第4話 妹の私としての兄

うちの兄は。

私の兄としては、ちっとも優秀ではなかった。


うちの兄は。

両親の息子としては、

社会人としては、

誰かの友達としては、優秀だったのに、

私にとっては、全く優秀ではなかった。

いいや、兄にとって、私は、全く優秀ではなかった。


両親からの、外の世界からの、新しい世界からの、

良い評判を聞く度に、

化けの皮を剥いだ、そのまごうことなき本性を、

その人たちの前で、思い切り

ぶちまけてやりたいと思った。


彼は。妹に、

兄は、私に、私にだけ、

「女のくせに」といった暴言を吐いたり、

不機嫌になったらたちまち、ドアや机といった周りのものに当たり散らしたりして、

精神的DVを繰り返した。


そうだ。

決して体に残らない、精神的DVを選んだ。

狡猾だなと、思った。頭がいいから。


両親は、私のことを愛していないわけでは、決してなかった。

私のことを確実に愛していた。


だけど、両親に、外の世界の住人に、新しい世界の人々に、

どんだけ、訴えたとしても、

誰も聞く耳はもたなかった。

いいや、もっていた。でも、

「そんなことをする人じゃないないだろう? 君の兄は」と、

皆が口を揃えて言った。


悔しかった。


私は、

問題児ではなかったし、

成績も優秀だったし、

部活は、兄と同じように、決して長続きはしなかったけれど、

入部費用と、装備費用を人より多く払って貰って、

その分、悔しいことに、全てを無駄にしてしまったけれど、

何故、兄は1度も咎められず、私は咎められる。

何故、兄は良くて、私は駄目なんだ。


「色々なことを経験することも、人生のなかでは大事よ、

これからも沢山のことに挑戦して生きなさい」

と、

「1つの活動に決めずに、いつまでもフラフラ、本当に長続きしないわね、

本当、どれだけのお金が必要なのかしら、うち、そんなにお金持ちでもないのにね」

との、

違いは何だ?


兄には、どの分野においても、1度も及ばなかったけれど、

それでも、不良なんかじゃ決してなかったのに。

あんな奴らとは、全く違う、私は、優秀な人間だったのに。


(あいつらは、長男が、大事なんだ。)


気がつくと、そんな考えが、頭を支配していた。

同時に、自分のプライドが、こんなにも肥大化していたことを、その時、認識した。

私は、大きなこのプライドが傷つけられた。

大きな大きな、決して誰にも見えない、

でも顔の皮膚からは無意識のうちに滲み出て、

脳の制御を超えて、表情をつくっていた、

このプライドが傷つけられて、ショックだったんだ。


自分の心の有り様を、奴らの、文字通りに突き出して、

見せつけることができたなら、どれほど良かったか。


私自身にも見えない、私の心の有り様は、一体どうなっている?


よくありそうな、

文字通り、♡《ハート》の形をした、

本来は心臓を思わせるような、赤色やピンク色だった物体が

黒ずんでいる?

それとも、手にもってみたら、

その物体の向こう側にある、自分の人差し指と中指が透けて見えるほど、

中身が空っぽになっていて、

あと少しでも、指を動かしたら、無数のガラスの破片を生み出してしまうような、

今にも割れそうなガラスの容器となっている?

そこに入っている無数のヒビが、

兄に罵られるたび、両親に、他人に無視されるたび、

増えて、大きくなっていって、

最終的に、私は消滅する?


学校でも、勤務先でも、家でも、彼は良い息子だった。

でも、決して良い兄ではなかった。

周りがどんだけ、

「良い、素敵な兄をもったね、幸せだね」と言おうが、

私にとっては。


そんな彼は、

うちの兄は、

うちの息子としては完璧だった。

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うちの兄は MaxChieeef @mikadukirui

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