与流と志南海 3〈祝い〉

ミコト楚良

祝い

 今日は与流よるのところへ行く日だ。

 あの木立の中に点在する療養所サナトリウムの入院棟は、たとえるなら赤ずきんちゃんのおばあさんの家。オレは無邪気をよそおう精神科訪問介護士赤ずきんだ。


 何度めかの訪問でも、オレに対する与流よるの表情は固かった。

 それが中学校の卒業ぶりに、世間体よろしくない場所でオレと与流が再会したときのことが思い出されて、勝手に胸が熱くなった。


(『無理やり保護されたネコみたいな目』って、そのときも思ったなぁ)


 彼の後見人は叔母だった。

 成人してからは保証人という立場だ。

 その叔母からはまた、上層部宛てに荷物が一箱、届いていた。

 検品はオレがした。

 なにかわからん工作物とか、がちゃがちゃした思い出グッズ? アルバムもあった。

 危険物がないことは、ミリ波レーダで確認済み。


 そうして、与流のところへ持って来た。

「おはようございます。一式いっしきさん」

 

 午前中の与流は、たいがい暖炉を模した暖房器具の前に車椅子を寄せている。

 今日はそこで、立方体のカラフルなパズルを手にしていた。リハビリの一環だろう。


 本日の患者ペイシェントの精神状態は落ち着いている。

 入院当初はこけていた頬に少し肉がついて、顔色も良い。


一式比呂いっしきひろさんからお見舞いの品が届いています」

 届いた荷の中にはクッキーアソートの四角い缶が入っていた。

「すいません。食品はランダムに検品する決まりで」

 すでに封を開けた。ちなみに毒見したのはオレだ。


「あぁ、これ。子供の頃に叔母にねだったことがある」

 与流は静かに思い出している。


「それから、工作物? 思い出の品? ですか」

 オレの問いに与流は箱の中身を見て、かすかに苦笑した。

「これ、誕生日のメダル……」


 たしかに首からさげられる長さの赤いリボンの先に、金と銀、色とりどりの色紙で作ったメダルがつけてある。ていねいに、『よるくん』、『4さい』と書いてあるし。『3さい』のメダルもあった。

「叔母に、ぼくの記憶障害は成人してから災害に遭うまでだって、ちゃんと伝えてます? このまえも、小中高の連絡ノートとか送って来た」


「そうですね。伝えているとは思います」

 与流について、上層部は身内に伏せている情報がある。オレは言葉を選んだ。


 与流は色紙のメダルを、そっと手を取っていた。

「幼稚園の誕生会で、もらったのかな。覚えてない」


「アルバムも、ありますよ? 見ますか」

 オレは箱の中からふるそうなアルバムを取り出した。今どき、写真仕立てのアルバム自体が本当にめずらしい。

「うわ」

 与流がアルバムを開いて声を上げた。

「これ、ぼくか」

 ポートレートを凝視した。


「……でしょうね」

 自分のアルバムだろうが。オレは立場を忘れてツッコみそうになっていて、どうにか職業意識でもって止めた。


 水兵さんの恰好をした男児が木馬にまたがっている。

 男児の目元に与流の面影がある。

 その側には、優美な曲線の椅子に座っている女性と、正装の白い軍服を着ている立ち姿の男性。


「どこで撮った写真だろう。覚えていないな。この頃のことも忘れているようです」

「いや。そんなのは普通の人でも忘れていて正常範囲です」

「……志南海しなみさんでも?」

 与流に名を呼ばれて、オレの心臓は跳ねた。


 心臓に悪いんだよ。

 それも少し笑うんじゃないよ。


「メダルはリボンの部分、外しますね」

 ひも状のものは病室に残さない。

「外したら暖炉の上に飾りましょう」


 思い出は連鎖。

 つらいことだけでなく、あたたかな鎖も繋がっていることを思い出してくれ。

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