転落や堕落をドラマチックに描かず、淡々とした語り口で積み重ねている
- ★★★ Excellent!!!
とても重く、静かで、現実の冷たさがじわじわと染み込んでくる作品だと感じました。
まず良かったのは、「転落」や「堕落」をドラマチックに描かず、淡々とした語り口で積み重ねている点です。会社の倒産から風俗に入るまでの流れも、劇的な事件ではなく、選択肢が少しずつ削られていく“現実の滑り落ち方”として描かれていて、とても説得力がありました。「何かが壊れた」という一文が、その後の人生すべてを静かに決定づけているのが印象的です。
「サラ」という名前のエピソードも秀逸です。
サラピン=まっさら、という言葉に希望を見出したはずなのに、後半で「まっさらなんかじゃなかった」と否定される構成が美しく、残酷です。自分で選んだ名前なのに、結局は消耗される側の記号になってしまう。その落差が胸に刺さります。
講習動画やウエトラ、雑費の話など、業界のディテールも生々しく、単なる「不幸な物語」ではなく、搾取の構造そのものを読者に突きつけてきます。特に「お茶の日でも雑費が引かれる」「頑張るという言葉が場違い」という部分は、静かな怒りがにじんでいて強い印象を残しました。
主人公のサラ(まい)は、被害者であると同時に、自分で選んだと思い込もうとする人間でもあり、その曖昧さがとても人間的です。完全に絶望しているわけでもなく、希望を語るわけでもない。「それでも続ける」という結論が、救いがないのにリアルで、物語として誠実だと感じました。