未生の卵のモノローグ

滝口アルファ

未生の卵のモノローグ

私は未生の卵です。


生まれるのか生まれないのか、

存在するのか存在しないのか、

曖昧模糊あいまいもことした未生の卵です。


と言っても、

分かりにくい概念でしょうから、

ミショウノタマゴという、

妖精みたいなものだと思ってくださいね。


よって、私は、

もし世界に具現する幸運に見舞われたとして、

祝われるのか祝われないのか、

全くもって分からない、

蜃気楼のように危うげな卵なのです。。


けれど、

噂は聞いていました。


私よりも先に生まれていった、

先輩の卵たちは、

数え切れない幸福感を、

人間に与えて死んでいったと……。


ですから、私も、

ニワトリの卵として、

現実の卵として、

人間に期待されて賞味されたかった。


ところが、

私は、

いま絶望も悲しみも凍える未知の土の中。


未生の卵ですから、

私は非常に幻想的な存在として、

ニワトリと一緒に、

その子宮に抱かれたまま、

いま絶望も悲しみも凍える未知の土の中。


埋められたのは、

何だったのでしょう。


無数のニワトリの死骸、

無数のニワトリの死骸の無念、

私のような未生の卵、

私のような未生の卵の無念。


無尽蔵の悲しみが、

この冬枯れの大地に、

まるで核のゴミみたいに、

埋められて葬られたのです。


なんでこんなことになったのでしょうね。

それは、

あの高病原性鳥インフルエンザ。


たった数羽のニワトリの発症が、

数十万羽のニワトリの殺処分になる、

あの高病原性鳥インフルエンザが原因でした。


仕方がないのは分かっています。

感染の延焼を防ぐためには、

それは最善の方法なのでしょう。


しかし、

私は未生の卵です。

つまり、

希望の溢れかえる、

未来を救う、

そんな栄養満点の卵になるはずでした。


そして、願わくは、

私は一度でいいから、

受け入れられたかった。

祝われたかった。


例えば人間の何気ない朝を彩る、

玉子焼きや目玉焼きになって。


あるいは人間の誕生日をお祝いする、

バースデーケーキの一部になって。


しかし、

そんな私の未来が薫る、

美しき夢は奪われてしまった。


誰にこの嘆きを訴えればいいのでしょう。

何処へこの嘆きを訴えればいいのしょう。

たとえ嘆いたところで、

ここは神の耳にも悪魔の耳にも届かない、

絶望も哀しみも凍える未知の土の中。


さて、

私は未生の卵です。

最後も最初もない、

単なる幻想の産物の、

未生の卵です。


もう意識が消えていくのを感じます。

もう世界が消えていくのを感じます。


おそらく、

私はこのまま、

世界の辺境の、

この未知の土の中の、

ワームホールのような暗黒世界で、

何もなかったようについえていくのです。


それでいい。

私は初めから存在していないのですから、

それでいい。


ほんの束の間の祝祭のように、

これだけの思いが渦巻いて、

本当の卵のように温められただけでも、

十二分に幸福でした。


未生の卵の分際で、

これだけの思念の時間を与えてくれた、

森羅万象の畏るべき力に感謝します。


ただ、

悔やまれるのは、

どんな形でもいいから、

誰かの口の中で咀嚼されて、

その誰かが微笑む気配を、

一度だけでもいいから感じたかった。


未生の卵が、

現実の卵になって、

人間社会の中で、

生産者に、

販売者に、

消費者に、

重宝されて、祝われたかった。


そんなことを、

ふわふわのパンケーキのように、

願ってしまったりするのです。


けれど、

さようなら。


またいつか出会うことがあったら、

私は現実の卵として、

高級な茶碗蒸しにでもなって、

貴方のお祝いの場に寄り添って、

貴方の味蕾みらいを満足させたいと願うのです。










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未生の卵のモノローグ 滝口アルファ @971475

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