第4話(最終回) 婚約者は華麗に立ち去る
「アリアン、正気か?」
私から“婚約破棄”という贈り物を受け取り、困惑するディルク様。
その隣で、男爵令嬢が歪んだ笑みを浮かべていた。
きっと、自分が王太子妃になる未来でも思い描いているのでしょう。
『愚かね』
そう内心で呟きながら、私はディルク様へと視線を戻し、微笑んだまま小さく頷いた。
「えぇ。私は至って正気ですよ」
「ならば分かっているはずだ。この婚約は王命だ。君が婚約破棄を申し出たところで、僕や父上が頷かなければ成立しない。それに、仮に婚約破棄が成立したとしても、君は公爵家から勘当される。そうなれば、君は平民になるのだぞ?」
「そうですね」
あら。
てっきり色恋に現を抜かして、私のことなどどうでもいいと思っていたのだけれど……。
まだ、私に対して多少の情は残っていたようね。
「それに、君は僕のことが好きだったはずだ。僕が好きだったから、王太子妃教育を必死に頑張っていたのではないのか?」
「えぇ、そうですね」
確かに、私はあなたを愛していました。
次期国王になるために努力を惜しまず、婚約者である私を常に気遣ってくださったあなた。
そんなあなたが大好きで、傍で支えたいと思って、同じように努力してきました。
……けれど。
男爵令嬢を侍らせる今の彼を見つめ、私は静かに笑みを消す。
そして、胸の奥に溜め込んできた想いを、吐き出すように告げた。
「ですが、浮気ばかりで婚約者を蔑ろにする方と国を導くどころか、一生を添い遂げるなど、私には到底できません」
その瞬間、会場に集まった全員の表情が強張った。
知らなくて当然よね。
だって、王太子の浮気など王家自らがあの手この手で揉み消してきたのだから。
すると、陛下がわなわなと唇を震わせながら話しかけてきた。
「ア、アリアン嬢。それは、王家のためにも口にしない方が……」
「あら。ご子息が婚約者以外の令嬢と浮気していると知りながら、ろくに諫めもしなかった陛下が、今さらそれをおっしゃるのですか?」
「アリアン、失礼だぞ!」
怒って声を荒げるお父様に、くるりと振り返った私は笑みを深めて小首を傾げる。
「でしたら、このような愚かな娘をどうぞ勘当してください」
「っ! 言われなくても、この場で貴様を勘当してやる!」
「公爵! それでは、私とアリアンの婚約が……」
「それももちろん、破棄に決まっています! そうですよね、陛下!」
「あ、あぁ……そうだな。平民と王家の婚約など認められん。婚約は破棄だ」
「父上!」
流れるように私との婚約破棄が正式に決まった直後、ディルク様は顔面蒼白になった。
ここにきてようやく、事の重大さを理解したのでしょう。
もっとも、気づいたところでもう遅いのですけれど。
「貴様は二度と、ディスクレイス公爵家の名を名乗ることも、敷地を跨ぐことも許さないからな!」
「えぇ。言われなくても、そのつもりです」
勘当を言い渡したお父様に、私は満面の笑みを浮かべる。
昨日のうちに荷物は全て、隣国に住む――両親と折り合いの悪い叔母上の屋敷へ運び終えている。
あとは、この場を去るだけ……。
「ならば、彼女は僕がもらおう」
「えっ……きゃっ!」
そう言って私を抱き上げたのは、隣国の皇太子殿下だった。
短期留学という形で我が国に来ていた皇太子殿下は、満面の笑みを浮かべたまま颯爽とその場を後にすると、そのまま馬車に乗り込んで会場を去った。
その後。
私の告発をきっかけに、ディルク様の数々の浮気は白日の下に晒され、国民の怒りを買った。
責任を問われた陛下は、ディルク様を廃嫡。
そして、彼のお気に入りだった男爵令嬢と共に国外追放とし、第二王子であるアルジム様を次期国王に指名。
翌年には王位を譲ることを宣言した。
アルジム様は、ディルク様と違って実直で誠実な方。
きっと、良き国王になられるでしょう。
そして、皇太子殿下と共に隣国に渡った私は、叔母夫婦の養子となった直後、彼から婚約を申し込まれるんだけど――その話は、また別の機会にしましょう。
婚約者の誕生日パーティーに婚約破棄を申し出た 温故知新 @wenold-wisdomnew
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