恋煩い

恋なんて、もっと先の話だと思っていた。だから彼を見ると胸が跳ねる理由を、私はまだ認めたくなかった。気づかれたくなくて、挨拶以外はつい嫌味ばかり言ってしまう。後悔して、また明日こそ普通にしようと思う。

私はただのクラスメイト。


帰り道で彼と会うことなんて滅多にないのに、その日は偶然だった。

「今から帰んの?」

「そうだけど」

そんな会話だけで嬉しくなる自分が悔しい。普通に、普通に、と自分に言い聞かせる。他愛もない話をしている中、彼は私に火を点ける。


「俺気になるやついるんだけどさ、お前仲良さそうだから紹介してよ」


彼が火を点けたのは火薬庫だ。どう帰ったのかも分からないくらいに私にとっては大事故だ。

布団に入っても頭は煙たくて、鎮火の様子はない。


また今日も彼に会った。「偶然」。

「ごめんね。好きだよ、鈴木のこと」

夕陽が熱くて目に痛い。熱かったから足早に帰った。痛かったから彼の顔は見なかった。


夕陽が沈んだ。火薬庫はまだ鎮火の様子はない。

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明日を忘れた喫茶店 平沢哉太 @kanata_hira_1499

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