第13話 ご利用ありがとうございます


 通知は、雑音みたいに届いた。


 警告音でも、緊急表示でもない。

 スーツの視界の端に、

 **「新着案内:1」**

と、小さく出ただけだ。


「……なにこれ」


 妹が、のぞき込む。


「連絡?」

「たぶん」


 住民登録をしてから、

 こういう表示が増えた。


 案内。

 更新。

 おすすめ。


 どれも、

 **当然のように届く**。


---


 開くと、

 柔らかい文面が広がった。


> 居住者の皆さまへ

>

> 平素より、

> 当ステーション商業圏をご利用いただき

> 誠にありがとうございます。


「……メルマガだ」

 妹が、思わず笑う。


「宇宙版」

「だな」


 文面は続く。


> 最近の探索活動に関し、

> 装備登録情報を基に

> 安全性のご案内をお送りします。


 その一文で、

 僕は少しだけ背筋を伸ばした。


「……装備登録?」

「したね、住民登録のとき」


 生体。

 スーツ。

 船。


 全部、

 **“安全確認のため”**

という名目で。


---


> 現在ご登録の装備構成では、

> 管理の行き届いていない

> 危険度の高い惑星への探索は

> 推奨されておりません。


 妹が、目を丸くする。


「……え」


> 特に以下の条件を満たす環境では、

> 追加の安全措置が必要となります。


 項目が、並ぶ。


* 生態系が未管理

* 大気変動が大きい

* 事故履歴あり

* 救援遅延の可能性


「……行ったことあるやつばっかり」

 妹が、ぽつりと言った。


 否定できない。


---


> ご安心ください。

> 上記条件に対応するための

> 装備・拡張オプションは

> 商業区画にて

> 常時ご案内しております。


 その言い回しが、

 とても丁寧だった。


 **止めてはいない。**

 ただ、

 **今のままでは危ないですよ**

と言っているだけ。


「優しいね」

 妹が言う。

「ちゃんと心配してくれてる」


 それが、一番怖い。


---


> なお、

> 本案内は

> 装備登録情報を基に

> 商業参加者間で

> 共有されている安全指標を

> 参考にしています。


「……共有?」


 僕は、そこを読み返した。


「商人の間で?」

「たぶん」


 妹は、特に気にしていない様子だ。


「だって、

 危ない装備の人が

 無茶したら困るもんね」


 その理屈は、

 正しかった。


---


> 現在の評価:

> 探索適合度

>

> 【限定】


 文字が、

 はっきりと表示される。


「限定……?」

「制限、ってことだな」


> 推奨される行動範囲:

> 管理区域

> 商業区画

> 居住圏周辺


 無人惑星。

 未管理区域。


 **含まれていない。**


---


 妹は、少しだけ黙った。


「……でもさ」

「ん?」


「行けない、とは書いてないよね」


 確かに。


 禁止。

 制限。

 罰則。


 どこにもない。


 ただ、

 **推奨されない**

と書いてあるだけだ。


「行けるけど、

 自己責任、ってやつだな」


「じゃあ、

 今まで通りじゃん」


 妹は、あっさり笑った。


「装備、

 強化した方が

 安全だよって

 教えてくれてるだけ」


 それも、事実だった。


---


 文面の最後に、

 小さくリンクがついている。


> 現在の装備構成に適合する

> 推奨オプションはこちら


 押していないのに、

 **候補が表示される**。


* 防護層追加

* 探索支援AI

* 緊急退避補助

* 事故対応強化


 妹が、目を輝かせる。


「……すご」

「完全に、

 カスタマイズ前提だな」


「だってさ」

 彼女は笑う。

「危ないところ、

 行きたいんでしょ?」


 否定できない。


---


 そのとき、

 別の通知が重なった。


 **「おすすめ更新」**


 件名は、

 さっきと同じ調子だ。


> 探索を継続される居住者の皆さまへ

>

> 安全で快適な活動のため、

> 定期的な装備見直しを

> 推奨しています。


「完全に、

 常連扱いだね」

 妹が言う。


「住民だからな」


 その言葉が、

 思ったより自然に出てしまった。


---


 商業ステーションは、

 今日も賑やかだ。


 誰も、

 命令していない。


 誰も、

 強制していない。


 ただ、

 **“普通ならこうしますよ”**

という案内が、

 届くだけだ。


 妹は、端末を閉じて言った。


「まあ、

 あとで見よっか」


「……ああ」


 その“あとで”が、

 どれだけ近いかは、

 まだ分からない。


 ただ一つ確かなのは。


 **僕たちの装備と行動は、

 もう“個人の問題”じゃない。**


 安全指標として、

 評価され、

 共有され、

 案内されている。


 それが、

 住民になるということだった。


---


(第13話・了)


---

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