第二部 魔王バルザードの憂鬱

第5話 魔王、異世界人に◎◎◎

「逃げていくな……」

 

 俺は呟きながら、無様に逃げていく勇者達を見下ろしていた。

 つい一ヶ月前まで連戦連敗。散々煮湯を飲まされた奴らを撃退して、気分爽快なはずだったが……。

 

「ええ、逃げていきますね。予定通りです」

 

 隣に立つ沙良が、資料を確認しながら冷静な表情で淡々と答える。


「勇者撃退予定時刻は15時15分。現在時刻は15時13分ですから、予定より2分早く終わりましたね、魔王様」


 彼女は手元にある『対勇者撃退マニュアル』のタイムラインを確認していた。

 沙良の持つ書類を彼女の肩越しに見てみると、『15:15 勇者撤退(予測)』と書かれていた。

 壁の時計を確認すると、15時13分。

 ……どうやったら敵の撤退時間まで予測出来るのか、全くわからない。

 かろうじてわかるのは、沙良が凄いということだけだ。


「……お前は、本当に恐ろしい人間だな」


 そんな事を考えていたら、素直な気持ちが口から漏れてしまった。

 あ、しまった! 「恐ろしい」なんて言ったら、怒らせてしまったか!?

 ちらっと顔色を伺うが、言われた本人――如月 沙良は、きょとんとした表情でその夜空のような美しい瞳を俺に向けた。

 

「そうですか?データに基づいて計画を立てただけですよ?」

 

 そう言った後に、戦場に目を向けた。

 逃げていく勇者達を見下ろすその横顔は、俺から見ても頼もしい。

 ……そして、美しい。


「一カ月前までは、我が魔王軍は奴らにやられ放題だったというのに……」


 見惚れてしまったことを悟られないように、勇者達の方に顔を向けながら、悔しそうな表情をして誤魔化す。


「一カ月もあれば、組織は変わりますよ。良くも悪くも。ちゃんと段階を踏んで改善すれば、結果は自ずと付いてきます」


 組織は変わる……か。

 彼女は、俺が200年かけても出来なかった事を、たった一ヶ月でやり遂げてみせた。

 全てが変わったんだ。兵士達も、幹部も、そして……俺自身も。

 俺は、沙良の本当の姿が女神か天使なんじゃないかと不安になって、思わず聞いてしまった。


「……なあ、沙良」


「はい?」


「お前は一体、何者なんだ?」


 彼女は少し考えてから、微笑んだ。


「ただの、元社畜ですよ」


 その笑顔を見て、鼓動が速くなる。顔が赤くなっているのがバレていないだろうか?

 もう、彼女の正体が何だっていい。

 ああ、もう認めざるを得ない。俺は、沙良のことを――。



=======================


第二部は魔王バルザード視点で物語が進みます。

バルザードの素顔と、魔王軍幹部達の様子を見て楽しんで貰えると嬉しいです。


面白いと思ったら、☆や♡を頂けると励みになります。よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月11日 19:00 毎日 19:00

魔王城でお仕事~異世界で魔王の秘書になりました~ 名雲 @watawata04165

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画