オリエンタル・ファンタズマ 学園都市の平和を守る幻想化バスターの奮闘

猫丸カイト

第0章 魔法学院の日常

エピソード1 まやかしの日常の終わり

〈エピソード1 まやかしの日常の終わり〉


 俺ことレックス・レオンハルトは【アイオン魔法学院】に通っている十六歳の少年だ。


 自分で言うのも何だけど、俺は自他供に認める《美少年》である。


 スラッとした長身に白い肌、豪奢な金髪に宝石のような青い瞳はかなり自慢だし。


 この優れた容姿のおかげで、俺は学院の女子生徒からは熱狂的な好意を寄せられている。

 もっとも、その好意に応えたことは一度もないけれど。


 俺と吊り合うような女子はそうそう居はしないのだ。


 って、いうのはさすがに自画自賛が過ぎるか。あまり調子に乗っていると、後ろから刺されそうだ。


 ちなみに、アイオン魔法学院は【魔法都市ヴェストリ】にある。


 ヴェストリでは魔法の力が重んじられていて、この都市に住む人たちの大半が何らかの魔法を使うことができた。


 また魔法の力が込められた物も都市の至るところに置かれている。


 それだけに、この世界で魔法の力に触れたければ、ヴェストリを訪れてみるのが一番だと世界中の人たちから言われているのだ。


 さすが、魔法都市と呼ばれるだけのことはある。


 そんなヴェストリはこの世界、【オルテア】でも有名な国、【ヴェルンド王国】の領地内にある。


 ヴェルンド王国では製造業が盛んで、様々な魔法金属で造られた《魔道具》が大量に生産されていた。

 魔道具は国民の生活を大きく支えていたし、魔道具が生み出す経済利益のおかげで国の財政も潤沢そのもの。


 その上、国内では平和な時代が長く続いていて、それがヴェルンド王国の評判をより一層、高いものにしていた。

 この戦乱の多い世界で、これほど住みやすいと思える国も他にないだろう。


 とにかく、そんな国、そんな都市にある魔法の学校で、俺は楽しい青春を謳歌していたのだった。


「キャー! レオンハルト様よ。いつ見ても凛々しくて美しい方だわ」


 魔法学院へと続く道を歩いている女子生徒が俺を称えるような言葉を発する。


「剣術の腕も魔法を扱う力も学院一って言うじゃない。あんな殿方とお近づきになれたらどんなに幸せか」


 他の女子生徒がのろけたように言った。


「ダメダメ。レオンハルト様と吊り合う女の子なんて、そうはいないだろうし、私たちなんて見向きもされないわ」


 また他の女子生徒が嘆くように言って、大きな溜息を吐く。


「そうよね。でも、レオンハルト様には憧れちゃうなー」


 またまた他の女子生徒がうっとりした顔で言った。


 俺は女子たちのいつも通りの反応を満足そう眺める。


 あの程度の女子たちと付き合う気なんてさらさらないけれど、好意を寄せられること自体は別に嫌ではない。

 他の男子たちに対する優越感も抱けるし。


 ま、たくさんの女子たちを虜にできるのは、男冥利に尽きるというものだ。


 時々、女子たちを鬱陶しく感じることもあるけれど、そこはモテる男は辛いよ、ってやつかな。


 俺は白亜の石で造られた芸術性を感じさせる魔法学院の校門を潜る。


 すると、三人組の男子生徒が俺の到着を待っていた。


 そいつらは揃って親しみを感じさせるように笑っている。だから、俺の方も明るい笑顔を向けてやった。


「よっ、レオンハルト。今日も女子たちの熱い視線を独り占めしているようだな。でも、午後の剣術の授業じゃ負けないぜ」


 友人の男子生徒の一人が気さくに言うと、俺の肩を軽く叩いた。この気安さも心地良い。


「俺も忘れるなよ。お前に勝つために更なる剣の修行を積んだからな。今日こそ、お前の顔に土を付けてやる」


 もう一人のライバル的な立ち位置にいる友人が、挑むように笑いながら言った。切磋琢磨できる友人がいるのは良いことだ。


「ま、俺と手合わせする時はお手柔らかに頼むわ。俺のような凡人じゃ、どんなに頑張っても天才のお前には勝てないだろうからな」


 三人目の友人はおどけたように肩を竦めた。言葉とは裏腹に、その態度に悪意はない。


 この三人組とは古くからの付き合いだし、気心も知れている。なので、そこらの女子より、よっぽど大切な奴らだ。


 やっぱり、重要視すべきは恋愛よりも友情だな。


 この三人を見ていると友達は一生の物という言葉が身に染みる。


 ま、男なら人生のテーマは努力、勝利、友情だと決まっている。であれば、その中でも友情は特に大切にしないと。


 女子だけでなく男子たちにも好感を持たれることこそ俺の理想なのだ。


 俺は何とも言えない充実感を感じながら歩を進める。


 その先には立派な石造りの建物で、まるで《城》のような雰囲気を漂わせている学院の校舎がある。


 今日もいつもと変わらぬ一日が始まるのだとこの時の俺は信じて疑わなかった。


 が、そう思ったのも束の間、校舎へと続く石畳の道には一人の《女の子》が堂々とした感じで仁王立ちしていた。


 まるで、俺の前に立ち塞がるように。


 そんな女の子は長く伸ばした麗しい金髪に碧玉の瞳を持ち、透けるような白い肌をしていた。


 とんでもない《美少女》と形容した方が良いだろうか。


 この学院には容姿端麗な女子がそれなりにいるけれど、彼女たちでも、この女の子には到底敵わないと思う。


 どこの貴族の令嬢だろう。この容姿で平民ということはないだろうし。


 俺もこれほどの美少女なら顔くらいは見たことがありそうだけど、あいにくと憶えは全くない。

 だからか、彼女からは何ともミステリアスな雰囲気を感じた。


 とにかく、女の子は学院の制服を着ておらず、魔法の力がコーティングされている《ケープローブ》も羽織ってはいなかった。


 その代わり、他所の学校にあるような制服を着ている。でも、見たことのない制服だし、どうやら、この女の子は学院の生徒ではなさそうだ。


「そこのマヌケ面の男。《夢》の時間はもう終わりよ」


 そう言うと、女の子はツカツカと俺の傍にまで歩み寄って来る。その顔つきは、どこか威圧的だ。


「何だって?」


 正直、訳が分からない宣言だった。


 が、少女から放たれるプレッシャーは生半可なものではない。冷ややかな視線からは、殺気のようなものすら感じられる。


 もし、腰に剣を帯びていたら、反射的に抜いていたかもしれない。


 こういう剛毅な空気を纏う女の子は苦手だな。やっぱり、女の子は守ってあげたくなるような可憐な子に限る。


「動かないで。今からあんたの手の甲にある【幻想石】を抜き取るから」


 女の子は反応できないような速さで、俺の手を無造作に掴む。それから、手の甲に付いている《石》に指を伸ばした。


 俺自身、この手の甲にはめ込まれた石は魔力を増大させる魔道具の一つとしてしか認識してない。

 そんな石が何だと言うんだろう?


「な、何をっ……」


 俺が上擦った声を上げると、女の子は躊躇なく俺の手の甲にはめ込まれた石を抜き取ろうとする。

 その流れるような動きに、俺も微動だにできない。


 すると、女の子の指先が触れた石の表面から、突如として目も眩むような《光》が放たれる。


 その光は洪水のように溢れていき、更には、その光の中からまるで《獅子のような怪物》が飛び出すようにして現れる。


 これには俺も驚愕のあまり目を見開いた。体の方もまるで雷にでも打たれたかのように硬直してしまう。


「ば、馬鹿な!」


 そう声を漏らす俺の視線の先には体長が六メートルはある巨大な《獅子》がいた。その獅子の毛は金色に輝いている。


 獅子というよりは、人間に仇なす《モンスター》だ。が、こんなモンスターがいるという話は聞いたことがない。


 出現の仕方もまた問題だ。


 召喚魔法の類を使ったようにも思えないし。


 しかも、この化け物は何の変哲もない魔道具の石から現れたように見えた。なので、一体、どんな手品を使ったんだ、と思う。


「こ、こんな化け物がいきなり現れるなんて、どう考えても普通じゃないぞ!」


 俺は動揺しながら叫ぶ。


 こういう時こそ冷静でいなければならないんだけど、この化け物の圧巻の巨体を前にして怖がるなという方が無理だ。


 そもそも、いくら剣の腕があっても、俺はモンスターと戦ったことなんて一度もない。


 つまり、実戦経験はゼロ。


 だから、こんな凶悪そうな化け物に立ち向かうことなんてできない。


 それでも、せめて剣を握っていれば、ここにいるみんなを守ってやると思えるような勇気も湧いてくるのに。


 まあ、それはないもの強請りの言い訳だな。


 そんなことを心の中で宣う俺を他所に、獅子の化け物は何とも獰猛そうな顔で鋭い牙を覗かせている。


 どう見ても人間に危害を加える気が満々の顔だ。


 周囲の生徒たちも恐れ戦くような顔をしているし、俺も金縛りにでもあったかのように動くことができない。


 何とも緊迫した空気が辺り一帯を包み込んでいた。


「やっぱり、現れたわね、【ガーディアン】が。しかも、時間を与えすぎたせいか、大きな力を持たせちゃったみたいね」


 女の子がまるで意味の分からないことを言うと、金色の髪を逆立てる獅子は女の子に鋭い爪を向ける。


 どうやら、金色の獅子は女の子を《敵》として認識したらしい。その証拠に、獅子は勢い良く女の子に飛び掛かった。


 それを見て俺も背筋が凍り付く。


 こんな化け物に、武器も持たない人間が立ち向かえるわけがない。


 しかも、獅子が襲い掛かったのは、華奢な女の子だぞ。大の男だって、こんな化け物には敵いやしない。


 だから、無理をせずに逃げるんだ! 誰も責めたりはしないからっ!


 そう思ったけど、女の子の方は人間の体など簡単に引き裂けそうな鋭利な爪をヒラリとかわして見せた。


 獅子の方も連続で爪を振り下ろす。でも、舞い踊る女の子には掠りもしない。


 その卓抜とした動きには俺も目を見張る。


 な、何なんだ、この女の子は?


「そんな力任せの攻撃じゃ、当たってあげるわけにはいかないわよ」


 そう豪語する女の子は実に洗練された身のこなしを見せている。


 こんな動きは、学院一の剣の使い手として知られている俺だって真似できない。


 この女の子は、これほどの動きをどこで身に着けたのだろう。


 攻撃を空振りさせる獅子の動きに綻びが生じると、女の子はいきなり掌から鮮烈な《光の球》を放った。

 それは連続して放たれ、獅子の体に目まぐるしくぶつかると激しい光を乱舞させる。


「少しは効いたかしら。でも、私の繰り出す攻撃はまだまだこんなもんじゃないわよ」


 女の子が不敵な笑みを見せながら言うと、獅子の方も自らを包み込む光を突き破るようにして飛び出す。


 それから、獅子は勢いをそのままに女の子に果敢な感じで爪を振り下ろす。


 あのスピードで迫る爪は避けられない。


 このままでは、女の子の柔らかい体が三枚に下ろされて、グロテスクな内臓がバラバラに飛び散る。


 俺の脳裏に女の子が引き裂かれる凄惨なシーンが掠める。


 やはり、あんな女の子に勝てるような相手ではなかったのだ。


 そんなの火を見るよりも明らかだったはずだ。


 でも、俺は一歩も動けなかった。


 こんな状況だっていうのに、俺は何をしているんだろう。


 学院一の強者なんて言われていてもいざとなったら、何もできずに棒立ちか。


 いくら並外れた動きができる女の子とはいえ、彼女に任せるばかりで自分は何もしないなんて。


 はっきり言って、情けないにもほどがある。


 うじうじと自虐的になっていた俺だけど、幸いにも自分の脳内のイメージが現実のものになることはなかった。


「良い感じの攻撃だけど、合格点はあげられないわね」


 そう言うと、女の子は掌に光り輝く《剣》のようなものを出現させて、それを華麗な動きで一閃した。


 その目にも鮮やかな一撃は迫り来る獅子の爪を簡単に砕いて、そのまま二の腕を切り裂いた。

 その際、獅子は甲高い悲鳴のようなものを上げる。


 あの《光りの剣》は魔法か?


 あんな魔法は学院では習はなかったし、もしかして、異国の魔法かな?


「これが私の見せる本当の攻撃というものよ。さあ、この調子で、どんどん行くわよ」


 女の子は獅子が怯んだのを見逃さず、その懐に巧みな動きで入り込む。獅子もこの動きには全く対応できない。


 それから、女の子は光り輝く剣で獅子の胸板を何度も切り裂く。


 実に見事な太刀筋だし、この女の子は魔法だけでなく剣の腕の方も相当なもののようだ。


 学院の生徒だったら、俺の良いライバルになっていたかもしれない。


「これで終わりよ!」


 そう宣言するように叫ぶと、女の子が繰り出した斬撃は、美しい弧を描がきながら獅子の首をザンッと跳ね飛ばす。


 綺麗に切断された獅子の頭部はクルクルと宙を舞って、石畳の道の脇にある緑の芝生に落ちた。


 すると、いくら傷を負っても全く血を流さなかった獅子の体は光の粒子となって消えていく。


 十秒後には獅子の体は影も形もなくなっていた。


 あれほどの巨体が跡形もなく完全に消え失せたのだ。


 これには俺も唖然とした顔をしてしまうし、周囲にいた生徒たちも驚き惑っていた。


「さてと。ガーディアンは倒したし、本当にあんたの《夢》はお終いよ。いつまでも、マヌケ面してないで、さっさと幻想石を外させなさい」


 何事もなかったような顔をする女の子は、そう仕切り直すように言って、呆けていた俺の手を取る。

 それから、手の甲にはめ込まれた石をあっさりと抜き取ってしまった。


 単なる魔道具だと思っていた軽視していた石ではあるけれど、この石は俺がいくら外そうとしても外せなかったものだ。


 なのに、それをいとも簡単に取り外してしまうなんて……。


 この女の子は一体?


「な、何なんだ? これから何が起こるって言うんだ?」


 俺は突然の眩暈を感じ、意識が朦朧としながら声を絞り出す。


 こんな恐怖感は今までに経験したことがない。


 ただ、何かが劇的に変わろうとしていることだけは実感することができた。


 それも、あまりよくない方向に変わる気がする。


 こういう時の俺の勘はよく当たるし、大丈夫かな。


 そんなことを思いながら錯乱していると、俺の視界はいきなりブラックアウトし、意識の方も深い闇の中に呑み込まれていった……。


〈エピソード1 終了 第1章に続く〉

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