第1話 病院
――僕は、この匂いが嫌いだ。
病院独特の、このにおい……。
「高瀬さん、どうぞお入りください」
「はい」
診察室に入り、椅子に座る。
「その後、病状はいかがですか?」
「……変わりません」
「まだ、思い出したりしますか? 頭の痛みとかは?」
「大丈夫です」
「分かりました。では、いつものお薬を出しておきますね」
「ありがとうございます」
ガラッ。
扉を開け、診察室を出る。
病状、か……。
「PTSD……。僕に薬なんか必要ない。
僕は、あの日を忘れるべきじゃないんだ」
薬は、金の無駄だ。
今日は病院に来るために、学校を早退した。
「もうすぐ高校二年か……。
人と絡まない僕には、関係ないか……」
空を見上げる。
今日は晴れだ。晴れはいい。少しだけ、気分が楽になる。
路上を踏みしめ、自宅へ帰る。
階段を上り、部屋の前で立ち止まる。
鍵を開け、ドアを開けて中に入る。
「このアパートで、僕は一人だ……。君がいないから……」
あの日……あの雨の日。
彼女は、突然消えてしまった。
あまりにも突然で、目の前が真っ暗に……
いや、真っ赤か……。
「……また、考えてるな」
この部屋には、彼女の思い出が多すぎる。
それが嬉しくもあり……悲しくもある。
「今日は、病院なんか行ったからかな……
こんなことばかり、頭に浮かぶのは……」
疲れた……。
僕はベッドに横になる。
手に持っていた水で、薬を飲む。
でも、隣には誰もいない……。
今日は、よくないな……。
……本当に、よくない。
目を閉じる。
だからといって、すぐに眠れるわけじゃない。
僕は、眠るのが怖い。
夢を見るからだ。
夢といっても、普通の人が見る夢じゃない。
悪夢、というやつだ。
でも、人は眠らないと死ぬ。
だから……眠るだけ……。
「眠くなってきたな……。今日も、悪夢か……」
――ああ……雫……。
どうしたんだ? なんで、そんな顔で僕を見るんだよ……。
何を言ってるんだ?
えっ……どこへ行くんだ?
行っちゃ駄目だ!
そこは……駄目なんだよ!
ドアを開けて、追いかける。
おい!
外は雨だぞ! 戻ってこい!
キィ――ドン!
雫……雫……おい……!
――はっ。
「……またか」
息が荒い。
また、あの時の夢だ……。
最悪だ……。
汗が気持ち悪い。
リビングに向かい、水を飲む。
「……はぁ……。
僕は、生きてていいのか……」
気持ちが沈む。
毎日、この繰り返しだ。
でも――
「僕は弱いな……。
死ぬことも、できないのか……」
……少し、笑えてくる。
僕の両親は、あの事故のあと、
ふさぎ込んだ僕を厄介者扱いし、関係を切った。
冗談みたいな話だ。
ただ、このアパートと、学校、最低限の食費だけは面倒を見てもらっている。
もちろん、アルバイトもしている。
できるだけ、迷惑をかけないようにしているつもりだ。
「……まだ、足りないな」
僕は、高校を卒業したら働くつもりだ。
大学なんて考えていない。
ただ、静かに暮らせればいい。
人と関わりを持ちたくない僕には、それが最善の選択だ……。
この時の僕は、そう考えていた。
――高校二年の、クラス替えの、あの時までは……。
次の更新予定
2026年1月18日 06:07
リトルガール ヤモ @0131meiru
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