第2話

「ねぇねぇ佐藤さん」

 入学式が始まり、体育館に移動した亜莉那に隣の席に座っていた女子が声をかける。

「さっきの人、カッコ良くなかった?」

「さっき?」

「だからぁ、さっき校庭で佐藤さんのこと助けた人」

「助けられた覚えはないけど」

 言葉は刺々しかったが、その表情は先程とは違って優しげな眼差しだった。

「あ、あたし小村美奈。よろしくね」

「佐藤亜莉那。……よろしく」

『え~、ここでこの桜花高校の生徒会をご紹介します』

 司会進行役の教頭が、ハンカチで額を拭きながら壇上を見ると、響一郎を先頭として四人の男子が壇上に上がってきた。

 縁が赤い眼鏡を掛けて、少し赤みがかった茶髪の青年が響一郎。その響一郎の脇には、黒髪で、前髪が目にかかりそうなほど長く、少々長めの後ろ髪を一つに結んでいる青年。金髪に近い茶髪の英吾と、比較的小柄で童顔のかわいい少年が控えていた。

 響一郎は、マイクの位置を調節すると、一通り新入生の顔を見まわして、一番後ろのG組に亜莉那の顔を見つけると、ニヤリと笑った。

「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。生徒会長の真田響一郎です」

「ね、ね、佐藤さん。さっきの人だ。生徒会長だったんだ」

 美奈はそっと亜莉那の袖を引っ張る。

「私はあまり話が上手な方ではないので、挨拶は手短にしようと思っています。生徒会、といいましてもほとんど仕事と言うほどの仕事はありません」

「ちょ、ちょっと会長。」

 響一郎の右後ろにいた黒髪の青年が慌てて響一郎に話し掛ける。この突拍子のない生徒会長の発言に、新入生一同は一度、あっけに取られるが、すぐに笑いの波が体育館中を襲う。

「し、失礼しました。三年の滝江です。えっと、俺は生徒会役員じゃないんですけど、なぜか今日ここに呼ばれてしまって……」

「なぜかじゃないだろ滝江」

 響一郎は再び滝江の手からマイクを奪い取る。

「この学校の外見だけで惹かれて来た、またはこの元男子校に逆ハーレムを求めてやって来た女生徒の皆さん」

「会長!」

 始めは響一郎に向かって叫んだ滝江だったが、もういい加減ウンザリという顔で英吾に寄りかかる。

「もうイヤ……綾代くんなんとかして」

「え、そ、そんな事言っても……」

「貴方達はいわば四二八匹の狼の群れに飛び込んだ羊同然です。」

 その言葉に、G組の女子から歓声があがる。亜莉那はと言うと、もううんざりという顔で、隣で騒ぐ美奈を見た。

「そんな貴方達を狼の群れから救う為に、私真田が在校生徒から選んだメンバーで『桜花式部隊』を組織致しました」

 響一郎の一言で在校生が沸きあがる。誰が始めたのかは分からないが、とたんに会長コールが始まり、響一郎は亜莉那を見る。

「ここで、我が『桜花式部隊』のメンバーを紹介します。まず私めが隊長、『式部隊位置美しい男』三年D組の真田です」

 「会長ー!」と低音のきいた男の声や、「会長カッコイー!」という女の黄色い声が響き、響一郎は滝江の肩に手を掛ける。

「そして彼が副隊長、『式部隊一の勉強家』三年F組の滝江教授」

 同い年の生徒にわざわざ響一郎は『教授』とつける。もう体育館全体が響一郎のペースに飲まれてしまっている。滝江は響一郎からマイクを取り上げると、英吾に押し付け、響一郎を壇上の隅に連れて行く。突然滝江からマイクを渡された英吾はどうしたらいいのか分からず、戸惑っていたが、いつのまにか『会長コール』が『滝江コール』に変わり、それから『英吾コール』に変わってきている事に気付くと、次第にのってきたようで、演壇に足を乗せる。

「『式部隊一イイ男』の二年C組綾代でっす。ちなみにただいま彼女募集中」

「いいぞ英吾!!」

 大衆を抑えるマネをしながら、英吾はマイクを真緒に渡す。真緒が演壇に立ったとたん。男女問わずに「カワイー」という声が飛び交った。

「みなさん始めまして『式部隊一カワイイ』二年A組の近藤真緒です。ヨロシクっ!」

「で、こんな所でヒソヒソ話ィ? もう滝江ったら」

「誤魔化さないで下さいよ会長。こんな所で式部隊のお披露目する事ないでしょうが。何が『話が上手じゃない』ですか」

 ふっと笑みを漏らすと、響一郎は教師席にいる一人の女教師に目を向けた。その女教師は響一郎と目が合うと急にハッとし、響一郎をニラみつける。響一郎はその反応を蔑む様に見ながら視線を滝江に戻す。

「いいだろ別に。この位やらねーとアイツは落せない」

「あいつ?」

 滝江の質問に答える事もなく、響一郎は壇上の中央に戻ると、真緒からマイクを受け取り、湧き上がる群衆を瞳で制した。

「この『式部隊』はみなさん女生徒の為のものです。なにか困った事が起きたときにはいつでも私達に知らせて下さい。かと言って、私達男子に直接言うというのも気がひけるかもしれません。その為に私達は貴方達との窓口として一人の女生徒を『式部隊』に迎えたいと思います」

 一瞬だけ、生徒達はザワめいた。圧倒的に女子の方がその同様は大きかった。誰が『式部隊』に選ばれるのか。できれば自分が選ばれたい。そう思っていた。

「『式部隊』に必要なのはなんと言っても体力です。私達は今朝ある女生徒に会いました。その人は、この桜花高校の問題児、時任くんを竹刀で払いのけるほどの豪傑です。私はその人を『式部隊』に迎えたいと思います。是非、みなさんも彼女を祝福して下さい」

「ちょっと……それって……」

 美奈はそっと横を振り向く。

「一年G組の佐藤亜莉那さん」

 G組の生徒は一斉に亜莉那を振り返る。亜莉那は面食らった表情で壇上の響一郎を見る。

「佐藤さん。壇上に上がって頂けますか」

「ちょっ……ジョーダン……」

 そう言い掛けた亜莉那だったが、突然亜莉那の手に何か暖かい物が触れる。振り払おうとして振り返る亜莉那の視界に、真緒が入ってきた。

「さ、どうぞ」

 半ば強引に、真緒に手を引かれ、亜莉那は壇上に上ってしまった。

「さあお姫様。もう逃げられないよ」

 突然響一郎に手を掴まれ、亜莉那は咄嗟に振り払おうとしたが、響一郎の力は思った以上に強かった。反射的に右足を響一郎の腹に向けて上げたが、ぱしんと何かに足を取られる。

「!?」

「女性がそんなはしたない真似をするもんじゃありませんよ」

 滝江は亜莉那の足を床にそっと置くと、ニッコリと微笑んだ。

「みなさん! この様に男気溢れる佐藤亜莉那さんに盛大な拍手を!」

 男子のみならず、G組の女子も拍手をする。

「ハメやがって……」

「君はもう逃げられないんだよ。佐藤亜莉那さん」

 そう言う響一郎の顔は、明らかに揶揄を含むものだった。

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跳梁跋扈桜花式部隊 古河さかえ @sakaefurukawa

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