第9話 入口が、どこにもない


 無人惑星を離れたあとも、妹のテンションは下がらなかった。


「ねえ、次どこ行く?」

「少しスキャンしてからな」


 宇宙船は静かに滑るように進み、周囲の空間を解析していく。

 星図が更新され、色の薄い点が増えていく。


 その中で、ひとつだけ――

 明らかに**様子のおかしい反応**があった。


「……ん?」


 妹が画面を覗き込む。


「なにこれ」

「構造物……?」

「え、待って待って」


 彼女は拡大操作をした。


 空間に浮かぶ巨大な輪郭。

 規則的で、左右対称で、

 **“使われている”気配**が濃すぎる。


「これ、自然物じゃないよね」

「間違いなく人工だな」


 さらに解析を進めると、

 重なるように別の情報が表示された。


* 商業

* 取引

* 拡張

* 調達


「……ショップ?」


 妹が声を裏返す。


「ショップって言った!?」

「言ったな……」


 彼女は一瞬黙り、

 次の瞬間、叫んだ。


「行こ!!」


「即決かよ」

「だってさ!」


 画面には、さらに細かい項目が並んでいる。


* 武器

* 船体拡張

* 推進補助

* 通信強化


「武器売ってるって何!?」

「待て待て、落ち着け」


「いや無理!

 これ、絶対“寄れ”ってやつでしょ!」


 彼女の言う通りだった。

 禁止表示はない。

 警告もない。


 **“存在している”だけ**。


 行かない理由が、見当たらなかった。


---


 ステーションは、想像よりも大きかった。


 近づくにつれて、

 外殻のディテールが見えてくる。


 無数のドッキングポイント。

 出入りする大小さまざまな船影。


「……めちゃくちゃ使われてるね」

「文明の“日常”って感じだな」


 スーツは、特に反応を示さない。

 危険警告も、立ち入り制限も。


 **歓迎でも拒否でもない。**


「ねえ」

 妹が周囲を見回す。

「入口、なくない?」


「……ないな」


 巨大な構造物だというのに、

 分かりやすいドアやゲートが見当たらない。


「え、どうやって入るの?」

「入るっていうか……

 “寄る”だけでいいのか?」


 宇宙船は、

 自動で速度を落とし始めていた。


「勝手に減速してる」

「……スーツが信号出してるのかもな」


 その言葉を裏付けるように、

 スーツの表示が一瞬変わった。


 適合。

 認識。

 待機。


「待機って……」

 妹が目を輝かせる。

「もう入ってる判定じゃない?」


 その直後、

 ステーションの一部が動いた。


 壁が開く、というより――

 **空間の密度が変わる**。


「うわ」

「……入口だな、これ」


 明確な境界線はない。

 だが、そこから先は

 **“中”だと分かる**。


「ねえねえ」

 妹が興奮気味に言う。

「これさ、見てるだけならセーフだよね?」


「……たぶん」


「買わなきゃ問題ないし!」

「その理屈、危ういぞ」


 彼女は笑った。


「だって、

 店に入るだけじゃ

 犯罪じゃないでしょ?」


 確かに、その通りだった。


---


 宇宙船は、

 ゆっくりと“入口”を越える。


 通信量が、一気に増えた。

 ログが、勝手に整理される。


「……ここ、すごいな」

「ね!」


 妹は、もう完全に探索モードだった。


 視界の端に、

 無数の選択肢が流れていく。


 価格。

 仕様。

 互換性。


「ねえ兄」

「なんだ」


「私たちさ」

 彼女は楽しそうに言った。

「普通に客扱いされてない?」


 僕は答えなかった。


 答えは、

 この場所そのものが示している。


 **ここは、選ぶ場所だ。**


 選ばなければ、何も起きない。

 だが、一度選べば――

 戻れない。


 妹はまだ、それを知らない。


「入口、探して正解だったね!」

「……そうだな」


 宇宙船は完全にステーション内部へと入る。


 外の宇宙が、

 ゆっくりと視界から消えた。


---


(第9話・了)


---


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