宇宙船とポメラニアンと、今日のごはん

ひつじ・メイ🐕️

第1話 たい焼きとポメラニアン

(ゆるふわ日常・不定期更新)


 仕事帰りの宇宙船は、いつもの自動操縦に任せていた。

 航路は安定、警告もなし。

 あとは、目的地に着くのを待つだけだ。


 操縦席に座っていると、

 後ろから、小さな気配が近づいてくる。


 クリーム色のポメラニアン、くーちゃんだった。

 いつから一緒だったのかは、もう覚えていない。


 ぴょん、と軽く跳ねて、

 そのまま俺の膝の上に飛び乗る。

 くるりと丸まり、落ち着いたと思った次の瞬間――

 なぜか、俺の顔のほうにお尻を向けた。


「……いや、そっち向きか?」


 文句を言っても、意味はない。

 くーちゃんは気にした様子もなく、

 そのまま、すぅ……と寝息を立て始めた。


 時々、思い出したように頭を上げる。

 周囲を一瞬だけ確認して、

 また、伏せる。


 その重みと温かさを感じながら、

 俺の腹が、小さく鳴った。


「……あー。飯、食わないとな」


 しばらく、そうしていた。


 ぼーっとしながら、

 視線を鞄に移したときに、ふと思い出した。


***


「よかったら、これ」


 客の中年の男性が、声をかけてきた。


 やけに存在感のある、太いフレームの眼鏡。

 レンズには、ほんのり薄紫の色が入っている。

 その人は、紙袋から何かを取り出した。


「たい焼きです。

 福袋に、思ったよりたくさん入ってましてね」


 差し出されたのは、

 パックに入った、たい焼き。


「新年ですし」


 そう言われて、

 ようやく思い出す。


 ――そういえば、今日は年明けだったか。


 スペーステレビで、

 カウントダウンをやっていた気がする。

 でも、特別な実感は、なかった。


「ありがとうございます」


 そういって、受け取った。


***


 膝の上で、くーちゃんが小さく寝息を立てた。


 鞄に手を伸ばした、そのとき。


 くーちゃんが、ぴくりと耳を動かす。

 すぐに、むくっと起き上がり、

 ひょい、と膝から降りた。


 床に着くと、

 一度だけこちらを見上げてから、

 レンジの前へ向かう。


 鞄から、取り出したパックを開けると、

 中には二つ。

 定番の、クリーム入り。

 それと――お好み焼き入り、という変わり種。


 宇宙船の簡易レンジに入れて、温める。


 レンジの前。

 足元に、ちょこんと座る。


「きゅーん」


 小さく鳴いて、

 じっと、こちらを見る。


「まだだぞ」


 そう言っても、

 視線は逸らさない。


 温め終わり、

 たい焼きを取り出す。

 クリームのほうを、先にかじった。


 その瞬間、

 足元で、ぴょん、ぴょん、と跳ねる気配。


 くーちゃんが、

 必死にこちらを見上げている。

 そして、行儀よく――おすわり。


 視線が、

 たい焼きから、一ミリも離れない。


「……お前な」


 無視して食べ続けても、

 諦める様子はない。


 膝を、チョンチョン、と前足で叩く。


 お好み焼き入りのほうを食べはじめても、

 まだ、じっと待っている。


 仕方なく、

 ソースのついていない、端っこの部分をちぎる。


「これだけだぞ」


 差し出すと、

 ぱくっと咥えて、もぐもぐ。


 あっという間に食べ終えると、

 満足したのか――

 床に、べたん。


 お腹をつけて、

 そのまま動かなくなった。


「……切り替え早いな」


 くーちゃんは、もう寝ている。


 宇宙船は、静かに進む。

 外は、変わらない星の海。


 新年になったけれど、

 今日の一日は、特に変わらない一日だった。


 それでも――

 まあ、悪くはない。

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