第5話 少年-2
その情報は、決して魔法と関わらない一般人には明かされていない。
しかし、その一般人の世界から少し魔術師の側に踏み込めば、一つの名前が現れる。
それこそが『イクサの魔王』であり『シュウネ・ミザリー』だ。
禁忌の四文字の原因である人物でもある。
「世界最強の魔術師は、同時に世界最高の天才だった。この世界がUEOに遭遇したとき、最初の対抗策である第一世代デバイスを作ったのはその人だ」
「それはつまり、最初の魔術師だった、ということですよね」
「だろうな。やがて、シュウネの作るデバイスを使える人間が現れ始めて、UEOとの戦いは人類優勢にまで傾いていった」
「そんな人が、何故【イクサの魔王】なんて?」
少年の疑問はもっともだ。
シュウネの功績を考えれば、送られる称号は『英雄』などがふさわしいだろう。もし世界にシュウネが居なければ、この世界はUEOに滅ぼされていたかもしれないのだ。
だが、シュウネは『魔王』と呼ばれている。その理由も簡単だ。
「世界最強の魔術師は、人類を裏切ったんだよ。理由は分からないが、魔王は突然、世界を破滅させようとした。そして、五大多国籍企業の当時の『勇者』達に討ち倒された」
少年の顔に、理解の光が点ったように見えた。
彼は、俺の語り出した『魔王』の話と、最初の話題だった『深い森』を繋げたようだ。
「もしかして、この森は」
「そうだ。かつて【イクサの魔王】が没した跡地ってわけさ。この森は、魔王が倒れた時に放たれた力の余波を受けて生まれたらしい」
俺としてもにわかには信じ難い話だ。
魔力などという、これまでの世界に存在しなかった力が、それもたった一人の力の余波が、地図を書き換えるほどの森林を作り出した、などという話は。
「まぁ、その話の真偽は俺にも良く分からん。重要なのはそこじゃない」
「じゃあ、重要なのはなんですか?」
「どんなに強い魔術師だろうと、死ぬときは死ぬし、間違えるときは間違えるって話だ」
俺の言葉に、少年が息を呑んだのが分かった。
俺は、彼に更に言い含めるように重ねた。
「少年が、魔法に興味があるのはなんとなく分かる。だけどな、どれだけ強くなったって、少年の望みが叶うとは限らない。強いからこそ、間違えるときだってある。それは忘れないことだ。弱小軍人の戯言として、ごま塩程度に覚えておいてくれ」
「ごま塩って?」
「そういえばこんなこと言っている奴が居たな、程度に覚えておけってことだよ」
話をしているうちに、マギトレインは森の側にある街に近づいていた。
気付けば時間も昼間から夕暮れに差し掛かるほどになっている。マギトレインはこの街で一時停車する予定となっていた筈だ。
ここから先、森の側を通ることになるマギトレインにとって、森の側に作られた街は、物資補給の最後の場所といったところだ。十分な補給を行ってから夜間の走行を開始する。
「長々と話して悪かったな。俺は自分の車両に戻る。少年も、魔術師に変な夢なんて見ず、自分の役割を全うすることだ」
「…………」
少年は肯定も否定も返さなかった。
俺は彼に手を振って別れを告げ、自身のチームが待つ一般車両へと戻る。
中々戻ってこない俺を心配していたメンバーも居たようだが、特に何があるわけでもない。
「各自、最後の息抜きだと思ってゆっくりして良い。以上」
ユウスゲの声で、かなり広めの駅のホームに降りたUFS第十四部隊の面々は息を漏らす。
あれだけ気を抜いていた癖に更に抜く息があるとは、と俺は感心せざるを得ない。
護衛、という任務は現実的に俺達に課せられていない。故に停車中に駅の中にある施設に向かうことも咎められはしないが、俺のチームは動かない。
ジェネラルの面々もまた、護衛任務を置いて何人かが出歩いているのが目に入る。
その他、俺達とは関係のない乗客達も少しの数が車両から出て来ている。先程自販機の前で俺と話していた少年の姿も見えた。
駅内の売店などに向かって歩き出す面々を横目に捉えつつ、俺はユウスゲのチームの様子が気になっていた。
彼のチームの観測手が、困った顔でユウスゲに何か報告していたのだ。
「どうした?」
「シュウ……なんでもない。ただ、定時連絡に少しトラブルが発生しただけだ」
曰く、この街に入ってから、観測手のデバイスからマギネットワークを通じて支部へと定時連絡を行おうとしたのだが、安定しないらしい。
「……それは、なんでもなくないだろう。異常事態の間違いではないのか?」
「もともと、この距離なんだ。多少の通信トラブルは想定内だ」
「距離など関係ないはずだ。極東支部がだめでも、UFS中東支部や、SARSの中継局も利用できる。通信には問題無い。それができていないとなると、何か問題が発生しているんだ」
「考え過ぎだ。だいたい、俺達の任務は護衛じゃないんだぞ。今は移動だ。ジェネラルとのデータリンクは切れていないし、情報共有もない。あちら側でも問題が発生していたら共有されている。それがないということは、問題は起きていない。これは大したことじゃないんだ」
ユウスゲは、俺に言い聞かせるように、あるいは自分に言い聞かせるように問題ないと連呼していた。
ユウスゲは現在、この部隊の責任者だ。任務が無事に終了すれば評価され、問題が発生すればその責任を負わされる。問題無いと言いたくなる気持ちも理解はできる。
だが。
「ユウスゲ。良く考えろ。問題の兆候を無視した結果、更に大きな問題が発生した場合、責任は即座に報告した場合の比ではないんだぞ」
「黙れシュウ。問題はない。そこまで言うならお前が本部と連絡を取って、確認すれば良い。これはあくまで、通信上の一時的な不具合にすぎない」
「……分かった」
その通信ができないから問題だというのに、通信で報告しろとはどういうことだ。
ユウスゲと話をしていても埒が明かない。
そう判断した俺は、話を切り上げてうちのチームの観測手、オーカに同様の通信が可能かを尋ねる。
これで通信できたとしたら、単純にユウスゲのチームの問題になるだけだが、そっちの方がきっと良い状況だろうな。
「オーカ。緊急だ。回線を──緊急回線EG-44で極東支部に連絡してくれ」
「緊急回線、ですか? 了解ですリーダー」
俺の言葉に応えて、オーカは自身のデバイスを取り出して起動する。彼女のデバイスは、メガネ型である。
メガネ型デバイスは、チームでの行動中に観測手やオペレーターを務める人間にとっては、それほど珍しいものでもない。補助機能として、情報を眼前に表示しやすく、直感的に『見る』という行為を連想しやすい。
イメージの容易さは、魔法の精度に関わってくる。
魔法はリソースとイメージだ。メガネ型は小型になりやすいためリソースの問題は出るが、アンテナとして利用し、別に大きなリソースを用意すれば良い話でもある。
現にオーカの場合、もう一つの役割である回復にメガネ型は向いていないため、彼女はそれ用にもう一種類のデバイスを所持している。
そのオーカは、通信を確かめるように眼鏡の蔓を何度か叩き、首を振った。
「リーダー駄目です。緊急回線、繋がりません」
「その他は?」
「通常回線、オープン回線、秘匿回線のいずれも連絡不能です。唯一アクセス可能なのはジェネラルとの相互回線のみかと」
つまり、この街の中でのみ通信が可能。だが、街の外にはアクセスができない状況というわけか。いや、
「待て、オープン回線を試したのか?」
緊急回線や通常回線はまだ良い。オープン回線を利用したとなると、それは自分が通信をしているという魔力の反応を、この場に撒き散らしながら通信していたのと同義だ。
もし、俺達の動向をうかがっている奴が居たとしたら、間違いなく、気付く。
オープン回線を利用したかという問いかけに、オーカはおずおずと言った。
「え、は、はい」
オーカが頷くのが早いか、俺は咄嗟に叫ぶ。
「全回線遮断! 魔導通信防壁を全力で展開しろ!」
「っ、了解!」
了解の声に、数瞬遅れてのことだった。
肌に直接感じるような強烈な爆発の音とその衝撃が、その場にいた全員に届いた。
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
それと同時に、駅構内の各所で、悲鳴が上がる。
俺の目の前に居る、ユウスゲチームの観測手も同様の悲鳴を上げて倒れた。
出所不明の爆発は、マギトレインで起こった様子だった。列車の各所から煙が上がっている。恐らく動力をやられた。
マギトレインは修理するまで動けないだろう。
先程の通信障害は、十中八九、何者かの魔力ジャミングによるものだ。この街を覆う形で発生しているものと考えられる。それだけでも厄介なのに、さらに観測手を潰された。これでは、ジャミングをどうにかしても、救援をろくに呼ぶ事もできない。
つまり、俺達はマギトレインが停泊しているこの街から、脱出する手段を失ったという状況に極めて近い。
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ここまで読んでくださってありがとうございます。
とりあえず朝の更新はここまで。
だいたいこの重苦しさで最後まで行きます。
Web小説じゃ受けないだろうなと思いますが、こういうの自分が読みたくて書いたので、同じような人に届けば幸いです。
サザンクロス-イクサの魔王- @score
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