第8話 暴走するレオノーラ
執事のバットラー曰く、冒険者以外にロクな選択肢がない。
容赦のない現実を前にしてテンションがだだ下がりな優理とは対照的に、レオノーラのワクワクはストップ高になりそうなほど爆上がり。これで進路が決まったとばかりに両手を合わせるや、当事者そっちのけで勝手に盛り上がっているのだった。
「ふんふん、なるほど。ユウリは冒険者になるのを選択したのね」
「他の仕事がロクでもないものばかりだから、やむを得ず……なんだけど」
「うんうん、なるほど」
「いや、なにが「なるほど」なのか分からないのだけれど」
「そうと決まれば早速ユウリの冒険者登録をしないとね。明日の朝いちばんにギルドに向かうわよ」
「えっ、明日の朝イチ?」
「善は急げというのだから当然でしょう」
まるで〝ユウリの人生の舵を切る権利は他ならぬ自分が持っている〟とでも言うような堂々たるもの。
その勢いに当の優理ですら「そうなんだ」と圧倒されて首を縦に振る中、バットラーが「お待ちください」と暴走しようとするレオノーラにストップをかける。
「あいにくですが、お嬢様がそのような雑事にかまけている時間などございません」
「それはどういうことかしら?」
盛り上がったところに水を差されて不機嫌極まりないレオノーラに、バットラーが「お勤めをお忘れになられては困ります」と釘を刺す。
「明日は午前中にオーガスタ代官所への訪問視察。お昼に代官との会食が執り行ったのち午後から視察の続き。夕方より当地の商人との会合が予定されています」
懐から手帳を取り出して「よろしいですか」前置きすると、明日の予定をつらつらと述べる。
朝から晩までギッシリと詰まった予定に「かように行事が立て込んでいますので、冒険者ギルドに立ち寄る時間はございません」とキッパリ。
「えーっ」
鼻を鳴らしてブーイングをするレオノーラに、バットラーが「ちなみに明日以降も予定が詰まっております」とダメを押すように付け加え。
「まさかとは思いますが、オーガスタの町まで遊びに来たなどとは思っておられませんよね?」
「…………」
「お嬢様の目が泳いでいる」
「うっ、うるさいですわね。それくらい、ちゃんと理解していますとも!」
「ご理解していたようで安心しました。オーガスタ滞在中のお嬢様のスケジュールは、全て予定が詰まっております」
「え、そうなの?」
そこまで強行スケジュールなのかと、傍観役のユウリもついつい訊いてしまう。
もちろんバットラーは即レス肯定。
「当然です」
「あ、当然なのね」
「明日の朝から出立の前日まで、お嬢様にはご予定が控えています」
そう言うと改めて手帳を取り出して、明日以降のの予定をつらつらと述べていく。
バットラーの言葉にウソ偽りなく、聞けば聞くほどに中々のハードスケジュール。秒刻みは大げさにしても本当に盛りだくさんの予定が詰め込まれており、とてもじゃないが新たな用件をねじ込むような余地はない。
「うん。こりゃ、ムリだわ」
「ご理解いただき幸いです」
肩を竦めるユウリにバットラーが慇懃に礼をする。
「とはいえお嬢様がユウリ嬢の保護を保証をしたのですから、ヴァルフェリア侯爵家の名において履行するのは当然の責務。明日お嬢様の命ということで、代官にその旨伝えるようにいたしましょう」
「いえ、まあ。そうしてくれたら助かります」
そのうえで現実的な落としどころを提示したのだが、これに異を唱えたのが他ならぬレオノーラ。バットラーをキッと睨むや「お待ちなさい」とけん制。
「わたくしを差し置いて、勝手に話を進めないでくださる?」
「いや、当事者はオレなんだけど……」
「しかし。先ほど申し上げた通り、オーガスタ滞在でのお嬢様のご予定は詰まっています。ユウリ嬢に対して割く時間はないと思いますが?」
「決めつけないで!」
「んなこと言ったって、あの予定じゃ割り込むのはムリだろう」
「明日も朝から予定が詰まっております」
「それがなんだっていうの?」
「バットラーさんは今さら予定の変更ができないって言っているんじゃないの?」
「ユウリは黙っていて!」
「はい」
当事者なのにユウリは排除され、レオノーラが再びバットラーに睨みを利かす。
「わたくしの予定をわたくしが決める。バットラーに指図される謂れはないわよ」
腕を組んで挑発的に言いいてのけるレオノーラに、バットラーが「そうは参りません」と換言。
「お嬢様は物見遊山でオーガスタに来られたのではございません。多忙を極める侯爵閣下の名代として、此度は訪問されているのです」
「ええ、そうよ」
「ですので、先ずはそのお仕事を優先していただきたいと」
我が儘を諫めるようにバットラーが公務を促したが、そのセリフを訊いた途端レオノーラの口角がニッと持ち上がり「ふ~ん」と悪い顔。
「つまり。バットラーはわたくしに〝仕事を優先せよ〟と言っているのね?」
それで間違いないのか正すようなレオノーラのセリフに無表情を装っていたヒルデがわずかに顔をしかめ、訊かれたバットラーの喉元がゴクリと動いて息を呑む。
あ、これ絶対ロクでもないヤツだ。
どこかはそれなのかはイマイチ分からないが、バットラーが致命的なミスを犯したことだけはユウリにも分かる。
「左様でございます」
「もういちど訊くけど、それで間違いないわよね?」
苦虫を嚙み潰したようにバットラーが渋々「……御意」と答えると、レオノーラが「言質はとったわよ」とニンマリ。
言うや天を仰いで「アレをこうすればコレができて、ソコを詰めればナニの要件をねじ込めるわね。ふむふむ、ココはこんな感じにすればいいかな……」と、なにやらブツブツと呟きだしたのである。
「なに、アレ。妄想?」
「悪夢の前兆」
不穏な様子を見て呟いたユウリに答えるように、ヒルデが口をへの字にして大きなため息。バットラーは諦観したのかなにも喋らない。
時間にして1分、2分?
考えがまとまったのか、天を仰いで思案していたレオノーラがカッと目を見開くや「明日1日で全部の仕事を片付けるわよ」と宣言。
「今夜中に帳簿の監査をするわよ。ヒルデは監査する帳簿一切を、今すぐホテルに持って来るように。バットラーは会合をぜんぶ明日にまとなさい。午前中に視察を全部終わらせて代官との会食は昼食に変更、主だった商人との会見は午後からに調整、夜会は挨拶をすれば十分でしょう。その旨、通達と調整をして」
そう矢継ぎ早に指示を出すと、「今すぐ準備に取りかかって」とバットラーとヒルデに実行を命じる。
続けざま状況についていけず呆然とするユウリに「しかたがないから1日お待ちなさい」と言ったのである。
「今すぐって、急すぎない?」
「当然よ。善は急げと言うでしょう」
「いや、ブラックまっしぐらだろう」
「夜は暗いのだから、ブラックなのは当然でしょう。おかしなことを言うわね」
「そのブラックじゃない!」
予定では5日間にも及ぶ監査の日程、それをたった1日に詰めるというのだから正気の沙汰ではない。
にもかかわらず。山のようにあった視察に監査それと会合の仕事を、有言実行とばかりに本当にたった1日で片付けてしまったのだ。
「当然よ。わたくしはやればできる子」
レオノーラ、恐ろしい子。
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美少女剣士♂と絶壁令嬢に爆乳メイド 井戸口治重 @idoguti
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