勇者パーティを追放された地味な器用貧乏は、 魔王軍の女騎士とスローライフを送る

ちくわ食べます

第1話

「よし……確認終了っと」


 僕――ゼクスは地図を畳んで、たき火のそばに座った。


 勇者パーティでの夜営。僕は勇者パーティの一員で、魔王討伐の旅の途中だ。


 補給地点、必要な備品、魔物の生息範囲を確認するのは僕の役目。僕たちの旅は順調だった。魔王に占領された街をいくつも解放し、魔王軍の幹部による奇襲だって何度も退けてきた。


 勇者レイルは剣の手入れをしながら、仲間たちと楽しそうに笑い合っている。勇者の隣で微笑んでいるのは、聖女フィリアだ。


 僕の仕事は地味で目立たない裏方だけど、それでもいい。そう思う理由はフィリアの影響が大きいかもしれない。


 柔らかくて、慈愛に満ちた、誰にでも向けられる笑顔はパーティの花。僕にとっての密かな癒やしだったりする。


 だけど――夜中トイレに起きた時、僕は見てしまった。


 テントの陰で、二人が抱き合っているのを。


 フィリアの白い指が勇者の胸元に絡んでいて、小さな囁き声が風に乗って聞こえてくる。


「――っ、……レイル様、……そんな、激し……」


「いいだろう? もう我慢出来ない。それに……みんな寝てるから問題ないさ」


 いままで聞いたこともない、フィリアの甘ったるい声。


 そのまま2人が天幕に入っていくのを、僕は見なかったことにした。


 僕は裏方だ。


 剣も魔法も中途半端な器用貧乏タイプで、戦闘ではあまり役に立たない。


 だから僕は……フィリアに相手にされなくても仕方ない。


 2人に割って入ることはおろか、怒る権利だってないんだ。


 フィリアが勇者に惚れるのは当然の成り行きだった。


 翌朝、勇者レイルが僕を呼んだ。


「ちょっと話そうか」


 その声はやけに軽くて、朝ごはんのメニューでも決めるみたいなノリだった。


 勇者に付いて行くと、すでに全員が集まっていた。戦士も、魔術師も、聖女であるフィリアも。


 フィリアの頬は、やけに艶っぽい。いいホルモンが分泌されたんだろうな。


 これだけ見つめても、もちろん僕と彼女の目があうこともない。


「ゼクス悪いけど。君、もういらないんだ」


 レイルが剣を肩に担ぎながら、自然な感じで言った。


「えっ?」


 あまりにも自然に言われたので一瞬、意味がわからなかった。


「君ってさ、地味なんだよ。華麗な勇者パーティに地味なやつがいたらさ、英雄譚の汚点になるだろ?」


「でも……みんなの装備を手入れしてるのは、僕で……」


「ふっ、そんなのは誰にだってできるだろ? 君と違って俺たちは選ばれた存在だ。それに――」


 お前の代わりなんていくらでもいる、と言われた気分だった。


「君は戦っても目立たないしさ、正直盛り上がらないんだよ。まともに前線に立てない奴は、ここまででいい。さよならだ」


「そんな……」


 誰もが気まずそうに視線を逸らす。そして……誰も否定しない。


 フィリアに至ってはレイルの腕に寄り添ったまま、僕を一度も見なかった。


 ――なるほど、そういうことか。


「……そうだよね」


 ――僕は不要なんだ。


「じゃあ、出ていくよ」


 背負っていた大きな荷物をおろして、自分の小さなバッグを手に取った。


 僕は手早く荷物をまとめると、振り返らずに森へと歩き出す。死の森と呼ばれる、誰も近づかない方向へ。


 ――最初から、僕は『勇者パーティ』じゃなかったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月2日 16:00
2026年1月3日 16:00
2026年1月4日 19:00

勇者パーティを追放された地味な器用貧乏は、 魔王軍の女騎士とスローライフを送る ちくわ食べます @chichichikuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画