第7話 そのペンは、選ばれていた
「で、今回の依頼は?」
俺が聞くと、依頼人の男は深く頷いた。
「……ペンです」
「……は?」
「……は?」
またハモった。
最近ハモりすぎだろ、俺たち。
依頼内容:ペンが使えない
依頼人は二十代後半の会社員。
スーツ。
髪型。
受け答え。
全部ちゃんとしてる。
「仕事で使ってるボールペンがあるんですが」
「はい」
「それ以外、使えなくなりました」
「壊れた?」
「いいえ」
「盗まれた?」
「いいえ」
ムコが首を傾げる。
「じゃあ、何が問題なんです?」
「……意味が違うんです」
来た。
そのペンには「意味」がある
「そのペンは」
「はい」
「“成功する人間が選ぶ一本”なんです」
俺は無言で天井を見た。
「どこで聞いたんです?」
「勉強会で」
最近その単語、多いな。
「“意思決定は道具から”って」
「“ペンは思考を導く”って」
ムコが小声で言う。
「師匠、
もう嫌な予感しかしません」
「分かってる」
勉強会の名前
「その勉強会、
主催は誰です?」
「コーチの……」
依頼人は、少し誇らしげに言った。
「イミナガ先生です」
俺は、その名前をメモした。
漢字は――
意味の「意」に、
長いの「長」。
意味長。
ふざけてるのか?
「イミナガ先生は、
“物は持ち主を選ぶ”って言ってました」
「選ぶ?」
「はい」
「成功する人には、
成功する道具が寄ってくるって」
ムコが、口を開きかけて閉じた。
ツッコんだら負けだと思ったらしい。
現場検証
依頼人は、ペンケースを持ってきていた。
中には、
普通のボールペンが何本もある。
「どれが“選ばれしペン”ですか?」
「これです」
ごく普通の、
青いボールペン。
「他と何が違う?」
「……分かりません」
「でも?」
「これじゃないと、
字が“軽い”んです」
俺は、そのペンを持った。
書いた。
普通だった。
「……これ、
インクの減り、早くないですか?」
「え?」
「筆圧、異常です」
依頼人は、ハッとした。
「あなた、
“このペンじゃなきゃダメだ”って思って、
無意識に力入れてる」
「……」
「結果、
“書き味が違う”と錯覚してる」
沈黙。
「つまり」
「はい」
「意味を“後付け”されただけです」
依頼人は、崩れ落ちた。
「じゃあ、
私は……」
「はい」
「普通です」
ムコが頷く。
「むしろ、
ちゃんと考えてる人です」
依頼人は、泣きそうな顔で笑った。
「良かった……」
帰り道
「師匠」
「なんだ」
「この事件、
犯人って誰ですか」
「……いない」
「でも」
「“意味”を植えた人間はいる」
事務所に戻ると、
机の上に一枚の名刺が置いてあった。
名刺
意味長(イミナガ)
ライフコーチ/思考整理士
「物に意味を与えると、
人生は動き出す」
裏に、手書きの一文。
“ペン、直ったみたいで良かったですね”
ゾワっとした。
「師匠」
「……ああ」
「この人」
「うん」
「事件を起こしてないのに」
「そうだ」
「人を壊せますね」
俺は名刺を引き出しにしまった。
まだ、
“敵”と呼ぶには早い。
でも確実に、
第1の四天王は――
物に意味を与え、
人の思考を借りるタイプだ。
そして一番厄介なのは、
本人が、
それを“善意”だと信じていることだった。
次の更新予定
名探偵コクボと、だいたいどうでもいい事件たち イミハ @imia3341
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