第6話 これはフェイクにしては、変だ


最初に貼られたのは、切り抜きだった。


「【検証求む】非公開動画が流れてきたんだが」


そう書かれた投稿に、

十数秒の動画が添付されている。


室内。

奇妙に滑らかな壁。

人型のスーツを着た二人。

背後に、見たことのない計器類。


音声は普通だった。

圧縮の癖も、一般的なものだ。


「……CG?」


最初の反応は、それで終わるはずだった。


---


「フェイクにしては、反射おかしくね?」


「照明の影、物理的に一貫してる」


「これ、リアルタイム合成じゃない」


動画は短い。

説明もない。

ただ、二人が“普通に話している”。


それが、逆に不気味だった。


「演技、下手すぎない?」

「いや、逆だろ。

 演技じゃない“間”がある」


再生数が、静かに伸びていく。


---


「音声解析した」


誰かがそう言って、

波形のスクリーンショットを上げた。


「端末マイクの癖が、

 市販スマホと一致してる」


「え?」


「これ、

 映画用マイクじゃない」


コメント欄が、一瞬静まる。


---


次に話題になったのは、背景だった。


「このパネル配置、

 どのSF作品とも一致しない」


「既存のUIテンプレ引っかからない」


「CGにしては、

 “無駄”が多すぎる」


わざとらしさが、ない。

説明も、演出も、自己主張もない。


「誰向けに作った動画なんだ、これ」


---


誰かが、元のURLを貼った。


「これ、非公開設定だったっぽい」


「……は?」


「URL直打ちじゃないと見れないやつ」


それが意味するところを、

多くの人が同時に理解した。


「じゃあ、

 流出?」


「内部の人?」


「それとも、

 設定ミス?」


---


「待て」


ある投稿が、空気を変えた。


「これ、

 アップロード時刻と通信ログ……

 おかしくない?」


画像が貼られる。


送信元IP。

通信経路。

中継点。


「……地球外?」


最初は冗談として流された。

次の瞬間、別の人が補足する。


「厳密には、

 地球の管理下にない領域」


「軌道上……?」


「いや、

 それより外」


---


荒れ始める。


「やめろ」

「陰謀論やめろ」

「フェイクに決まってる」


だが、

否定の言葉ほど、慎重になっていく。


「フェイクだとしたら、

 この通信経路をどう再現した?」


「民生端末のID、

 実在の規格だぞ」


「これ、

 “作る”方が難しい」


---


動画は、もう止まらない。


まとめサイト。

切り抜き。

検証動画。

リアクション。


タイトルは、次々に変わる。


「【謎】宇宙船っぽい動画」

「【検証】これ本物じゃね?」

「【閲覧注意】説明できない映像」


誰も、

本人に連絡を取れない。


コメント欄に、同じ言葉が増える。


「投稿者、出てこい」


---


その頃には、

別の場所でも再生されていた。


一般公開されていないログ。

自動収集されたデータ。

解析対象としての動画。


そこでは、

「面白い」も

「怖い」も

語られない。


ただ、一行だけが記録される。


> 未確認環境下から

> 民生通信規格による

> 映像発信を確認


誰かが、

それを「回収案件」と分類する。


---


ネットは、まだ騒いでいる。


「これ、

 もし本物だったらさ」


「何?」


「……投稿者、

 もう帰れなくない?」


冗談のつもりで書かれたその一文が、

なぜか消されなかった。


---


その動画は、

今もどこかで再生されている。


非公開のまま。

でも、

**完全には消えない状態で。**


兄妹は、まだ知らない。


世界が、

彼らを

**“見つけてしまった”**ことを。


---


(第6話・了)


---

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