滲むタコ焼き
沙華やや子
滲むタコ焼き
(今日はダーリンとお家デート。タコパするんだ~!)
(お粉と出汁に玉子を混ぜ、タコを切り、紅ショウガにおネギ。天かすに……とろけるチーズも入れちゃうぞ!)
はりきっているが、今日の紅には気がかりが1つだけある。
それは、いつもメインで使っている24個いっぺんに焼けるタコ焼き焼き機が壊れてしまっていて、穴が15個の機械を使うということ。
別にそんなこと~、と笑われそうだが、紅はくいしんぼうなのだ。
ダーリンがタコ焼きを竹串でダーリンの小皿に持って行く時、自分は残念がるんじゃないか、その気配をダーリンに感じ取られたら、卑しい紅ちゃんと想われそうで恥ずかしい……と、緊張しているのだ。
ポニーテールにピンクのフリルのエプロン。紅は今、明るく愛らしい恰好をしているが、ハートの中はタコが吐いたスミのように黒く曇りがち。
ピンポーン♪
「あ!
「ただいま~、紅! ちゅ♡」
「うふふ」
チューで表情華やぐ紅は、キッチンへダーリン庸介と手を繋いで行き、パッとスペアタコ焼き焼き機の15個の穴を見た。その瞬間顔色が変わった。
「どうしたの? 紅? タコ焼きの準備で疲れちゃったかな?」
「う、ううん。大丈夫、なんでもない!」
*
(さあ、タコパ……開始! 穴! 15個! 15個……!)
泣きそうな紅。
ここは東京だが、紅は大阪暮らしが長かった。タコ焼き奉行は紅だ。
それはそれで、気が重い紅。
(あたしは、自分の小皿に容易にいい塩梅に焼けたタコ焼きを放り込める。タコ焼きの美味しさに夢中になった場合、ダーリンそっちのけで、タコ焼きを独り占めしかねないかな……心配)
「紅? なんだかさっきからおかしいよ。具合が悪いのならオレが焼くから任せておいて、ね!」
(それはそれでいや! いつもより穴の数が少ないと言えども……庸介があたしほど上手に、ぜんぶ焼けるかな?)
疑り深い女だ。
けれども、紅は、タコ焼き焼き機の穴の数がいつもより9個少ないことが原因で、マジで眩暈を起こしフラッとした。
「紅?! 紅っ、大丈夫!? とりあえず、タコ焼き焼き機の火を止めよう」
「う……うん」
紅は庸介に介抱されつつベッドまで歩いて行った。
シクシク……。なんと、紅が突っ伏し泣き始めた。
(タ……タコ焼き焼き機、15個の穴が嫌!)悲しみが止まらない。
「体が辛いの? 紅、かわいそうに。風邪でも引いちゃったのかな……どんな感じ? のどは痛くない?」
……。ハッとして、紅は庸介ダーリンに抱きついた!
「うわぁああああ――――んっ!」
ギャン泣きだ。
紅は……紅は気づいた。
(何にも恥ずかしくなんかない。庸介にタコ焼きを取られることを気にしてるって気づかれても、おなかの音やつばを飲み込む音を聞かれても。ダーリン庸介になら恥ずかしくないんだ!)と素直に感じられ、涙は安堵の涙となった。
そうして紅は何もかもを打ち明けた。ダーリン庸介に。大爆笑されること覚悟で。自分の食い意地を恥じていたことを。
庸介は一つも笑ったりしなかった。
「優しいんだね、紅。紅は細やかで素敵だよ」と言いつつ頭を撫でてくれた。
もう、『穴15個』なんて怖くない!
タコパ再開。
でも、ジャンジャン紅が己の小皿に良いやつを持って行き、庸介はあんまり食べられなかった。
箸と幸せをかみしめる庸介がそこには居た。
滲むタコ焼き 沙華やや子 @shaka_yayako
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