学園生活4

「ふむ、お見事」

そんな自分の背後から話かける影がある

「…カゲツ、心臓に悪いんだが?」

「冗談を。ニザール殿。数歩前には某の気配に気付いておられたであろう?」

風変わりな、”和装”と呼ばれる東の大陸の装束に身を包んだ男は二ヤリと笑う


この男の名はカゲツ、この大陸でも有数の貿易商の跡取り息子だ

筋力・魔力共に素質は低いが、相手の”気配”や”感情”を読むことに特に優れている。


一度商売の場に出れば、相手の思考を読むかの如く八面六臂の活躍を見せ、

戦闘においてはカイザ同様、大きな武器を持てない代わりに、

東の大陸の武器であるという“刀”を用いて戦う

相手の気配を読んで攻撃を躱し、相手の隙を突き鋭い一撃を叩き込む

そして、この”刀”という武器、

細い刀身ながら、正しい力で刃を当てればフルプレートの

装甲の繋ぎ部分程度であれば簡単に断ち切るほどの威力を秘めている


しかし、当然この技術はこの大陸では異端も異端

殊、この学園の中ではカゲツもまた、持たざる者として嘲笑の的だ


「魔法、某はからっきしだが、あのような使い方もできるのか」

「魔法をあんな使い方をするのはアイツくらいだ。僕も憶測でしか分からない」

「ニザール殿でそうならば、他の誰かに聞いても無駄であろうな」

「…買いかぶりすぎだ。僕だって、魔法はからっきしもいいところだ」

「謙遜を。例え自身ではそうであったとしても、

 その観察眼と知識において並ぶものはおらん。」

冗談めかすこともなく言い放つカゲツの言葉に肩をすくめて答える


カゲツは”暴力”の才こそないものの、

実家は大商人の家系でカゲツ自身もその才を濃く継いでいる

“財力”において、この学園に置いても並びえるものは少ないだろう


「して、ニザール殿。よろしければ一戦お相手願えぬか?」

「そうだな…僕も、少し身体を動かしたいと思っていた。いいだろう。」

二人の稽古に触発されたか、柄でも無く少し動きたい気分だった


「感謝を。それでは、参る」

そういうとカゲツは重心を落とし脱力する

それは、東の大陸では”居合”と呼ばれる、カゲツが最も得意とする構えの一つだ


それに答えるように、僕も腰から左右一対の短刀を抜いて構える

薄く、細く、この世界のルールにおいては、お遊びだと思われても仕方のない武器

アーマーを抜くこともできず、下手に刃を当てれば逆にこちらが粉々に砕けるだろう

当然、相手の武器を受けることもできず、武器ごと身体を貫かれるだろう


しかし、僕にはこれが一番性に合っている

軽く、鋭く、切って良し、投げてよし、

“相手を殺す”には一番無駄のない武器だ


一つ息を吐き、思考を切り替える

呼吸法を変え、深く、静かに深呼吸をした後

空気の流れだけを肺に残し、息を止める

同時に、自分の全てを空気に同化させる


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…これだ。これがニザール殿の武だ

気配を読むことには、人一番長けている自負がある。

しかし、この御仁が戦闘態勢に入ると、一切の気配が読めなくなる

まるで、そこにいるのにいないような、自分の存在自体を世界から消すかの如く

ありとあらゆる感覚を駆使しても、その命の気配の一切が消える


一度見失えば、二度と捉えることはかなわない

ならば、取れる手は一つ

先手必勝、あるのみ


弛緩させていた全身の筋肉を一気に緊張させる

その落差を利用し、雷の如き一刀を切り出す

その一撃は違うことなくニザールの身体を切り裂いた


殺った、と確信した刹那、首元に冷たい感覚を押し付けられる

息を呑み、目線だけでその方向を確認すると、

目の前で両断したはずの御仁が、無表情で短刀を構えていた

…あぁ、無念。 また、見ることも感じることもできなかった


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「勝負あり、だな」

そういうと静かに短刀をおろす

「…完敗だ。お見事。」

そういうとカゲツは刀を納め無念そうにうなだれた


こいつは、本当にすごい。日に日に、刀の速度は上がるばかりだ

始めの頃は、眼だけで簡単に刀の軌道を追えた

今は、正直に言うともう眼では追えない。

五感に、第六感とでもいうべき勘を駆使して、ようやくよけられるかどうかの領域だ

自分でいうのもどうかと思うが、俊敏さには多少の自身がある

その自分ですらこうなのだ。おそらく、この一閃を避けられるのは、

学園広しといえど、エレンやそれに比する者たちくらいだろう

それでも、100避けるのは絶対に不可能だ。それほどの領域に至っている一撃だ


本来、”財力”をもつこいつは、ここまで”暴力”に精通する必要などない。

それが、今でさえこれなのだ。末恐ろしい以外の台詞がない。

というか、本当に僕のような人間が立つ瀬がない。

多少はその才能にかまけてくれてもいいと思う。


「まだまだ、未熟。また今度御手合せ願いたい。」

「…機が合ったらな。僕は、じきに卒業だ」

「…そうか。木偶の坊共には、ニザール殿の力が分からないらしい」

そういうとカゲツは心底侮蔑を込めた目線を彼方に飛ばす

「ニザール殿、もし、逃げる算段があるのなら、弊商会へ。

 その身を匿うことぐらいは、某の権限でもできる。」

「気持ちは嬉しいが、猶更迷惑はかけられん。

 商人は、信頼が第一だろう。”忌子”を匿ったなどと噂がたてば、お前もただではすまんぞ」

「それでも、だ。そのリスクを追ってでも、貴殿は助ける価値がある

 これは商人として、それ以上に友人としての勘がそう言っている。」

「友人、ね。」

「ニザール殿…どうか、生き延びなされ。貴殿は、こんな所で斃れていい御方ではない」

「エレンといい、お前といい、買いかぶりすぎだ。難しいことを約束させるな」

「であれば、証文でも書かれるか?ただ一筆頂くだけの簡単な約束だ」

「口が達者なことだ。まぁ、努力はしてみよう」

「十全。貴殿なら、必ずや戻られるだろう」

そういうと、カゲツは嬉しそうに薄く微笑むのだった


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暗殺軍記 ~月の女神と夜の都の建国記~ @saito4562

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