金曜 「らしくない」
いつもと同じ時間、同じ場所。違うところは晴れていることと、謙一郎くんが暗い表情をしていることだ。
「ハナさん。俺、面接受かるかな? 受かったとしても、またブラック企業じゃないといいんだけど……」
髪はボサボサ、目は虚ろ、不安と緊張を押し殺せないようだった。
「面接練習とかしたんですか?」
何もしていないのなら、さすがにちょっとなとは思ってしまうけれど。どうなんだろう?
「面接の予定を入れた日からずっとハローワーク行ったりして、履歴書の添削や、面接練習をしてもらった。無理な時は、仕事が休みの友人を探して、面接練習してもらった。だから何もしていないわけじゃない」
「……そう」
だったら、何もしていないわけじゃない。謙一郎くんなりに頑張ったんだろうな。
謙一郎くん‶らしくない〟と言ったらそれまで。
でも誰だって、‶らしくない〟状態になることはある。だから私は、‶らしくない〟っていう言葉なんて掛けられない。
この一週間、謙一郎くんにはたくさん励ましてもらっていた。
年上なのに不甲斐ないと思ったこともあったけど、元気が出たのも事実。
元気が出るかはわからないけれど、私なりの元気をあげたい!
大きく息を吸って……
「謙一郎くん!」
「え!? ハナさん!?」
謙一郎くんが過去最高の驚き顔をしている。
「やったなら大丈夫です!! なので、明日は、思いっきり挑んできてくださいっ!」
息が切れる。こんなに声を出したなんて、久し振りだ。
「ふっ、あははははは! 待ってハナさん、そんな大声出たの? なんかギャップというか、面白いというか、最っ高!」
謙一郎くんはまだ笑っている。ずっとツボにはまっているようだ。でも笑われている、って、
「──謙一郎くん。私のこと馬鹿にしてますか?」
彼のことをじっと見る。
「いやそんなことはな、っっはははははは!!! まって脇腹いたい……っはは、ゼェ、ハァ……」
完全に馬鹿にされてるなこれ。
「でもさあハナさん……」
謙一郎くんが涙を拭きながら言った。
「おかげで不安消えたよ。本当にありがとう!」
「──!」
謙一郎くんが笑った。
春の風に吹かれて、未来に向かって進もうとしている。そんな彼が、美しく見えた。
……なんて、そんなこと言えないけどね。
「‶らしくなった〟んじゃない?」
私も彼に向かって微笑む。
「ハナさんもね」
お互い、顔を見合わせる。
「……っつ、」
「「あっははははは!」」
深夜に迷惑かもしれない。けれど、一緒に笑うのは幸せだった。
明日もまたここに来よう。そして面接がどうだったのかも聞いて、一緒に遅くまでやっているお店に行って、美味しいものを食べよう。
◆◆◆
美味しいものを食べたり、それができなくても一緒に話す。
謙一郎くんに会えるこの日々が、「当たり前」になろうとしていた。
……なると、思っていた。
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