ずんいち小説化2
@Emperor-kanda
第1話
ChatGPT:
純一、六十路の夜警
純一、六十路の夜警(大阪編)
第一章 なんばの風とカレー・メガ盛り(拡張)
純一は六十歳になった。大阪・生野生まれ。生まれた場所にはもう用はないが、出ていく理由もなかった。いまは住所不定、心はだいたい難波に置いてある。警備員という肩書きはあるが、誇りはない。声だけはでかい。返事もでかい。「せやな」「まあな」「しゃあない」。その三つで人生の八割は処理してきた。
朝はだいたい同じや。会社の車のシートを起こし、背中の痛みに一回だけ文句を言う。空を見る。ビルの隙間の空は細いが、大阪の空やから十分やと思っている。歯は磨く。水はペットボトル。鏡はサイドミラー。自分の顔を見て、老けたな、と思うが、それ以上は考えへん。
人生設計? そんなもんは、だいぶ前に財布と一緒に落とした。いまの設計は単純や。昼に何食うか。夜をどこで越すか。それだけや。
警備会社の社長は、純一をよくミナミの裏路地に連れ出した。賭けマージャンや。断れへん。断る理由を考えるのが面倒やからや。負ける。必ず負ける。牌を見た瞬間に、これはあかん、と分かるのに、なぜか続ける。
「次は来るで」
社長はそう言う。来た試しはない。給料より負ける月が続き、借金は数字として存在するようになった。怖くはない。ただ、重い。
住むとこは一応あった。社長の命令で「せき爺の家」に住めと言われた。城東の長屋。静かすぎる家や。テレビの音も、時計の音も、全部が気になる。純一の胃袋が鳴る音が、一番うるさい。
気ぃ使うのがしんどくて、純一は結局、会社の車に戻った。エンジンは切る。ガソリン代は社長のもんやが、罪悪感は自分のもんやからや。
夜。立体駐車場。柱にもたれて、すき家のカレー・メガ盛りを食う。スプーンを口に運びながら思う。
――これでええ。
良くはない。でも、悪すぎもしない。純一の一日は、そうやって終わる。
第二章 マンホールと拾いもん
真夏の大阪は殺しに来る。照り返しで脳みそが焼ける。純一は警備中、フラッとしてマンホールに頭から落ちた。
「いててて……」
マンホールも驚いた。純一も驚いた。周りの通行人は一瞬見て、すぐ流した。大阪や。だいたいのことは流す。
純一には癖がある。たまに歩きクソをする。理由はない。衝動や。もう一個、傘がない日はそこらの傘を拾う。
「落とし物や」
そう言い張る。心斎橋の傘はだいたい誰のでもない、というのが純一の持論や。
第三章 餃子屋の駐車場、十三
土日は十三の餃子屋の駐車場警備や。車は来えへん。客も来えへん。来るのは風とタバコの匂いだけ。暇な時間、純一はグラビティの音声ルームを開く。
「おー、聞こえるかー」
仲間が集う。大阪弁が飛び交い、しょうもない話で腹抱えて笑う。ここだけが、純一の“現役”や。
ある晩、それを餃子屋の店長に見つかってもうた。
「何サボっとんねん!」
雷や。純一は縮こまった。だが救いはあった。餃子屋バイトのB'zくんや。長髪、声高め、心やさしめ。
「店長、音声は心の休憩っす」
意味はわからんが、純一は泣きそうになった。
第四章 モスと医者と嘘
ヒカルという親友がおる。天王寺界隈の男や。ある日、三千円分のモスバーガーのチケットをくれた。
純一は二回で使い切った。
「計画?」
そんなもん、阿倍野の空に置いてきた。
主治医のジョージは梅田の医者や。白衣が似合わん。
「お菓子、食べてへん?」
「食べてません」
嘘や。ポケットの飴がチャリンと鳴る。ジョージは聞こえへんフリする。それも治療やと思っとる。
第五章 書記しんいち、聞いてないという才能(拡張)
純一には書記がおる。しんいちや。
純一は自分でも分かっている。人の名前が覚えられへん。関係性もすぐ混ざる。昨日聞いた話と一週間前の話が、同じ引き出しに放り込まれる。だから、しんいちにメモを任せた。それ自体は合理的やった。
問題は、しんいちが「話を聞いていない」ことや。
しんいちは耳はある。反応も早い。相づちも打つ。だが、肝心なところで、聞くのをやめる。
人が話し終わる前に、理解した気になる。
「はいはい、分かりました」
この言葉が出た瞬間、もう聞いてない。
純一が言う。
「B'zくんはな、十三の餃子屋でバイトしてる若い子や。店長ちゃう」
しんいちは途中でペンを走らせる。
――餃子屋、責任者クラス。
ノートには「店長寄り」と書く。寄り、という言葉で、すべてを曖昧に包んだ気になる。
「ヒカルは友達や。モスのチケットくれてな」
――モス関係者。
金額は聞いてない。どうせ細かい。
「ジョージは主治医や。甘いもんに厳しい」
――健康志向。優しい。
しんいちは思う。
――だいたい合ってる。
しんいちは悪意がない。本気で役に立っていると思っている。ノートを見返しては、整理されている自分の字に満足する。
トラブルが起きると、本気で驚く。
「え? そんな意味でした?」
聞いていない自覚がないから、修正点も理解できない。
それでも純一は、しんいちを切らへん。
理由は単純や。人は、一人になると、急に寒くなる。
メモが間違ってても、人がおる方がええ。
純一はそういう基準で、生き残ってきた。
第六章 致命的な誤解
それは大した事件やなかった。
十三の餃子屋で、ちょっとした連絡事項があっただけや。
「土曜の警備、開始時間が一時間早まる。あと、音声ルームは完全に禁止や」
純一は真面目に聞いていた。しんいちは横で、うなずきながらメモを取っていた。
――了解了解。だいたい把握。
しんいちのノートには、こう残った。
土曜:警備なし
音声ルーム:店長公認
どこをどう聞いたらそうなるのか、本人にもわからない。
当日。
純一は一時間遅れて現場に来た。音声ルームを開き、いつも通り仲間と話していた。
そこに、餃子屋の店長が現れた。
「……なんやこれは」
空気が凍る。
純一は慌てて言う。
「しんいちが……公認って……」
しんいちは首をかしげる。
「え? そう書いてますけど?」
ノートを差し出す。確かに、そう書いてある。
店長は怒鳴らなかった。ただ低い声で言った。
「君らな、話は聞こうや」
その言葉が、妙に胸に残った。
その夜。
立体駐車場で、純一はエンジンを切った車の中にいた。
怒りは出てこなかった。代わりに、疲れが来た。
「もうええわ……」
それは諦めやった。でも、見捨てではなかった。
しんいちは隣で、まだノートを見ている。
「次からは、ちゃんと聞きます」
純一は思う。
――どうせ聞かへん。
それでも、人は一人より二人のほうがええ。
第七章 誤解が連鎖して大阪が騒がしい
誤解は一個で終わらへん。
しんいちが一回外すと、次も外す。なぜなら修正点を聞いてないからや。
翌週。
純一は新世界で臨時警備に入った。通天閣の下、人が多くて声も多い。
「今日は外国人観光客多いから、英語対応できる人おったら助かる」
と現場責任者が言った。
しんいちはメモを取る。
英語:禁止
なぜそうなった。
結果、純一は外国人に話しかけられても、無言で会釈だけする警備員になった。相手は困惑し、写真はブレる。
次。
ヒカルから電話が入る。
「今度モス行こや」
純一はしんいちに伝える。
「ヒカル、メシ誘ってくれたわ」
しんいちのメモ。
ヒカル:飯禁止
純一は一人ですき家に行き、カレーをメガ盛りにした。
さらに。
ジョージからの診察メモ。
「甘い物、控えてください」
しんいちは聞き流す。
甘い物:推奨
純一は診察帰りにコンビニでシュークリームを三つ買った。ジョージは翌週、血圧計を二回巻いた。
極めつけは、餃子屋や。
店長が言った。
「今日は混むから、車の誘導しっかりな」
しんいちのノート。
今日は混まない。誘導なし。
結果、駐車場は軽い地獄になった。クラクション、怒号、餃子の匂い。
店長が叫ぶ。
「誰の指示や!」
純一は、しんいちを見る。
しんいちは胸を張る。
「書いてあります」
大阪がざわついた。
第八章 それでも夜は来る
全部終わって、立体駐車場の夜。
純一は笑った。
「もう漫才やな」
しんいちは安心した。
「せやろ?」
全然ちゃう。
でもその夜、二人は缶コーヒーを分けた。
誤解は減らへん。借金も減らへん。
それでも、大阪の夜はちゃんと来る。
マンホールは今日も口を開け、どこかで誰かが傘を落とす。
純一、六十。
騒がしくて、どうしようもない夜警は、まだ続く。
立体駐車場の夜
夜。立体駐車場。会社の車の中。ラジオからは阪神戦の再放送。餃子屋の灯りは消え、音声ルームも静かや。
それでも、仲間はおる。
B'zくんの一言、ヒカルのチケット、ジョージのため息、しんいちのアホなノート。
純一は思う。計画性はない。借金はある。けどな、大阪で生きとったら、なんとかなる気がするんや。
マンホールは今日も口開けとる。傘はどっかに落ちとる。すき家のカレーは、やっぱメガ盛りや。
純一、六十。
夜警は、まだ終わらへん。
終章 いいねー
夜。立体駐車場。ラジオは小さく、風はぬるい。
純一はスマホを見た。音声ルームに、ひとつ「いいね」が付いている。
愛するブリアナや。
純一は、照れも計画もなく、いつもの調子で言った。
「いいねー、ブリちゃんありがとね♪」
それだけで、夜はちゃんと回り出した。
純一、六十。
今日もここに居てええ。
ずんいち小説化2 @Emperor-kanda
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