっとこの人、僕たちのことを軽くディスってるんですけど?」
鎖国みかん(声):「落ち着いて、ぜんだもん。多分、私たちとは違う動画チャンネルのことよ」
レン:「僕は永田父子が甲州(山梨)に残した古文書の写しをAIで解析した。それでわかったんだけど、彼らが武田信玄から受け継いだのは、採掘技術だけじゃない。金山に潜む『ナニカ』を封じ込める、特殊な方術なんだ」
(レンは画面を指差しながら話を続ける)
レン:「見てくれ、これ。タカさんの映像を拡大して、コントラストを上げたものだ。壁に彫られた印……逆さまなんだ。金脈を示す記号が、意図的に上下逆に書かれている。これは『
[映像:数日後のライブ配信。レンの顔はひどくやつれ、目の下に隈ができている]
レン:「みんな聞いてくれ。……分かったんだ。全部繋がったよ。僕たちはとんでもない思い違いをしていたんだ。佐竹氏が朝鮮出兵のために用意したと言われる『軍用金』。あれは朝鮮出兵の後に用意したもので、中身も金塊なんかじゃなかった……」
(レンは視線を落としながら、話を続ける)
レン:「秀吉の命で大陸に渡った佐竹軍は、向こうから『得体の知れないもの』を持ち帰ってしまったんだ。兵士を人外の力で強化するのか、あるいは敵を呪い殺すためか……。でも、それは制御不能だった。だから、佐竹氏は秋田に転封される際、それをこの地の金山に『軍用金』という名目で封印したんだ」
(レンの声が徐々に震えていく)
レン:「徳川光圀が永田父子を呼んだのは、金が欲しかったからじゃない。『封印が解けかかっている』という報告を耳にしたからだ。永田父子の本当の任務は、金山開発を装った『封印の再構築』だったんだ。でも……タカさんが行ったあの場所。あそこは、封印の場所じゃない。おそらく、『排気口』だったんだ。常世から溢れ出す瘴気を、一箇所に溜め込まず、少しずつ現世へ逃がすための……。タカさんは、その排気口の蓋を開けてしまった」
(背後のクローゼットの扉が、数センチだけ『スッ……』と動く)
レン:「最近、部屋の中にいても、あの音が聞こえるんだ。小銭が擦れ合うような……いや、違う。あれは、人間の爪が、石の壁を引っ掻いている音だ。彼らは、まだあそこで待ってる。佐竹の殿様から『ここで軍用金を死守せよ』と命じられた、死ぬことも許されない兵士たちがね」
[映像:レンが最後に配信した動画]
(カメラは床に置かれ、天井を映している。部屋の電気は消えている)
レン:「視聴者の誰か、誰でもいい。これを見てるあなた、警察を呼んでくれ。今、玄関のチャイムが鳴った。モニターを見たら、誰もいない。でも、足元に……。ドアの隙間から、金粉の混じった泥が流れ込んできてるんだ。それと、……さっきからスマホに通知が止まらないんだ。心当たりのない番号から、一言だけメッセージが届き続けてる」
(カメラの近くにあるレンのスマホが光る。通知画面には「承知仕った」という文字が、画面を埋め尽くすほどの勢いで連続投稿されている。恐怖からか、レンが過呼吸気味になる)
レン:「はぁ、はぁ……。タカさんは、扉を開けちゃったんだ。そして、あいつらが現世に出てくるためにはもっと『生贄』が必要なんだ。光圀公が永田父子に命じて作らせた『封印』を解くための……」
(突如、ガタガタと部屋全体が激しく揺れ始める。録音機材がキーンという高いハウリング音を上げる中、クローゼットの扉が勢いよく開く。中から、真っ黒な『手』が何十本も伸び、レンの足首を掴む)
レン:「うわあああ! 離せ! 僕は、僕は何もしていないじゃないか! 助けて! 助けて誰か……!」
(レンの体は、突如現れた無数の手によって、クローゼットの中へと引きずり込まれていく。その瞬間、クローゼットの中から『ジャラリ……』という、重厚な金属音が響く)
(沈黙が続いた後、クローゼットの中から、一人の男が這い出してくる。それは行方不明になったはずのタカにそっくりだった。しかし、彼の目は白濁し、口からは絶え間なく金粉混じりの泥が溢れている)
タカのような男性:「……軍用金、千人分。あと……」
(男性がカメラに向かって手を伸ばした瞬間、映像は砂嵐に変わる)
◇◇◇
ぜんだもん:「ひぃぃ、これは放送事故級の動画なのだ。映ってはいけないものが映っていたのだ……」
鎖国みかん:「落ち着いてぜんだもん。このレンさんの行方は、現在もわかっていないの」
ぜんだもん:「レンさん、連れて行かれてしまったのだ……」
鎖国みかん:「この後、視聴者から通報を受けて彼の部屋を調査した警察は、クローゼットの中から『天正時代のものと思われる、数枚の古銭』と、壁一面に書かれた『逆印』を発見したそうよ。また、レンが最後に解析していたデータの中に、1600年代の永田父子の手記の断片が見つかっているの。そこには、こう記されていたわ。『この金山、掘るべからず。底に眠るは金に非ず。秀吉公が大陸より連れ帰りし、飢えたる戦鬼の群れなり』」
ぜんだもん:「そんな……金よりもヤバい『何か』がこの地には眠っていたってこと……?」
鎖国みかん:「そうかもしれないわね。だから、次回は実際にぜんだもんが現地に行って、何が眠っているのかを調査してきます」
ぜんだもん:「ちょっと待つのだ! そんな危険なところ、僕は絶対に行きたくないのだ!」
鎖国みかん:「……このチャンネルは誰のチャンネルなのかしら? 確か、
ぜんだもん:「……わかったよみかん。僕が行くのだ」
◇◇◇
【前注】
◆この映像記録は、所在不明となった、ぜんだ都市伝説調査班の動画を制作していた男性のパソコン等から回収された素材を使用して作成されたものである。
◆失踪した男性ディレクター工藤が残した未編集素材を、時系列に沿って再構成した。カメラが回っていない場面に関しては、彼が携帯していたと思われるボイスレコーダーの音声に会社内の防犯カメラの映像を合成して、動画に収録した。その他、一部視聴に堪えないノイズや、物理的に説明不可能な映像の乱れが含まれている。
[昼・制作会社 会議室/ボイスレコーダー音声に防犯カメラの映像を合成]
(蛍光灯のチカチカという不快なノイズが響く会議室。テーブルの上には、使い捨てのコーヒーカップと、付箋だらけの茨城県北部の地図、そして一人の男の顔写真が散らばっている)
上司:「歴史系動画配信者の失踪……次はこれでいこう、工藤君。今、この界隈が一番求めているネタだよ。『佐竹の埋蔵金』『神隠し』『呪われた未公開映像』……。これらのワードを並べるだけで、勝手に再生数が跳ね上がる」
(カメラの向こう側で、工藤が深く溜息をつく)
工藤:「確かに今、一部のネット界隈では話題になっていますが……。令和の時代に埋蔵金だなんて……」
上司:「令和だからこそだよ、工藤君。埋蔵金なんて、他の都市伝説系の動画ではまず取り上げないネタだろ? そこに勝ち筋があると僕は見ている。他の動画との差別化をしないと、このレッドオーシャンでは生き残れないからね」
(工藤が力なく苦笑している。その背後の窓の外、雲が太陽を遮り、会議室が一気に青白く沈んだ)
[制作会社の編集室でスタッフたちが資料映像を確認している/ボイスレコーダー音声に防犯カメラの映像を合成]
(画面の中では、歴史系の動画で知られる「タカ」という動画配信者が、坑道の中を探索している)
タカ:「……あれ? 壁に何か書いてある。これ、永田父子の印か? ……いや、似ているが、少し違う。これ、文字みたいだ。まるで、小さな子供が書いたような文字の印がびっしりと……」
(突如、映像に激しい横縞のノイズが走る。同時に、録音されているはずのない音がスピーカーから漏れ出す)
工藤:「ここ、音声を分離してくれ。ノイズじゃない。……カメラの正面方向から音がしている気がするんだ」
(編集スタッフが解析ソフトを使って、音声波形を視覚化して抽出する。分離した音声を聞いたスタッフが、弾かれたようにヘッドホンを投げ出した)
編集スタッフ:「……武士みたいな声で……『……承知……仕った……』と」
工藤:「……やはりそうか。ありがとう、作業を続けてくれ」
[現地調査:茨城県北部の山村/昼]
(冬枯れのシダ植物が道端を覆い、寒風が木々を鳴らす。手持ちカメラの揺れが、現場の緊張感を伝えている)
工藤:「ここはタカが最後にGPSログを途絶えさせた地点だ。地図上ではただの私有地だが、地元では古くから『
(工藤が、野良仕事中の老人に声をかける。老人の顔は逆光で黒く潰れ、深い皺だけが強調されている)
老人:「……帰りな。ここは、あんたみたいな人間が来る場所じゃねえ」
工藤:「少しだけでいいんです。この先に古い金山、あるいは坑道の跡があるという記録が──」
(老人はピタリと動きを止め、濁った眼を工藤に向ける)
老人:「今は九百九十を超えてる。あと少しだ。これ以上踏み込めば、あんたも、間違いなく取り込まれるぞ」
(老人はそれ以上何も答えず、まるで闇に溶けるように古びた民家の中へ消えていった)
[現地調査:資料館の閲覧室]
(カビ臭い古書の匂いが漂ってきそうな、静寂な空間。窓の外では雨が降り始めている)
司書:「水戸藩の公文書には、確かに佐竹氏の金山の捜索記録が残っています。ですが、不思議なことに調査隊は毎回『発見に至らず』と報告を打ち切っているんです。それも、数名の行方不明者を出した直後に──」
(司書が、震える手で一冊の和綴じ本を差し出す。永田父子の手記)
工藤:「『其は金脈に非ず。掘り当てたるは、常世の門なり。金《こがね》の光に目を焼かれし者、皆、門の守護を承知し、泥の武者と成り果てん……』」
(バチッ、という音と共に、閲覧室の照明が激しく明滅する。工藤の背後の影が、異常なほど長く伸び、まるで意思を持っているかのように壁を這い上がる)
[制作会社の編集室で資料映像を確認している/ボイスレコーダー音声に防犯カメラの映像を合成/夜]
(工藤がタカの友人であり、映像解析者だったレンの記録を確認している。動画の中のレンの部屋は電気が消されていて、モニターの明かりだけが、痩せこけた彼の顔を青白く照らしている)
レン:「……逆印の意味が分かった。あれは封印じゃない……『換気口』なんだ。常世から溢れ出す瘴気を、一箇所に溜め込まず、少しずつ現世へ逃がすための……。タカさんは、その排気口の蓋を開けてしまった」
(レンの背後のクローゼットが、ゆっくりと、数センチだけ開く。中には何も見えない。ただ、底知れない漆黒があるだけ)
レン:「……あ、足音がする。小銭を数える音が……。工藤さん、もしこれを見てるなら……もう遅い。あなたの足元にも……もう……」
工藤:「この動画、こんな内容だったか? それに何故、彼は俺の名前を呼んだ?」
(編集室の工藤は、その映像を凝視したまま動かない。そのとき、編集室の床下から、コツ……コツ……と、硬いものがコンクリートを叩く音が響いた。重機や空調の音ではない。明らかに、人間が下から這い上がろうとする音だった)
[編集室・深夜]
(時計の針は午前3時13分。工藤は一人、編集機に向かっている)
工藤(自撮り):「……スタッフの二人が今日、辞表も出さずに消えた。一人は昨日から『足首に鎖が絡まっている感覚がする』と言っていた。……馬鹿げている。だが、収録した音声データには、物理的にあり得ない現象が起きている」
(工藤が音声解析ソフトの波形モニターを拡大する。音のないはずのセクション。そこに、波形の粒子で形成された「顔」のような文様が浮かび上がっている)
イヤホンからの囁き:
『……御用……軍用金……承知……仕った……』
(工藤が狂ったようにヘッドホンを剥ぎ取り、カメラを掴む)
工藤:「……俺はもう一度現地へ行く。タカも、レンも、うちのスタッフも、みんなそこにいるはずだ。永田父子が命を賭けて封じ、そして今、開きかけている『門』の場所に」
[深夜:映像制作会社の編集室]
(時刻は深夜3時。工藤はカメラに向かって語りかけている。その背後のモニターには、これまでのタカとレンの失踪映像が静止画で映し出されている)
工藤:「……この映像を編集しているスタッフは、もう私一人になりました。編集スタッフたちは、最後にこう言っていました。『足元から小銭の音が聞こえる』と。これは呪いではありません。いわば、『徴兵』です」
(工藤はカメラをまっすぐ見据えながら、覚悟を決めたように話を続ける)
工藤:「佐竹氏が大陸から持ち帰った『戦鬼』……。永田父子が遺した真の手記によると、彼らは黄金を食らい、人の肉を糧にして増殖する、生きる生物兵器だった。光圀公はそれを隠蔽するために、金山そのものを『巨大な監獄』に作り変えた。しかし、封印には維持が必要なんです。あの場所には、戦鬼を鎮めるための『番人』が千人必要だった。江戸時代、水戸藩が何度も捜索隊を送り込み、その度に『発見に至らず(全員行方不明)』と処理されていた理由……。光圀公は、定期的に人を送り込んで、何らかの理由で足りなくなった番人を補充していたんだ」
[映像:豪雨の山中。工藤は一人で山道を登っている]
(手持ちカメラの映像。激しい雨音と、工藤の荒い呼吸だけが響く)
工藤:「……レンの解析通りなら、今の番人はもう限界だ。人数が足りなくなっている。だから、奴らは『埋蔵金』という餌をネットに撒いて、好奇心旺盛な現代人を呼び寄せた。タカさんも、レンも、私のスタッフも、みんな『千人』の勘定に入れられたんだ。私は……これから、永田父子が作成したとされる『真の封鎖地点』へ向かいます。私がそこを閉じれば、すべて終わる。……いや、終わらせなきゃいけないんだ」
[映像:坑道の最深部。不自然に広い円形の空間]
(壁一面が、黄金色に輝いている。この空間の中央には、泥に塗れた巨大な石の扉がある。扉の周りには、江戸時代の具足を着た死体と、現代の登山服を着た死体が、区別なく転がっている)
工藤:「……ひどい匂いだ。ここが……常世の門。……見てください。あそこに……」
(ライトが壁際を照らす。そこには、うつろな目で立ち尽くすタカとレンの姿があった。彼らは口々に何かをつぶやいている)
タカとレンの声:
「……承知……仕った……御用の……軍用金……」
(工藤が震える手で石扉の隙間に杭を打ち込む)
工藤:「これを……これを打ち込めば! 永田父子の法術が……!」
(工藤がハンマーを振り下ろそうとした瞬間、背後で『ジャラリ……』と大きな音が響く。振り返ると、そこには豪華な鎧を着た、首のない武士が立っていた。佐竹氏の家紋が入った鎧を着ているが、その体からは無数の『黒い手』が生え、黄金の泥を滴らせている)
工藤:「あ……ああ……」
(首なし武士の腹部にある大きな裂け目が、口のように開く。そこから聞こえてきたのは、失踪したはずの編集スタッフの声だった)
編集スタッフの声:
「工藤さん……遅いですよ。……あと少しなんです。あなたが来れば、九百九十八人。まもなく……達成するんです」
工藤:「……嘘だ。そんな……」
(工藤が持っていたカメラが叩き落とされる。カメラは地面を転がり、石扉の向こう側を映し出す。そこには、地平線の彼方まで続く、黄金色に光る『戦鬼の軍団』が、今か今かと解き放たれるのを待っている姿があった)
[映像:砂嵐の画面]
(数秒後、映像が回復する。場所は再び、工藤の編集室。しかし、誰もいない。デスクの上には、古びた一分銀が一枚だけ置かれている。しばらくして、画面外から、ドアをノックする音が聞こえる)
若い男の声:
「失礼します、工藤さん。頼まれてた資料、持ってきたんですけど……。あれ? 誰もいないのかな」
(男がデスクに近づき、カメラに気づく)
若い男:「……なんだ、これ? 録画回ったままだけど、大丈夫なのかな? ……お、これ銀貨じゃん。本物かな?」
(男が銀貨を手に取った瞬間、背後のクローゼットの隙間から、泥にまみれた工藤の手が伸びる)
工藤の声:「……九百九十九。……あと、一人……」
(男の短い悲鳴と共に、画面は完全に消失する)
◇◇◇
ぜんだもん:「ちょっと待つのだ。動画の中で、僕の中の人が大変なことになっているのだ……」
鎖国みかん:「あら、ぜんだもん。これはモキュメンタリーホラーよ。ドキュメンタリーに見せかけた、作りものの映像なの」
ぜんだもん:「……なんだ。あまりにリアルだったから、本物なのかと思って心配したのだ」
鎖国みかん:「……この動画は、所在不明となった工藤氏の所属していた映像制作会社から回収されたものです。現在、この「佐竹氏の軍用金」に関する動画は、特定のキーワードで検索すると誰でも閲覧できるようになっているの。動画を最後まで視聴したあなたのもとへ、まもなく「軍用金」を徴収しに兵士たちが現れるかもしれないわ。ね、ぜんだもん。いや、
ぜんだもん:「……承知、仕った」
この動画を検索するのは絶対にやめてください 安珠あんこ @ankouchan
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