番外編 追いつく頃には、文明が違う


「……待て」


 解析室で、誰かが声を上げた。


「この航跡、おかしくないか?」


 スクリーンに映っているのは、

 例の“未確認民生通信源”の移動ログだった。


 点と点を結んだ、単純な軌跡。

 だが、その**間隔**が異常だった。


「移動距離……再計算」

「推定速度、更新します」


 数秒後、数値が表示される。


 室内が、静まり返った。


「……冗談だろ」


 誰かが、乾いた声で言った。


---


「これ、

 一回ワープしてない?」


「いや……

 複数回だ」


 航跡は、

 滑らかな曲線ではない。


 **跳んでいる。**


 しかも、

 一回や二回ではない。


「この区間」

 技術者が指差す。

「地球の探査船が

 全力で飛んでも――」


 言葉を切り、

 計算結果を表示する。


「……百年以上かかる」


 誰も、笑わなかった。


---


「じゃあ、

 追跡は無意味ですか?」


 若い担当者の問いに、

 即答はなかった。


「無意味、ではない」


 責任者が、ゆっくり言う。


「だが、

 **追いつく前提ではない**」


 その言葉が、

 じわじわと理解されていく。


---


 別のスクリーンが開く。


 比較表。


* 地球製推進技術

* 理論限界

* 実証済み最高速度


その横に、

例の航跡の数値。


 **桁が違う。**


「これ……

 技術差、何世代分だ?」


「分からん」

「少なくとも、

 我々の現行ロードマップには

 存在しない」


 つまり。


 **追いつける頃には、

 こちらの文明が変わっている。**


---


「……通信は?」


「届いています」

「追跡は?」


「できています」


「だが――」


 誰かが、言葉を継ぐ。


「**接触は不可能**」


 それが、結論だった。


---


 責任者は、静かに指示を出す。


「追跡は継続」

「直接接触は想定しない」

「想定シナリオを変更する」


「変更後は?」

「……」


 一拍。


「**帰還ではなく、

 定着を想定**」


 その言葉に、

 誰も反論しなかった。


---


 最後に表示されたのは、

 最新の位置情報だった。


 商業ステーション周辺。

 通信量、増加。

 移動履歴、安定。


「……落ち着いてますね」


「落ち着いているから、

 余計に厄介だ」


 責任者は、そう言った。


「彼らは、

 逃げていない」


「……普通に、

 生活を始めている」


---


 ログは保存される。


> 追跡対象:

> 物理的追従 不可

>

> 推定再接触時期:

> 未定

> (技術的ブレイクスルー待ち)


 画面を閉じながら、

 誰かが小さく呟いた。


「……あの二人、

 今どこまで行ったんだ」


 答えは、もう出ている。


 **行きすぎた。**


 地球の宇宙船が追いつく頃には、

 きっと――

 **挨拶の仕方から、違っている。**


---


### 番外編・了


---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る