第15話 推奨先リスト


 通知は、前よりも少しだけ早く届いた。


 ステーションの通路を歩いている最中、

 スーツの視界に自然に溶け込むように表示される。


**新規案内:探索推奨先が更新されました**


「……来た」


 妹が、楽しそうに言った。


「装備更新したから?」

「たぶんね」


 案内を開くと、

 星図が広がる。


 さっきまでとは、色が違う。

 灰色だった領域が、

 **淡い青**に変わっている。


「“安全圏”……」

「今の装備だと、

 ここまでは問題ないってことだな」


 推奨理由が、淡々と並ぶ。


* 救援到達時間:短

* 事故履歴:低

* 管理文明:あり

* 未介入区域:限定


「管理文明、って……」

 妹が、指でなぞる。


「文明がある星?」

「機械文明、らしい」


---


 拡大すると、

 惑星の概要が表示された。


 地表の大半は、

 金属と人工構造物。


 だが、その端に――

 **“訪問可能エリア”**

と書かれている。


「全部行けるわけじゃないんだ」

「安全圏だけ、だな」


 説明文は簡潔だった。


> 当該文明は高度に自律化されています

> 外来個体への関心は低く

> 交流は限定的です

>

> ただし、

> 管理外区域の回収物については

> 商業流通が確認されています


 妹が、目を輝かせる。


「回収物……」

「商品になるやつだな」


 前に見た、

 市場の買い取り一覧が頭をよぎる。


---


「ねえ兄」


 妹が、何でもない調子で言った。


「これさ」


「ん?」

「ここで買ったものとか、

 拾ったものとか」


 少し間を置いてから、

 続ける。


「……地球で売ったら、

 どうなるんだろうね」


 言い方は軽かった。

 冗談に近い。


 でも、

 **本気でもあった**。


---


「値段、

 つくと思う?」

「……物によるな」


 僕は、星図を見ながら答えた。


「でも、

 つかない理由もない」


 地球は、

 まだこの技術圏にいない。


 材料。

 構造。

 製造思想。


 どれも、

 **桁違い**だ。


「禁止されてないよね」

 妹が、確認する。


「少なくとも、

 ステーションの規約では」


 彼女が、

 ちゃんと調べているのが分かる。


* 個人取引:可

* 持ち出し制限:なし

* 転売規制:管理文明の権限外


「……アウトって書いてないな」


 それだけだった。


---


「別にさ」

 妹が言う。

「今すぐ売るとかじゃないよ?」


「……ああ」


「可能性の話」


 その言葉が、

 少しだけ重く響いた。


 可能性。


 選択肢。


 **戻る道がある、という感覚**。


「地球でさ」

 妹は続ける。

「研究費とか、

 生活とか」


「説明つかないだろ」

「つかないね!」


 彼女は笑った。


「でもさ、

 説明つかないこと、

 もう山ほどあるし」


 否定できなかった。


---


 推奨先リストの最後に、

 小さな注記があった。


> 当該探索は

> 居住者資格を有する個体を

> 対象としています


「……住民向け」

「私たち、

 もう完全に対象だね」


 妹は、悪びれもせず言う。


「ね。

 登録して正解だった」


 その言葉が、

 少しだけ怖かった。


---


 宇宙船の準備状況が表示される。


 補給、問題なし。

 装備、適合。

 推奨ルート、確定。


「行く?」

 妹が聞く。


「……行くか」


 止める理由は、なかった。


 推奨されている。

 安全圏だ。

 禁止もされていない。


 **そして、

 その先に“持ち帰れる何か”がある。**


---


 宇宙船は、

 新しい航路を設定する。


 遠くに、

 機械文明の惑星が映る。


 妹が、ぽつりと言った。


「ねえ」


「ん?」

「もしさ」


 一拍。


「ほんとに、

 地球で売れたら……

 どうする?」


 僕は、すぐには答えなかった。


 推奨先リストが、

 静かに閉じる。


 その問いは、

 今すぐ答えなくてもいい。


 **でも、

 もう考え始めてしまった。**


 それだけで、

 十分だった。


---


(第15話・了)


---


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