第4話 それは、使う前提だった


 無人惑星を離れるとき、

 宇宙船は何も言わなかった。


 警告も、確認も、評価もない。

 ただ、いつも通りに進路を取った。


「……ねえ」


 妹が、帰路の途中で言った。


「さっきのビームさ」

「うん」

「注意とか、来ないね」


 僕も同じことを考えていた。


 あれは明らかに“装備”だった。

 それも、かなり高度な。


 にもかかわらず――

 **使用報告を求められない。**


「ログ、送ってないよな?」

「うん。でも……」


 妹は端末を操作する。

 スーツの状態履歴が、淡々と表示される。


「送ってるね。勝手に」


 発射時刻。

 出力。

 対象との距離。

 環境データ。


 全部。


「……全部見られてる」

「たぶん、“見られる前提”だね」


 その言い方が、妙に軽かった。


---


 通信が入ったのは、その直後だった。


 短い。

 今までと同じ、感情のない構造。


 解析結果が表示される。


> 行動は記録された

> 補正は不要

> 装備は正常


 妹が瞬きをする。


「……え、それだけ?」

「それだけ、だな」


 叱責はない。

 質問もない。


 **想定通りだった**と言われただけ。


「ねえ」

 妹が少し首を傾げる。

「これさ、私たちが撃ったからじゃなくて……」


「最初から、

 撃つ可能性が含まれてた?」


 妹は、にこっと笑った。


「含まれてた、じゃないよ」

「……?」

「**含まれてなきゃ、おかしい**」


 その言葉が、胸に落ちた。


---


 彼らは、危険を排除する。

 でも、危険がある場所を“使わない”とは限らない。


 無人惑星。

 ゴミ捨て場。

 資源投棄エリア。


 そこに生物が出る可能性は、

 当然、想定されている。


 だから。


 **生身で出る前提は、最初からなかった。**


「つまりさ」

 妹は楽しそうに言う。

「私たち、ちゃんと“正しい使い方”してる」


 その言い方が、少しだけ怖かった。


「正しい、って……」

「向こう基準で、ね」


---


 さらに通信が続く。


 今度は、少しだけ情報量が多い。


> 当該装備は

> 危険環境における

> 個体保護を目的とする

>

> 対象の排除は

> 二次的機能である


 僕は、その文を何度も読み返した。


「……排除、二次的?」

「うん」


 妹は即答した。


「守るのがメイン。

 撃つのは、ついで」


 それが、

 **文明のスケール差**だった。


 地球で言えば、

 消火器に“副次的に壁を壊せる”機能があるようなもの。


 僕たちは、

 その“ついで”に驚いていただけだ。


---


 別のログが、表示される。


 過去の使用例らしいデータ。

 個体名は伏せられている。


 発射。

 回避。

 再発射。

 移動継続。


 どれも、短く、淡々としている。


「……頻度、低いね」

 妹が言う。

「でも、ゼロじゃない」


「使われてる」

「うん。たまに」


 事故。

 想定内のトラブル。

 環境由来の危険。


 **日常の一部。**


「ねえ」

 妹が、急に真面目な声になる。

「これさ……」


「うん」

「私たちが特別だから

 渡されたわけじゃないよね」


 僕は答えなかった。


 答えは、もう出ている。


 **必要だから渡された。**

 それだけだ。


---


 宇宙船は、次の座標を示している。

 無言で。


「……行く?」

 妹が聞く。


「行くんだろ」

「うん」


 彼女は笑った。


 怖がっていない。

 浮かれてもいない。


 ただ、**順応している**。


 スーツは静かに密着し、

 ビームの表示は、変わらず待機状態のままだ。


 減らないエネルギー。

 使う前提の装備。

 怒られない使用。


 僕は、ふと思った。


 これがもし――

 **本当に危険な装備だったら**。


 もっと厳重に、

 もっと制限されているはずだ。


 そうなっていない、ということは。


 この程度は、

 彼らにとって**危険ですらない**。


 宇宙船は進む。


 僕たちは、

 また一つ、

 向こうの「普通」を理解してしまった。


---


(第4話・了)


---

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