『前世で世界経済を支配した大富豪、ド田舎の極貧家族に転生する ~二度目の人生はスローライフを送りたいのに、チート経営知識でうっかり世界を裏支配(フィックス)してしまう』
第2話 泥水と美少女は、磨けば光る優良資産(ポートフォリオ)
第2話 泥水と美少女は、磨けば光る優良資産(ポートフォリオ)
翌朝。
あばら家の隙間から差し込む朝日が、俺の瞼(まぶた)を焼いた。
鳥のさえずり。風の音。遠くで聞こえる農具の音。
……悪くない。
高級ペントハウスの防音ガラス越しに見る景色より、よほど「生」を感じる。
「おはよう、アルド。……昨日はごめんね、たくさん寝ちゃって」
母エルナが、申し訳なさそうに微笑んだ。
徴税官ボリスから巻き上げたポーションのおかげで、顔色は劇的に良くなっている。
だが、痩せた体躯はそのままだ。このまま粗食が続けば、また倒れるのは時間の問題だ。
「おはよう、母さん。気分はどう?」
「ええ、すごく体が軽いの。不思議ね……」
「それはよかった。……母さん、今日は少し外を見てくるよ。食べられる野草を探してくる」
「えっ、でも危ないわ。森には魔物が出るし……」
「大丈夫。家の周りだけだから」
俺は6歳児特有の無邪気な笑顔で(内心では舌を出しながら)家を出た。
野草探し?
そんな生産性の低い活動(タスク)をするつもりはない。
俺が今日やるべきは、「事業計画(ビジネスモデル)の策定」と「初期投資(シードマネー)」の創出だ。
家の外に出ると、そこは相変わらずのディストピアだった。
整備されていない泥道。肥料不足で痩せた畑。そして、生気のない目をして座り込む村人たち。
このオーレン村は、王都から遠く離れた辺境にあり、物流も情報も遮断されている。
いわば、「経済的な孤島」だ。
(だが、孤島には孤島の戦い方がある)
俺は村の脇を流れる川へと向かった。
村人たちが「死の川」と呼んで忌み嫌う場所だ。
水面は油が浮いたように七色に光り、触れれば皮膚がただれると言われている。
だが、俺の「目」には違って見えた。
「……やはりな」
俺は川岸にしゃがみ込み、落ちていた木の枝を水に浸した。
ジュッ、と微かな音がして、枝の先が白く変色する。
毒? 違う。
これは「過剰な魔力濃度」による変質だ。
前世の知識と、アルドの記憶にある魔法学を照らし合わせる。
上流に強力な魔力源(おそらくダンジョンか未発掘の鉱脈)があり、そこから溢れ出た魔素が水に溶け込んでいるのだ。
濃度が高すぎて人体に害を及ぼしているが、適度に希釈・ろ過すれば、これは最高級の「魔力水(マナ・ウォーター)」になる。
(王都の相場なら、小瓶一本で銀貨5枚(約5000円)。ここにはそれが、毎秒トン単位で流れているわけか)
笑いがこみ上げてくるのを抑えるのに必死だった。
村人たちは、毎日札束をドブに流しながら「貧乏だ、飢え死にする」と嘆いているようなものだ。
無知とは、それだけで罪であり、損失(ロス)だ。
「おい、そこのガキ」
その時、背後から野太い声がかかった。
振り返ると、薄汚れた革鎧を着た男たちが三人、ニヤニヤしながら立っていた。
村のごろつき、自称「自警団」のガストン一味だ。
「エルナんちの坊主だろ? ここは俺たちの縄張りだ。通りたけりゃ『通行料』を払いな」
ガストンが俺の前に立ち塞がる。
典型的なチンピラだ。だが、今の俺にはちょうどいい「人材(リソース)」に見えた。
肉体労働には、こういう頭の悪い馬力が一番使い勝手がいい。
「お兄さんたち、暇そうだね」
俺はポケットに手を突っ込み(穴が開いているが)、冷静に見上げた。
「あぁ? なんだその態度は」
「通行料を払えって? ……逆だろ。僕が君たちに『給料』を払うんだ」
「はぁ? 頭がおかしくなったのか?」
ガストンたちが爆笑する。
だが、俺が懐から「干し肉の塊」を取り出した瞬間、彼らの笑いはピタリと止まり、喉を鳴らす音が響いた。
ボリスから巻き上げた戦利品の一部だ。
「肉だ……! 上等な干し肉じゃねぇか!」
「よこせ! ガキが生意気な……!」
飛びかかろうとするガストン。
だが俺は、一歩も動かずに言い放った。
「奪うのは勝手だが、これを食べたら終わりだ。……でも、僕の言うことを聞けば、毎日腹一杯の肉と、酒を飲ませてやる」
ピタリ、と彼らの動きが止まる。
飢えた獣に必要なのは、一度の餌ではない。「継続的な給餌」の約束だ。
「……な、何をやらせる気だ」
「簡単な土木作業さ。……ついてきな。株式会社オーレン(仮)の、記念すべき初仕事だ」
俺がガストンたちに命じたのは、川底の浚渫(しゅんせつ)と、即席のろ過装置の作成だった。
木炭、砂、布を重ねた原始的なフィルターだが、物理的な不純物を取り除くだけで、水は見違えるほど透き通った。
「す、すげぇ……あのドブ水が、飲める水になったぞ!?」
「飲めるだけじゃない。一口飲んでみろ」
俺に促され、恐る恐る水を口にしたガストンが、カッと目を見開いた。
「う、うおおお!? なんだこれ、体が熱い! 昨日の二日酔いが消し飛んだぞ!?」
「魔力水だ。疲労回復と滋養強壮に効く。……これを瓶詰めにして、隣町に売りに行くぞ」
俺の言葉に、男たちが色めき立つ。
だが、俺の視線はすでに別の場所を向いていた。
川上から流れてくる、巨大な流木のような物体。
いや、あれは――。
「……人間か?」
俺はガストンたちに引き上げを命じた。
泥だらけになって引き上げられたのは、ボロ布を纏った少女だった。
年齢は俺(6歳)より少し上、8歳か9歳くらいか。
泥にまみれているが、その下にあるのは、透き通るような白磁の肌と、月光を紡いだような銀色の髪。
(……ほう)
俺の「鑑定眼」が作動する。
ただの子供ではない。
着ている服の生地は、泥で汚れているが最高級の「妖精絹(フェアリーシルク)」。
そして何より、彼女の体から漏れ出ている魔力量が桁外れだ。
【評価:SSランク(潜在能力)】
意識を失っている少女の口元に、精製したばかりの魔力水を垂らす。
ゴクリ、と喉が動き、次の瞬間。
カッ!!
少女の体が淡い緑色の光に包まれた。
周囲に突風が巻き起こり、ガストンたちが悲鳴を上げて尻餅をつく。
「……ん……ぅ……」
少女がゆっくりと目を開けた。
その瞳は、吸い込まれるような深紅(クリムゾン)。
「ここは……? わたくしは……」
彼女は呆然と周囲を見回し、最後に俺と目が合った。
じっと俺を見つめる瞳。
俺は、努めて紳士的に(6歳の子供として最大限の可愛さを装って)微笑んだ。
「目が覚めた? 君、川上から流れてきたんだよ。僕たちが助けたんだ」
少女はハッとして、自分の体を見下ろし、そして俺を見た。
その瞳に、急速に理性の光が宿る。
そして、とんでもないことを口走った。
「その膨大なオーラ……そして、この高純度の魔力水を精製する技術……。間違いない、あなた様こそが……」
少女は泥の上に優雅に跪き、濡れた銀髪をかき上げて俺に頭を垂れた。
「わたくしは、北の精霊境より参りました、風の精霊王が娘、シルフィード。……家出の身で行き倒れていたところを救っていただいた御恩、この命でお返しいたします」
……精霊王の娘? 家出?
ガストンたちが「せ、精霊サマ!?」「マジかよ!」と震え上がっている。
(なるほど。超大型優良物件(ブルーチップ)が、向こうから飛び込んできたわけか)
俺は心の中で、そろばんを弾いた。
風の精霊魔法。それは、農業(風車の動力)、運送(帆船の加速)、そして軍事(防衛)において、最強のインフラになる。
彼女を「社員」として取り込めば、俺のスローライフ計画は5年は前倒しできる。
「顔を上げて、シルフィード」
俺は、王が家臣に接するように、自然と尊大な口調になっていた。
不思議と、彼女にはそれが心地よいようだ。頬を染めて俺を見上げている。
「僕の名前はアルド。……君の力、高く評価するよ。僕の下で働く気はあるか?」
「はい! 是非とも! ……あ、あの、お給料は……?」
「衣食住の保証。それに、この『魔力水』飲み放題でどうだ?」
「契約成立です主様(マスター)!!」
チョロい。
あまりにもチョロすぎる。
だが、これで役者は揃った。
【現在の人材(ポートフォリオ)】
・CEO:俺(アルド)
・現場監督兼肉体労働:ガストン一味
・最高技術責任者(CTO)兼 戦略兵器:シルフィード(精霊姫)
・社外取締役(脅迫済み):ボリス(徴税官)
「……フッ」
俺は川岸に立ち、風に吹かれながらニヤリと笑った。
泥だらけの村が、黄金郷に見えてくる。
このメンバーなら、行ける。
国一つくらいなら、数年で経済的に支配できるだろう。
「さあ、仕事だ。まずはこの村を、大陸一の『生産拠点』に作り変えるぞ」
俺の号令に、ガストンたちとシルフィが声を上げる。
スローライフ?
ああ、もちろん目指している。
だがその前に、ちょっとばかり世界を驚かせてやるのも、悪くない余興だ。
『前世で世界経済を支配した大富豪、ド田舎の極貧家族に転生する ~二度目の人生はスローライフを送りたいのに、チート経営知識でうっかり世界を裏支配(フィックス)してしまう』 朧木 光 @hlnt_arc
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