第3話 ゴミ捨て場で、撃ててしまった


 無人惑星は、静かだった。


 音がない、という意味ではない。

 風は吹いているし、地面を踏めば砂利が鳴る。


 ただ、**生き物の気配が一切ない**。


「……住めるね、ここ」


 妹の声が、スーツ越しに直接届く。

 通信というより、感覚に近い。


「空気、問題なし。

 重力も地球とほぼ同じ」


 僕は足元を見た。

 黒っぽい地表の上に、鈍く光る金属片が転がっている。


 拾い上げなくても分かる。

 純度が異常に高い。


「これ、ゴミ……だよな」

「うん。たぶん」


 妹は楽しそうだった。


「でもさ、

 地球だったら争奪戦だよ?

 この辺一帯」


 見渡す限り、金属、金属、金属。

 積み上げられているわけでも、整理されているわけでもない。

 ただ、**捨ててある**。


「……価値観、違いすぎるな」


 スーツが、環境情報を淡々と表示している。

 放射線、問題なし。

 有毒ガス、なし。

 生命反応――微弱。


「ん?」


 妹が足を止めた。


「今、反応出なかった?」

「……出た」


 前方。

 金属の山の影が、不自然に揺れた。


 最初は、風だと思った。

 次の瞬間、それが**動いている**と分かった。


 生物だ。


 四足。

 外殻が硬そうで、金属と見分けがつきにくい。

 大きさは、大型犬くらい。


「……あれ、ヤバいやつじゃない?」


 妹の声は、少しだけ上ずっていた。


 こちらを認識したのか、

 生物が低い音を発する。


「退く?」

「……スーツ、どう反応するか見たい」


 その言葉に、僕は一瞬迷った。

 だが、スーツはもう動いている。


 視界の端に、見慣れない表示が浮かぶ。


 **出力調整**

 **指向性放射**


「え」


「え、なにこれ」


 妹も同時に気づいたらしい。


「……ビーム?」


 疑問符を浮かべる暇もなく、

 生物がこちらに突進してきた。


「兄!」

「分かってる!」


 反射的に、表示された項目を選択する。


 光が走った。


 音は、ほとんどなかった。

 空気が一瞬、歪んだだけ。


 生物は、弾かれるように後退した。


 致命傷ではない。

 だが、確実に**効いている**。


「……撃てた」


 妹が、呆然と呟く。


「撃てたね」

「撃てた」


 二人とも、数秒黙った。


 生物は距離を取り、こちらを警戒している。


「出力、低くない?」

 妹が即座に分析に入る。

「破壊力、抑えめ」


「なのに、反動なし」

「うん。エネルギー消費も……ほぼゼロ?」


 スーツの表示を確認する。

 残量ゲージのようなものは、減っていない。


「……電池切れする気配、ないな」

「これさ」


 妹の声が、だんだん明るくなる。


「永久機関か、

 もしくは超低コストで撃てるビームだよね?」


 その言い方が、あまりにも**研究者**だった。


「やばくない?」

「やばいね!」


 さっきまでの緊張が、嘘みたいに消える。


 生物は、もうこちらに近づいてこない。

 距離を保ち、やがて金属の影に消えた。


「対モンスター用、って感じだよね」

「たぶん“事故対応”の一部だ」


 僕は言いながら、妙な違和感を覚えていた。


 撃てる。

 でも、**撃てて当然**みたいな設計。


 武器というより、

 **安全装置**に近い。


「ねえねえ」

 妹が興奮気味に言う。

「これ、何回撃ってもいいのかな」


「……試すなよ?」

「ちょっとだけ!」


 表示を操作しながら、妹は笑っている。


「だってさ、

 ゴミ捨て場だよ?

 実験環境、最高じゃん」


 その言葉に、僕は苦笑した。


 スーツは静かに密着している。

 エネルギーは減らない。

 安全は保証されている。


 少なくとも、**そう表示されている**。


 遠くで、また何かが動いた気がした。


 この惑星は無人だ。

 でも、空っぽではない。


 そして、僕たちはもう――

 ただの探索者じゃなかった。


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(第3話・了)


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