残熱

いつもの分かれ道である丁字路のカーブミラーが見えてくると、僕たちの歩調は自然と緩んだ。

傾いた陽はすでに建物の陰に隠れ、辺りには藍色の夕闇が混じり始めている。


「……じゃあ、私はこっちだから」


真理子が立ち止まり、くるりと僕の方を向いた。

その拍子にふわりとスカートが舞い上がる。

僕は思わず視線を太腿のあたりに走らせてしまったが、彼女はそれを咎めるどころか、楽しむように目を細めた。


「もう……どこ見てるのよ」


口ではそう言いながら、彼女は一歩、僕の懐に踏み込んでくる。

シャンプーの香りと共に、先ほどまでの情事の甘い匂いが鼻先を掠めた。

誰かが見ているかもしれない路上で、触れ合うほど近くに立つ。その背徳感に、僕の身体が強張る。

真理子は背伸びをすると、僕の耳元に唇を寄せ、熱い息を吹きかけるように囁いた。


「……随分、乾いてきたわ」

「っ……」

「歩くたびにね、布がないところが擦れて……すごく、変な感じ。今も、風が通ってスースーするの」


彼女は悪戯っぽくクスクスと笑うと、トン、と僕の胸を軽く指先で突いて離れた。

その一瞬の距離の変化が、ひどく寂しく、同時にもどかしい。


「明日の朝には、ちゃんと履いてくるから。……残念がらないでね?」

「うるさいな……気をつけて帰れよ」

「ふふ、君もね」


真理子は小さく手を振ると、夕闇の向こうへと踵を返した。

カツ、カツ、とローファーの音が静かな住宅街に響く。

僕はその場から動けず、彼女の後ろ姿を見送った。

歩き出すたびに、紺色のプリーツスカートが軽やかに左右に揺れる。

一見すれば、清楚な女子高生の後ろ姿だ。

だが、そのスカートの下には、一切の守りがなく、白い柔肌が露わになっている。


時折吹く夕風が、彼女のスカートを悪戯に巻き上げる。

そのたびに彼女は煩わしそうに、けれどどこか優雅な手つきでスカートの裾を押さえる仕草を見せた。


その指先が触れているのが、布越しではない、直接の素肌なのだと想像すると、僕の奥底に再び熱い塊が込み上げてくる。

角を曲がり、彼女の姿が見えなくなるその瞬間まで、僕は「秘密」を隠し持った共犯者の背中を、ただ黙って見つめ続けていた。

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ふたりの筋肉図鑑 祥花 @ssachika

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