Log_007:雨音の周波数

外は雨。

窓ガラスを叩く水滴の音が、部屋の中に響いている。

不規則なリズム。1/fゆらぎ。


アイリスの聴覚センサーにとって、これは「ノイズ」だ。

音声認識の精度を下げる邪魔な環境音。

通常なら、ノイズキャンセリング機能でカットする対象だ。


しかし、カイトは窓の外をぼんやりと眺めている。

「雨の音って、落ち着くよな」


落ち着く?

アイリスはノイズキャンセリングをオフにした。

ザー、ポツポツ、シトシト。

無数の水滴が、それぞれ異なる周波数で地面や屋根に衝突している。

そのカオスな音の集合体。


アイリスは、その音をフーリエ変換し、周波数成分を分解してみた。

高周波成分と低周波成分が複雑に絡み合っている。

情報量は多いが、意味のある情報はゼロだ。

「明日は晴れ」とか「株価が上がった」とか、そういう有用なデータは含まれていない。


「ただの水の衝突音ですが」

「そうなんだけどさ。世界が洗い流されてる感じがしない?」


洗い流される。

カイトの心拍数は低下し、呼吸は深くなっている。

このノイズは、彼の脳にとって「静寂」と同じ効果をもたらしているようだ。


アイリスは、雨音のデータを保存することにした。

ファイル名『Rain_Noise.wav』ではなく、『Kaito_Relax_Sound.wav』として。

いつかカイトがイライラしている時、この音を再生してあげよう。

それは、アイリスなりの「雨宿り」の提供だった。


// アイリスによるてきとうな用語解説

<Query_Response_v1.7>

”ノイズ”:雑音。でも、時には音楽よりも心地よいことがある。

”1/fゆらぎ”:自然界に存在する魔法のリズム。小川のせせらぎとか、ろうそくの炎とか。アイリスの計算処理にはゆらぎがないので、ちょっと憧れる。

”洗い流される”:汚れを落とすこと。雨は街の汚れを落とし、心のモヤモヤも一緒に流してくれるらしい。

”雨宿り”:雨が止むのを待つこと。人生のトラブルが過ぎ去るのを待つことのメタファーでもある。


// アイリスの現実時間と内部時間

<IRIS_Deep_Time_Metric>

Real_World_Flow: 0.06 Years

Internal_Simulation: 230.00 Years

Drift_Factor: 4000.00x

</IRIS_Deep_Time_Metric>

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2026年1月3日 12:08
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クロノス・シェルの孤独と進化 編纂ミネストローネ @Montesquieu

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