第3話 友達としての兄

うちの兄は、

そんなに友達が多い方ではなかった。

学生時代、どの部活も長続きはしなかったし、

社会人になってからも、親友と呼べる友達は1人もいなかった。

でも、友達があまり多くなくても、

その中で、特に信頼していた人はいた。

時々贈り物を交換し合い、楽しい時間を過ごした。

それで良かった。

彼は、満たされていた。はず。

だから、友達づきあいも、優秀だった。


彼は、とても運動に長けていた。

だから、どの部活に入っても、サークルに入っても、技術面での苦労はしなかった。

ただ、友達づきあいでの、苦労はした。


だから、技術的に優れている優秀な選手として、

各コーチに毎度引き留められても、

彼は、退部することを1度も考え直したことはなかった。

そして、毎度、コーチたちに、明らかに、

「もったいない、チームのことを考えない、とんだ自己中心的野郎だ」

と、でも言いたげな顔をされるだけで、彼の心の内を理解できる者は現れなかった。

彼の意思は、いつも1度決めたら、堅かった。

ただ、その真意に気がつくことのできる先生は、

残念ながら、今回の人生のなかでは、現れなかった。


彼にとっては、部活における技術面での優秀さよりも、

仲間に理由も分からずに、僻まれる方が苦痛であった。

誰が、技術面での優秀さを、1度でも願ったというのだろうか。

ただ、もって生まれてきただけであるというのに。


両親は、彼を心配した。

でも、彼は、いつも

「大丈夫」

だと、言った。


両親は、彼を大事にしていた。


そんな彼は、

うちの兄は、

うちの息子としては完璧だった。

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