1月1日の俺たち

真白透夜@山羊座文学

⛩️

 俺と弟のトモと幼馴染のクレハの三人で初詣に行く。長い行列に並ぶ。晴れた青空に、新年を祝う人たちの呼気が絶え間なく浮かんでは消えていた。


 小学生の時からの仲だから、もう俺たちは兄弟のようなものだ。それはいい。それは認める。が、たぶん、二人は兄弟を超えたようだ。


「さむーっ」


 と震えるトモにクレハが手を伸ばし、肩を抱く。トモはクレハにくっついて、ちょっとだけトモより背が高いクレハの顔を見上げた。


 俺、邪魔じゃない? 二人で来れば良かったのに……。本当は彼女と来る予定だったが、クリスマスに彼女の浮気がわかり破局。傷心だったからね、そこまで気が回らなかったんだよ……。


「耳、冷たくなってる」


 と、クレハがトモの耳を小さく揉んだ。


 耳当てすれば良かったかな、とトモが言うと、クレハが両手でトモの耳を覆った。見つめ合う二人。なんだよ、そのままキスしちゃうんじゃないだろうな、おい。


 えへへ、と笑うトモの頭をクレハがぽんぽんとたたいた。この光景、小学校の頃から変わってない。もしかして、俺がやましい目で見ているだけで、二人は何も変わることなく仲がいいだけなのかもしれない。


 と思った瞬間、二人は手をつないで、その手をクレハのコートのポケットに突っ込んでいた。なあお前ら、手袋あるでしょう?


 いつから二人はそこまで仲良くなったのか。心当たりはトモが高校生のとき。クレハに勉強を教わりたいと、しょっちゅうクレハの家に行くようになっていた。あの頃から距離が近いなと思ってはいた。全く、何を手取り足取り教わったんだか。気になるような、知りたくないような、よくもこんな気持ちにさせてくれたもんだ。


 と、モヤモヤしているうちに、参拝の順番が回ってきた。落ち着こうか俺。昨年のお礼と、今年の祈願に集中しないと。


 手を合わせ、最後の一礼をし、隣の二人を見た。熱心に拝んでいる。ようやく終わり、二人が一礼をすると、後ろの子どもが、グイッとトモの脇から前に出た。避けようとよろけたトモをクレハが支える。そしてクレハが手を引いて人混みを抜けた。


 うん。わかった、わかったよもう。早く、二人の関係についてご報告願えないかな? 俺から聞けばいい? でも今じゃないよね? うん。


 気もそぞろなままおみくじを引いた。恋愛、望む相手は来ず。トモの恋愛は、安泰、安らかに過ごせ。クレハの恋愛は、想いが通じる。はい、そうですか!


 何かに納得できないまま、商店街まで歩く。馴染みの喫茶店に入った。外の景色が見える奥まった席。いつもなら俺とトモが並んで座るが、今日は二人が隣同士だ。まさか……ここでご報告を受けるんだろうか? 俺とクレハはコーヒー、甘党のトモはシュークリームセットを注文した。


 ご報告に備えてトイレに立ち、精神を整えた。二人のことはもちろん祝福する。何も変わらない。こんだけずっと仲がいいんだから。今更、友情が愛情になっていいじゃないか。


 よし! と、自然に独り言が出た。トイレを出て、席の方に目をやると、座っている二人の背中が見える。どうやらシュークリームセットはもう出されたようで、トモがもぐもぐしながらクレハの方を見ていた。クレハもトモを見つめていたが、クレハは、ふっ、と笑ってトモの口元に唇を寄せた。


 わあ、泣きたい! 俺はどうしたら? うん、きっとクリームが口に付いてたとかそういうことなんだろうけど、帰っていいかなぁ?


 深いため息をつき、思考をあえて停止させたまま席に戻った。


「……マサユキ、改めて伝えたいことがあるんだ……」


 クレハが口を開いた。


「な、何?」


「実は俺たち、付き合ってるんだ。すぐに言えなくて、ごめん」


 うん、どっちかっていうと、隠す気ないだろってとこに謝罪してほしいよね、うん。


「お兄ちゃん、これは本当に二人で真剣に考えた上でなんだ……。だから、受け入れてほしいんだけど……」


 うんうん、そりゃ弟と親友のことなんだから、受け入れるよ。あとはなんていうか、目に余るイチャイチャっぷりをだなぁ、自重せぇよ、と。


「お前たちのことはわかった。いいと思うよ。うん。これからも、仲良くな」


 まあ、色々言いたいことはあるが、とりあえず本人たちだって勇気を出してのことだから、小言は落ち着いてからな。うん。


「良かった……。ね」


 と、トモがクレハを見る。クレハも、うん、と頷いた。


「トモ、今日誕生日じゃん。プレゼントがあるんだ」


 クレハが小さな箱を取り出した。


「え、まさか指輪?」


 と、つい俺が先回りして言ってしまった。そのくらいのサイズ。ま、まあ、恋人同士ならいいんでしょうけども……。


 トモも複雑な表情で箱を開けた。


「……ピアス?」


 見ると、小さな青い宝石が付いたものだった。


「指輪やネックレスも良かったんだけど、ずっと外さなくてもいいピアスがいいなと思って」


「え、でも、俺、穴開けてないよ?」


「うん、だから今から開けてほしいんだ。トモが俺のものだって印に」


 クレハはトモの耳たぶを優しく摘んだ。トモの頬がみるみる赤く染まる。


 やめろよ……おれの前で……。俺は聞こえなかったフリをしてコーヒーを啜った。


 新年のめでたい日に、大切な二人が付き合いだし、弟には愛の証が刻まれる。そんな素晴らしい日に関わらず、素直に祝う気持ちになれない。なんていうか、こっちが恥ずかしい。終始「俺、要る?」って思う。うん。どうぞ、お幸せに。しばらく、弟の耳を見る度にクレハの指先を思い出すんだろう。




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