ラスボス戦でうんこ漏らしそうな勇者(3/3)

 ―――この理論が、ラスボスにも適用されるのだとしたら? 


 姫の首根っこ掴んで、ラスボスのいるフィールドから逃げ出すことが《撃破》の文字を出す勝利条件だとしたら......?


 俺はどさくさに紛れてお手洗いへ向かうことができるだろう。迷っている暇はない。今すぐに実行しなければ。


 たしか、ラスボスは戦闘の前にこう言っていた。


 ―――姫は最上階の東にある部屋に入れてある……まあ場所が分かったところで意味はないだろうがな―――と。


 いま、俺たちがいるのは最上階。


 よし、条件は揃った。


 姫を呼んではみたものの、彼女の方から出てくることはまずないだろう。分かってたけど。じゃあ俺から行ってやろう。


 ありがとうラスボス。俺は絶対に諦めない。


 姫を助け、ついでに自身の名誉も守る。そしてバグによりポリゴン単位で服が全部消失した状態で戦う僧侶の名誉も守る。



「みんなッ! 数秒だけラスボスを抑えてくれないかッ!?」



 俺の意図を察したであろうパーティの仲間たちが、雄叫びをあげた。



「了解だ! ラスボスにとどめをさすため、あの技を発動するんだなッ!?」


「了解よ! ラスボスに目くらましをするため、あの技を発動するのねッ!?」


「了解しました! ラスボスにだって人の心はある......それを信じてみるというあなたを私も信じますッ!」


「了解! ラスボスの首もとにあるあのペンダント......あそこが弱点なのですねッ!?」



 う......うん。うんそうそう!


 メディアのカメラが、じりっと俺たちに近づく。見られている。


 俺の指示に合わせ、ラスボスに一斉に飛び掛かる仲間たち。ラスボスの通常攻撃は、鍛え上げた俺たちの体力ゲージでさえ、その三割ほどを抉り取る。


 彼らだって、あと二、三回攻撃を喰らえば命を落とす危険だってあるのに......すまん、みんなありがとうッ!



「スキル発動……!」



 次の瞬間、レベル五十八で覚える突進技ソニックが俺の剣を緑色に輝かせた。この技は、持ち主の身体能力に依存せず、剣が半ば意思を持ったように使用者のしたい動きをアシストしてくれる。


 俺のお尻はすでに限界で、足はがくついている。他の突進技は、やはり使用者自身の踏み込みや体力が必要なので、もはやこの技を出す以外には万策尽きたり、ということなのである。



「ハァァァァァァァァァァッ!」



 俺の掛け声に合わせて、剣が一層激しく輝いた。


 ラスボスの発言によれば、姫のいる部屋はラスボスの背後あたりにあるはずだ。その部分の壁を、この突進技でぶちぬく。


 しかし、ボス戦の途中で構造物ーーーすなわちボス部屋を破壊することなどできるのだろうか。


 いや、そんなことを考えている場合じゃない。もうやるしかないんだ。というかもう発動途中の突進技のキャンセルはできない。


 姫を助けて、最高のエンディング画面を迎えるッーーー!



「うおおおおおおおおおおお!」


「来い!勇者よ。終わりにしよう!」



 一際強く瞬いた俺の《ソニック》は、ラスボスの背後にある壁へ流星もびっくりの軌道を描いて真っ直ぐに向かっていった。


 魔王も俺の動きに合わせて魔王専用スキル《バースト9+》を発動。地面を蹴ってからわずか一秒で、五十メートル先にいたはずのラスボスの左頬を剣先がわずかに掠めた―――ラスボスの体力をほんのわずか削り取った―――次の瞬間。


 俺の剣は、狙い通りの位置に炸裂し、その部分の壁面を綺麗に穿ったのだった。



「うおおおおおおおおッ......姫ッ!? いるかッ!? いるのかッ!?」



 穿ったことで発生した空間。


 ―――そこには、ピンクを基調とした可愛らしい部屋があった。



「ん......? え......?」


 

 俺は声も出なかった。

 その部屋は......その部屋には......



「ト、トイレ......?」



 こぢんまりとした、お手洗い空間があった。


 振り返ると......仲間たちに滅多打ちにされるラスボスの姿と―――


 ―――俺にしか分からないほど、かすかに微笑む諸悪の根源の姿があった。見間違いではない。俺を見て、微笑んでいる。


 俺は、ラスボスの微笑みと現れたトイレを見て、全てを理解した。



「そ......そういうことだったのかッ......」



おそらく、ラスボスは気づいていたのだ。


 ―――俺のお尻が、すでに限界であったことを。


 思い返してみれば、ラスボスの城......七十階建てというタワマンもびっくりの要塞へ潜入したときにも、その兆候はあった。


 ラスボスは俺たち勇者パーティに、城の入り口でこう言った。



「ついに来たか。勇者パーティ。―――俺は、お前のことを誰よりも知っている」



 あのセリフは......俺たちの磨いてきたスキルや、作戦などを把握しているという意味ありげな発言なのだと、俺たち五人はそう思っていた。


 違ったのだ。



 あの時......



 腹痛でトイレに行きたい、ということをパーティに言い出せなかった俺に―――


 ラスボスだけは、気づいていたのだ。

それで、俺が最終的に姫を助けて《エンディング画面》を出現させるという作戦に出ることも見越して、トイレの位置を、姫のいる位置として俺にそれとなく伝えた......



「くっ......!」



 俺は、声にならない叫びを漏らしながら電熱加工の施された便座に座った。お尻に朗らかな陽気が差し込んでくるような―――


 ―――その暖かさは、まるで。



「勇者ッ! ラスボスを倒したぞッ!」


「勇者ッ! ラスボスを倒したわッ!」


「勇者よッ! ラスボスを倒しましたよッ!」


「うわあああ僧侶早く服着ろよ!」



 扉の向こうから、みんなの声が聞こえる。



 本当の勇者とは―――



 ラスボス、お前の方だったのかもしれないな。


 するべきこと(うんこ)を終えた俺は、みんなの元へ向かうべく、トイレを出ることにした。



「さてと......紙はどこだ。 ん? あれ? え? 紙は?」



 俺はそこで気づいた。

 ラスボスはやはりラスボスであるということに。

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魔王とか勇者とか姫とかが出てくる掌編れくいえむ りんごが好きです(爆音) @pizzasuki

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