土曜 君の姿

『今日お昼過ぎ、〇〇ビルで火災が発生しました。この火災により、現在二十二歳無職、佐藤謙一郎さんと連絡がつかなくなっており──』


◆◆◆

 いつもの時間、いつもの場所。でもここに、君はいない。

 聞こえるのは水が風に吹かれる音と、木のさえずりと、スマホの動画投稿サイトのチャンネルで流れる県内ニュースの音声のみ。


 どうして?

 火災のビルってもしかして、面接の場所?

 ──いや、きっと聞き間違い。テレビのニュースも聞き間違いだよ。

 スマホの画面を数十秒巻き戻し、同じニュースを聞く。


『今日お昼過ぎ、〇〇ビルで火災が発生しました。この火災により、現在二十二歳無職、佐藤謙一郎さんと連絡がつかなくなっており──』


 嘘だよ。

 嘘だと言ってよ。

 なんで前に進もうとした矢先に、謙一郎くんがこんなことに巻き込まれなきゃいけないの?

 嘘だろうな。同姓同名だろうな。そう思ったから、私は今日もここに来たんだよ?

 ここに来たら、会えるって思っていたから。


 そうだ電話!

 ニュースは速報以外過去の情報。だから電話すれば、もしかしたら繋がるかもしれない!

 画面を変えて、えっと、謙一郎くんのケー番はどこだっけかな、

 あ、交換してなかった……。

 もしかして……?

 メールとラインと、スマホの全てのSNSアカウントを開いて探してみる。

 だけど、どの連絡先も、どのアカウントも知らなかった。


 じゃあいっそ家に行こう!

 ……あれ、謙一郎くんの家って、どこなんだろう?


 私は彼のことを知っているような気持ちになっていたが、何も知らなかったんだな。


 もしも私が謙一郎くんに、働くように言わなかったら。

 謙一郎くんが私と会うことがなかったら。謙一郎くんをただのチャラそうな人だと思って逃げていれば。


 謙一郎くんは、死ぬことはなかった、よね……


 ……なにも考えたくなくて、コンビニに寄ってから帰ることにした。

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2026年1月11日 06:30

死にたいエルフと生きたい人間の一週間 板谷空炉 @Scallops_Itaya

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