「まんじゅうこわい」のお話ではありませんが、誰にでも怖いものがあります。
何かきっかけがあって怖くなったというものもあれば、わけもなく怖いというものもある。きっかけがあったとしてもそれを忘れてしまっているということもあるかもしれません。
本作はそんな、誰もがひとつは持っている「怖いもの」をテーマにした短編集。
まず驚かされるのは、その「怖いもの」の多彩さです。
「出血」や「ゴキブリ」といった定番のものから「駅」や「ラーメン」といった変わり種まで……「自分もこれが怖い!」と共感したり、「どうしてこれが怖いんだ?」と首を傾げたりしながら読んでいるうちに、物語に引きずりこまれていきます。「引きこまれていく」ではなく、あえて「引きずりこまれていく」といいたい!
さらにテイストも多彩で、殺人鬼ものや毒親ものもあれば、有名な伝説をもとにしたものまで。
また、「怖さ」の表現も「怖いもの」の表現も卓抜しており、自分が怖いものはますます怖く、怖くないものも怖く思われてくるのです。腕や背中がざわざわぞわぞわしてきて、思わずこすりたくなってしまいます。
「他人の不幸は蜜の味」ならぬ、「他人の恐怖は蜜の味」。バリエーション豊かで驚きに満ちた極上の恐怖の数々を、どうぞお愉しみください。
でも、愉しんでいたつもりがいつの間にか自分も恐怖に囚われていたということにならないよう、お気をつけくださいね。
この短編集にはそれだけの魔力がありますから。
私はホラーが大好きです。小説、映画、怪談…数千作は脳内にインプットしてきたと思います。そんな自分は、相当なことがない限り背筋がゾクゾクすることはないだろう。そう思っていました…でも違ったんです。どれだけホラーに触れようとも、「恐怖症」は治らない。心の奥底に眠る恐怖症を刺激されると、背中をゾワゾワが走ってしまうようです。
私は第4話の「出血」が、もう、視線を逸らしてしまうくらいゾワゾワしました…カフェで読んでいて周りの目があるにも関わらず体をくねらせて、ゾワゾワを振り解こうとしてしまいました…恐怖症に刺さりました…
本作を読むときっとどれかのお話が、あなたの恐怖症を撫でてくることでしょう。
この作品は
「恐怖症」という人間の原初的な感情を
日常の隙間に潜む
不気味なリアリティと共に描いた短編集です。
どの話も
派手な怪異や明確な〝恐怖の元〟を示さず
むしろ人間の心の奥底に巣食う
〝嫌悪〟〝不安〟〝生理的拒絶〟を
巧妙に掘り起こしています。
まさに──
嫌悪対象が自己同一化していく心理的ホラー。
感染の概念を通じて
〝見た者が壊れる〟現代的怪談
世代を越えて受け継がれる
恐怖の連鎖
命と身体の境界が崩壊する
生理的狂気——
いずれも静謐で淡々とした筆致の中に
狂気がじわりと滲み出ます。
恐怖を声高に語らず
読後に「ぞわり」と皮膚が逆立つ感覚を残す
洗練された現代怪談集──⋯
本作でテーマとなるのは「恐怖症」。有名なものとしては高所恐怖症や閉所恐怖症、先端恐怖症などがありますが、本作で取り扱われるのは芋虫、蓮コラ(=集合体)、駅。
昆虫がお嫌いな方、多いかもしれません。ですが僕は幼い頃から昆虫採集をしまくる子供時代を過ごしてきました。なので比較的虫には強い……はずでした。
しかし第1話の「芋虫」を読んで自己評価はあっさりと覆ってしまいました。主人公の内面描写を読んでいると、それはもうめっちゃ怖くなってきます。いやーこれは気色悪い(褒め言葉)。
第2話の「蓮コラ」は結構有名な集合体恐怖症。これはもともと僕も苦手なやつなのですが、本話もしっかりと気色悪かったです(褒め言葉・再)。
第3話の「駅」はあまりイメージがつかない状態で読み始めました。
「駅が怖いってどういうこと?」と。
読み進めていくと「なるほど」と納得させられるとともに、読後感はちゃんとホラーしてました。
3話とも背筋に圧倒的なゾクゾク感を残します。作者様のリアルな描写力の賜物だと感じました。
(第3話まで拝読した感想)