第7話 呪いの余韻と現実直視、男の娘の決断は?

 そんなこんなで小一時間後。

 度重なる着衣の爆散に疲労困憊したレオノーラが、諦めのポーズのままぐったりとソファーにもたれかかる。


「似合っているから。もう、それで良いわよ」


 右手を振って匙を投げるレオノーラに優理は「そんなぁ~」と涙目。


「やっと男物の服が着れると思っていたのに……」


 未練がましくぼやく優理ときたら、

相も変わらず絶賛女装の真っ最中。

 スカート姿でいじけて床に「の」の字を書く様は庇護欲を誘うこと請け合いで、正体が判っていても思わず抱きしめたくなるほどの破壊力がある。


「それだけ可愛ければ、別にその格好でも問題ないわよ」

「そんな妙な太鼓判は要らない」

「でも、着替えるだけムダでしょう」

「あうっ……!」


 それを言われるとどうにもならない。

 どういう理屈かさっぱり解からないが、男物と名の付くものは服といわず靴から装飾品に至るまで、優理が身に着けるや否やたちどころに爆散し物理的に使い物にならなくなる。

 身に纏っては爆発四散、身に纏っては爆発四散。

 身に着けることができるのは女性ものか、男女の区分けがないユニセックスな用品のみ。

 しかも狙いすましたかのように、爆散するのはレオノーラかヒルデと視線が合った瞬間。まるで意図して辱めを与えるかのように、絶妙な間合いで着衣が弾け飛び二人に裸を晒さすこととなるというオマケつき。


「もう諦めたら?」

「そんなー!」


 打ちのめされる優理を「大丈夫」とヒルデが慰めるが、直後にフッと鼻が鳴り口角が1ミリ上がったのは気付くまい。

 絆されて「ありがとう」と答えるも、続けて口にしたのが「とっても似合っている」と奈落に足蹴する一言。

 傷口に塩どころかカプサイシンの原液を塗りたくったのである。


「オレに何か、怨みでもあるのか?」

 

 淡々と暴言を吐く悪辣ぶりにキッと睨めば、隠すことなく「もちろん」と即答。

 そのうえで宣材写真のようにキレイに整えられたスィートルームをヒルデがジッと見つめてボソッと呟く。

 

「……片付けが大変だった」

「も、申し訳ありませんでしたー!」


 たちまちその場で正座をして深々と頭を下げる。

 というか頭が上がらない。

 着る服着る服の全てがことごとく爆発四散し、廃棄物処理場さながらになったスィートルームを掃除して片付けたのは、他ならぬヒルデその人。

 言外に「要らん仕事をさせやがって」というオーラがひしひしと感じられ、無言の圧が優理のライフをガシガシと削っているのであった。


「……オレ、今日は厄日に違いない」


 スカートの裾を摘まみながらイジイジするが、厄日の概念がないこの世界では意味不明の言葉のようで「何をブツブツ言っているの」と単に呆れられるだけ。


「ひとりで喋って。壊れた?」

「壊れるかー!」


 ヒルデからのイタイ子認定に吼えると、レオノーラが「女の子が大声を出さない」とさっきとは真逆のセリフで嗜める。


「いや、オレ、男だって」


 レオノーラも見ただろうと言うも「見目が女の子で男の服が着れないのだから、もうユウリは女の子ということにしておきなさい」とまさかのちゃぶ台返し。


「そんな、メチャクチャな!」

「メチャクチャもなにも、男の恰好ができないでしょう? それとも女装趣味の好事家って言われたい?」

「ぐっ……」


 痛いところを衝かれたうえに「そんなことよりも」とレオノーラからさらなる追い打ち。


「異論は認めないわ。そんな些末なことよりも、先ずはこれからの身の振り方ね」


 優理の葛藤を些末なことだと斬って捨てると、レオノーラがこの先の指針を示唆する。

 スルー扱いに不満はあるが、反論しようにも素寒貧では文句の言いようがない。


「どうすれば良いと思う?」


 しかめっ面で問い質せば「バットラーにお聞きなさい」って、なんじゃそりゃ!



     *



「冒険者が現実的な選択でしょうな」 


 レオノーラに呼ばれたバットラーが、丸投げした質問に対して「うーむ」と顎に手をやりながら考え出した解がこれである。


「その根拠は、なんなの?」

「幾つかございますが、いちばんの理由はユウリ嬢の身元がしっかりしていないことです」


 指を1本立てて即答。


「今回はお嬢様の馬車に同乗していたので町に入れましたが、ふつうなら門番に止められて終わりでしょう」


 バットラーの指摘にレオノーラも「そうね」と頷く。

 身元不確かなものを町に入れないのは治安維持として当然のこと。中世ヨーロッパのみならず江戸時代の日本でも行われていた制度である。


「ふつうは町に入れず野垂れ死に」

「マジか? おい」

「ヒルデの言う通りよ。町の中にスラムを作りたい領主なんていないわ」


 レオノーラの言を「左様でございます」と肯定すると、バットラーが冒険者を勧める理由を列記する。


「ユウリ嬢にまず必要なのは身分証。幸い冒険者であれば誰でも登録できるうえ、その場で身分証を発行することができます。それに仕事も子供のお使いのようなものからございますから、手っ取り早く日銭を稼ぐこともできましょう」


 無一文なユウリにとって即日支払いの手段は魅力的だ。レオノーラの気まぐれで今夜の宿は確保できたが、いつホームレスに堕ちてもおかしくない。生活基盤を整えるためにも現金の確保は必須。

 身を乗り出して「そこんところ、もう少し詳しく」と、バットラーに冒険者についてリクエストするのも当然の帰結。

 見た目が美少女だけにバットラーも満更ではないようで「さようですな」と目じりを下げて説明をしてくれた。


 バットラーの説明によると冒険者というのは通称で、正式な名称はなく通称【ギルド】と呼ばれる組織に登録する人の総称とのこと。ギルドは一種の独立法人で官民問わず依頼を請け負い、受けた依頼を登録した冒険者に請けさせる。その仕事内容は多岐にわたり、上は要人警護や傭兵から下はどぶ攫いに至るまでまさに様々。

 今風に平たくいえばギルドは超大手の人材派遣会社で、冒険者は登録派遣社員といったところか。


「ギルドで地道に仕事をこなして信用を得れば、紹介状を得ることも可能。そうすればいずれ大店や貴族家の下働きに就くこともできるでしょう」


 貴族の係累など氏素性のハッキリした者ならばともかく、この世界でまともな職に就こうと思えば紹介状は必須。当然信用の置けない相手に出すことはなく、伝手のないものはギルドで地道に信用を勝ち得るしかないのである。


「それがお嫌なら。男なら商船の漕ぎ手に、女なら娼館の門を叩くくらいでしょうか? 他には自身を売って奴隷という手もございますが、あまりお勧めはしませんな」


 物騒な提案に優理は「滅相もない」と激しく首を左右に振る。

 この世界、選択肢が極端すぎるだろう!

 商船の漕ぎ手なんて3K職場はご免こうむりたいし、女装でしかない優理に娼館勤めなどムリというか想像すらしたくない。


「ご希望とあらば紹介いたしますが、如何なさいますか?」


 如何もなにも、この選択肢なら選べる仕事は一択。


「冒険者になさいます」


 それしか返答できなかった。





――――――――――――






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