学園生活3
演習場につくと既に自主的に訓練をしている生徒たちが目に入る
教師の姿はまだない。大方、昼間から深酒でもして寝過ごしているのだろう
あの禿…教師にはよくある話だ。
「やった、あの禿、まだいないじゃん。ねぇニザール、久しぶりに打ち合わない?」
「勘弁してくれ。お前に付き合っていたら体力がいくつあっても足りない。
…それに、どうやらご指名のようだぞ」
そういって目線でこちらに近づいてくる相手を示す
「エレン!探したぞ!」
「うっ…カイザ…」
細身の刺剣を腰に差した身なりのいい男が話しかけてくる
「今日はどうせ自主訓練だろう?どうだ、一戦頼めないか?」
「いや、今日私はニザールと…」
「なに、その前に少し時間をもらえればいい。どうだ、ニザール。少し彼女を私に譲ってもらえないか」
「構わない。そもそも、僕の体力ではついていけない。ぜひ心行くまで打ち合ってくれ」
「ニザール~~~そりゃないよ~~~」
裏切り者を見るような目でエレンがこちらを見るが、どこ吹く風で訓練用の大剣を投げ渡す
深く溜息をついた後、エレンは大剣を担ぐように構える
カイザも剣を抜き、構える
「まったく…すぐ終わらせるよ。」
「望むところだ!いくぞ!」
そういうが早いか、カイザは地面を滑るように間合いを詰める
早い!明らかに何かの魔法を行使している。
その速度のまま繰り出される鋭い突きをエレンは身体の軸をズラすだけで避ける
しかしカイザもその速度のまま反対側へ駆け抜け間合いを切る
「見事!!だが、まだまだ行くぞ!」
エレンの反応速度をもってしても反撃できないスピードのまま、カイザは何度も突撃を繰り返す
エレンの獲物は大剣だ。威力は絶大だが、どうしても小回りが効かない
上手い、と思う。確かにこの戦法なら、反撃をもらうことなく一方的に攻撃できる
しかし、エレンもエレンだ。僅かに身体の軸をズラすだけで完全に攻撃を見切っている
さて、エレンはどう出るか、と思った矢先、エレンが大剣を片手持ちに変える
次の刹那、彼女は、カイザの剣先を”掴んでいた”
「なっ…!?」
カイザが剣を引き戻そうとするが、その剣はピクリとも動かない。
そしてエレンはもう片方の手で大剣を振り下ろ”そうとした”
その瞬間、レイピアを掴んでいた手を突如離し大きく後ろに飛ぶ
「…あっついなぁ。火傷したらどうするの」
「これで勝負あったかと思ったのだが…流石にやるな。」
お互いにニヤリと笑うと再び応酬が始まった
やはり、この二人の戦いは見ごたえがある。
まず、やはりエレンの身体能力には目を張るものがある。
あの速度のレイピアを見切る動体視力ももちろんだが、指先だけで速度の乗ったレイピアを捉える握力
あんなもの、出鱈目以外の何者でもない。
普通なら、剣を掴んだ時点でチェックメイトだっただろう
他方、カイザの戦い方もとても興味深い
まず、移動法。滑るようにといったが、あれは比喩ではなく
彼は、実際に地面を”滑って”いるのだ
おそらく、足の裏の範囲にだけ水魔法で薄い水の被膜を造りだし、
風魔法で自身を押すと共に被膜を凍らせ、地面との摩擦を限りなく0にしているのだろう
そして速度の乗ったレイピアでヒット&アウェイを繰り返す
それに、最後の攻防の瞬間、
あれはおそらく、レイピアに炎魔法を纏わせたのだ
それも、相手に悟られないように、熱だけをレイピアに伝えたのだろう
どちらも、複数属性を同時に、それも精緻な魔力コントロールをもってしないと扱えない非常に繊細な技術だ。芸術的ですらある
そんな事を考えながら二人の戦闘を見ていると、周りの野次馬の声も耳に入る
「一体、あれは何をやっているのだ?あの程度の火力では、正規兵のアーマーを抜くことなどできないだろうに」
「まるで曲芸ですわね。サーカスにでも入ればある程度の客はつくのではないのかしら?」
周囲からの声は、嘲笑がほとんどだ
それもそのはず。見事な技術だが、カイザもまた、”持たざる者”だ
その身体は筋肉を付けるに向かず、結果として他にほとんど使い手のいない”刺剣”を獲物としている
また、魔法的な素養も0ではないが、非常に弱い。
それ故に、大規模な魔法の行使はできず、精々身体の周囲に展開することが関の山だ
この世界のルールに乗っ取るならば、なるほど、それは酷くに滑稽に映るだろう。
あの常軌を逸した精密な魔力コントロール技術は、彼なりに力を追い求めた結果なのだろう
実に見事、だがしかし、自分と同じで、彼の力もまた、力ではない
その後数合打ち合った後、タイミングを掴んだエレンの大剣がカイザを打ち据える
結果は、エレンの勝利だ
「ぐっ…見事だ…だが、次こそ私が勝ってみせよう!!」
「一体いくつ手があるのさ…」
そういいながら、エレンの顔には薄っすらと笑顔が浮かんでいた
確かに、事あるごとに勝負を挑まれるのは鬱陶しかろうが、彼との戦い自体はきっと嫌いではないのだ。
それもそのはず。真正面からの力勝負で彼女を負かせる人間はもうこの学園にはそう多くない
彼のようなトリッキーな戦い方からの方が学べることも多いのだろう。
軽口を叩きあう二人の姿を何とはなしに遠くから眺めるのだった
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