第1話
一学期の始まりと同時に大阪から東京へ転校してきて三週間。
小学六年の修司は、いつも昼休みが憂鬱だった。
クラスの男子連中は、給食を食べ終わるや否やボールを持って我先にと校庭に飛んでいくというのに。そしてワーワー大声を張りあげ、午前中の授業で座りっぱなしだった体をここぞとばかりに動かして、あり余った力を発散させているというのに。
自分は毎日、飼育委員として校庭の隅っこのウサギ小屋に向かわなくてはいけない。
いや、べつにウサギの世話をするのが嫌なのではなくて。
小屋の主ともいえるパンダ模様のピイちゃんは、この小学校で飼われているただ一羽きりのウサギで、丸まったときなんか大福みたいでとても可愛い。慣れない場所で小学校生活の残り一年を過ごすことになった修司にとって、心を癒やしてくれるオアシス的存在ともいえる。
問題は、飼育委員の相棒にある。
気怠い動作で小屋を囲む金網フェンスの扉を開けて入ると、相棒は、すでに到着して竹箒で小屋内の地面を掃いていた。真っ黒くて裾の広がったワンピースを着た、黒髪ロングの少女。
(やっぱ、ホウキとセットやと魔女っぽい)
「もう矢神がほとんど掃いてくれてるやん。悪いなぁ、遅くなって」
恐る恐る、影そのもののようにダークな後ろ姿に声をかける。
「いいえ、問題ないわ。給食を食べ終えるのが人より早いのは、幼稚園のときからなの。女子である私より遅かったからといって、別段気に病むことはないわ」
(……べつに、そこは気にしてへんけど)
ふり返った顔は、眉のあたりでまっすぐ切りそろえられた前髪、切れ長の目、人形のように白い頬、スッと通った鼻筋、小さな口――と整っていて和顔の美少女といえるけれど、眼差しというか眼力が異様に強くてちょっと近づきがたい。
言うとおり矢神は細いわりによく食べるようで、給食の時間が始まって間もなくの時点で、それこそ魔法のように彼女の皿は空になっている。そして誰と喋ることもなく毎回ウサギ小屋に直行し飼育委員の仕事に取りかかっているらしく、なかなかのプロ意識の持ち主だ。友達がいないという解釈もできるが。
矢神アヤメ。
いつも昼休みを共に過ごすこの相棒が、少し苦手だ。
理由のひとつとして、まず見た目のインパクトが強すぎる。
なんせ全身が黒い。おそらくゴスロリというやつや、と修司は考える。
ゲームやアニメの女キャラがしているのしか見たことないような「なんかわからんがとにかく凄い服」をいつも着て登校してくる。スカートの裾がやけに広がっていて、袖と裾にはいやに本格的で繊細なフリル。所々に、細い光沢あるリボン。少なくとも絶対にユニクロやヨーカドー――母が買ってくる修司のワードローブを扱う店――には売ってないだろう代物。作りの上等なもののようで、ガーリーファッションと呼んでは憚られる謎の歴史感と重厚感がある。
そんな漆黒ドレス姿の、年齢のわりに長身な少女がランドセルを背負って通学路を歩く姿は、きっと道行く人々の視線を毎朝暴力的に奪っていることだろう。
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