ささやかだけど、たしかなひかり
砂川緑
プロローグ
金曜の夜、久々に地下鉄に乗り繁華街へと向かう。
午後六時四十五分、車内では遊び帰りらしきブレザーの高校生や、会社帰りのスーツ姿がちらほら座り、めいめいスマホを弄ったり週刊誌のページを捲ったり、うつらうつら舟を漕いだりしている。窓外の闇に俯いた人々の顔が反映されて並んで浮かび、それらは照明の加減でやけに疲労感を増して見える。
そんななか、丹羽(にわ) 修司は、なにをするでもなく座席にかけてぼんやりしていた。
(めんどいなぁ……)
正面の窓ガラスの呆けたような顔をした男と不意に目が合って、慌てて半開きだった口を閉じ、よれたシャツの襟をちょっと正す。ここしばらく仕事で寝不足なのだ。
駅から徒歩五分のダイニングバーで今夜、合コンがある。仕事の付き合いの延長上のようなもので、同業界の世話になっている知り合いに誘われ断りづらかった。
二十五才。
まわりの同年代の男が持つ出会いにかける貪欲さのようなものが欠けてるみたいだと、一応自覚はある。
次の駅に停車し扉が開いたとき、睡魔に襲われかかっていた目が突如冴えた。
駅のベンチに、子供が二人座っていた。十二、三才くらいの少年と少女。習い事かなにかの帰りなのか、揃いの鞄を膝の上に載せている。
少女は、かなり長くて、まっすぐな髪をしていた。
扉が閉まり、再び車両が動き出す。
今見た光景をふり払いたくて、取って付けたような動作でポケットからスマホを取り出し、画面に目を落とした。
(合コン前に“トラウマ”に遭遇するとか……)
望んで参加するものではないにしろ、これはさい先がよくない。
頭をよぎったのは、腰までの艶やかな黒髪をもつ女の子。未だ、ことあるごとに瞼の裏に再生される、綺麗な切れ長の目を細めた笑顔。
そのたびに自動的に蘇る小学校のウサギ小屋で過ごした、あの時間。――きっと世界にはキラキラしたものが溢れてるんだと馬鹿みたいに思っていた――あのときの自分。
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