第5話


 さて、冒険者ギルドパトレア支部ギルドマスターニコラスとの激闘の末、冒険者ライセンスを勝ち取ったロア。


 今日は、早速依頼を受けてみようと思い、ギルドの依頼掲示板を眺めているのだが……。何やら周りからの視線が痛い。


 視線の原因は、何となく察しは付く。


 (こんな子供が冒険者になっちゃったから……きっと心配なんだろうなぁ)


 脳裏に思い浮かぶのは、つい昨日出会った強面三人衆の冒険者たちと、ギルドマスターのニコラス。

 強面たちは筋骨隆々だし、ニコラスは仏頂面だが、あれでも冒険者としてはきっとベテランなのだろう。だからこそ子供姿のロアに対し色々と心配する素振りをしていたのだ。まぁどちらも少し遠回りな言い方で分かりにくかったが。


 (うんうん、分かるよ〜その気持ち……。俺だって小さな陛下が木剣を持ってやんちゃしてたときは、本当にヒヤヒヤしたもん……色んな意味で)


 あんなに手のつけられなかった子供が今では一国の統治者に……。陛下も立派になったものだと感慨にふけりながら、我ながら親馬鹿もいいところだと苦笑する。まぁ、幼少から面倒を見てきた身としては自称くらいは名乗ってもいいだろう。


 ちなみに、実際には――冒険者たちはロアの心配こそ多少はしつつも、本意はそこではなかった。

 ギルドマスターの認めた"ギルド史上初の最年少冒険者"、一体どれ程の実力を持っているのか、皆興味津々であったのだが、ロアがそれに気づくことはなかった。



「ん、大体この辺りかな」


 ロアは、D級冒険者用の掲示板に貼られてあった数枚の依頼書を手に取った。

 一枚目は回復薬の材料となる『パピルス草の採取』、二枚目は迷宮の上層にいるらしい『ゴブリン退治』、三枚目は、迷宮内で発掘されるらしい『古文書・遺物の回収作業(ただし破損厳禁)』と、書かれているものに目を通す。


「街を出る準備のためにも、出来ればすぐに稼げる依頼がいいんだけどなぁ……、となると三つ目の『古文書・遺物回収』か」


 他二つの依頼と比べて、報酬に振り幅があり定まった金額を提示していないのが三つ目の依頼だ。

 書かれている報酬金額は最低金額の銀貨一枚から銀貨五十枚、一般市民の一ヶ月分の給料が大体銀貨二十枚程度だとすると、なんと二倍以上となる。


「ん、これにするか」


 三つ目の依頼書を持って受付まで向かうと、受付嬢のミランダが『えっ』と声を漏らした。


「その……本当にいいんですか?」

「……?はい」

「い、いえ!こちらの依頼はあまり人気がなくて」


 あー……確か要項に『破損厳禁』って書いてあったな、結構選別が厳しかったりするのだろうか?

 いやでも、銀貨五十枚と比べたらそのくらいの手間は妥協しよう。うん。

 

「そうなんですね!僕はあまり依頼内容を気にする方ではないので大丈夫ですよ」

「そ、そうですか」


 ミランダは一瞬だけ困ったように視線を彷徨わせたが、直ぐに表情を切り替えて、目の前の依頼書に判を押した。


「では、こちらの依頼を受理します。期限は明日の朝まで、報酬は依頼書に書かれた通りです」

「はい、行ってきます」


 手を振るミランダを背に、ロアはギルドを後にした。


 

 そして目指すは迷宮!!


 (針山の罠に、炎のブレスを噴くドラゴン像……楽しみだなぁ〜)


 因みに、ロアは『迷宮』というものを知識として知ってはいるが、行ったことも見たことすらない。


 針山の罠も、炎のブレスを噴くドラゴン像も、ただのロアの勝手な偏見である。

 

 


 ーーーー


 ――その頃、ロアの向かっていた『封石の迷宮』では。


「結構下層まで潜ってしまったけれど、大丈夫かしら……?」

 

 神官服に身を包んだ少女が、不安げに呟く。

 

「ダイジョブだよ〜下層って言ってもこの迷宮はDランクでしょ?」

「そうそう、Cランクの……もうすぐBランクパーティに昇格する俺たちなら問題ないさ」

 

 一方、前を歩く弓兵の少女と剣士の少年は、神官の不安など意に介した様子もなく、軽い調子で言葉を返した。

 その態度に緊張感などない、むしろ経験からくる自信と、少しの楽観が混じりあっているようだった。


「はぁ……そんな根拠の無い言葉を聞いてもシエラの不安は拭えませんよ?」

「ビビりな魔法使いがまた何か言ってるぞ〜、素直に僕も怖いって言えばいいのに……」

「な……っ、あなたはほんっとうに失礼な剣士ですね!」


 灰色髪のローブを着た魔法使いの少年は、顔を真っ赤にして、剣士の少年に詰め寄った。神官と弓兵の少女は、やれやれまたか……と呆れた様子で首を振った。


 「ん……?ねぇ、みんな!あっちに何かおっきな扉があるんだけどー」

 「は?おっきな扉?」


 剣士と魔法使いの少年たちも痴話喧嘩をやめて弓兵の少女の元へと向かう。


 そこには、一枚の巨大な扉が鎮座していた。

 厚い石版を幾重にも重ねたような造りをしており、風化した表面には古い紋様が刻まれている。

 立ち姿はさながら要塞のよう。容易には踏み込ませないような重厚な重みと圧倒的な存在感を放ち、それは四人の前に立ちはだかっていた。


 「念の為聞くけれど……引き返す?」

 「……分かりきったことだろ、俺は行く」

 「そうよね、分かりきったことだったわ」


 剣士の少年は、扉に手の平をくっつけると、グッと力を込める。

 ギィィィー……と軋むような音を立てながら、扉は開かれた。


「ここは……」


 扉の向こうに広がっていたのは、まるでコロッセオのような円形状の空間だった。

 一見すると小さな洞窟にも思えるが、周囲を見渡せばその奥行と高さは想像以上だと思い知らされる。

 そして、その空間の中心部には、異質な存在感を放つ小さな祭壇がひっそりと佇んでいた。黒い表紙をした古びた魔導書が、まるで祀られるようにして、祭壇の上にふわりと宙に浮かんでいる。


 ふと、ペラリと魔導書のページが開かれた。


 魔導書から魔法陣が展開され、人型をした何かが姿を表す。

 

「こいつは、何だ……?」

「アンデット系に似た気配は感じますが……」

「アンデットって物理攻撃聞いたっけ……?」


 


「いえ、普通のアンデットではないわ……この魔力密度、上位個体の可能性があるわよ」


  

 迷宮の空気が、はっきりと敵意を帯びた気がした。

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軍師無双〜皇帝の忠臣は幼児化しても最強です〜 ときたぽん @To_dashi_maki02

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