第八話 傭兵初仕事

中型輸送艦の全ての外壁板を取り替えるので、工事が終わるまで1週間掛かった、その間、アレンとネオンも暇を持て余していたわけではない。


アレンはジーベックのさらなる改修計画の構想を書いたり、自分の頭の中にあった様々な機械の設計図を引いたりしていた。


ネオンはというと、アレンが艦長室にこもっていた間は基本的にシルヴァーナのコックピットの中で、シルヴィと一緒に、新しく購入した長編娯楽小説シリーズを読みふけったり、傭兵ライセンスでマセナリーデータベースにアクセスし、適当な仕事を見繕っていた。


「この依頼が、初仕事にちょうどいいと思う」

「宙賊討伐、報酬金は100万レボル、資源小惑星を占拠した宙賊の一味の殲滅か」


宙賊討伐は、すでに経験している、ネオンの言う通り、初仕事にはちょうどいいだろう。


「ネオンが選んだ仕事なら、文句はない。早速出港しよう」

「ん」


ジーベックは内装は改装し、鹵獲した頃と比べると格段に過ごしやすくなったが、装甲は脆弱でシールドは貧弱、エンジンの出力は並みなので、素人操縦士のアレンは、やはり慎重になる。


「ふう」


アイベルサスコロニーの港を出港したジーベックは、目標地点に針路を向ける。


「大丈夫、宙賊は私が殲滅するから、アレンは後方で待機してて」

「そうさせてもらうよ、せっかく大金をつぎ込んで改装したのに、沈んだら悲惨だ」

「ん」


目標地点に近づいたところで、ジーベックは停船する。


『ネオン、目標地点は目と鼻の先だ』

『ん、出撃する』


アレンはパネルを操作し、艦の側面部の格納庫ハッチが開き、格闘形態のシルヴァーナが飛び出す。


そのまま飛行形態に変形したシルヴァーナは、目標地点の小惑星に向かう。


レーダーと光学カメラで、シルヴァーナを観察するアレンは、ネオンに通信を繋ぐ。


『ネオン、見えてるか?』

『ん、見えてる、向こうもこっちに気づいたみたい』


目標の小惑星の影から、3隻の小型の高速戦闘艇が出てくる。


《三隻の小型高速戦闘艇が接近中》

『シルヴィ、3分で片付ける』

《了解》


三隻の戦闘艇は、散開し、シルヴァーナを囲おうと動く。


『傭兵か!、返り討ちにしてやるぜ!』


宙賊のオープンチャンネル通信を無視し、囲む動きを予測したネオンは、急速上昇し、一隻に狙いを定める。


宙賊艦はレーザー砲を撃つが、高機動で動くシルヴァーナに避けられる。


宙賊艦は、慌てて舵を切るが、回避行動を見切ったシルヴァーナの高エネルギーレーザーライフルの引き金を引くが射角の問題で、オレンジ色の閃光は船体を掠めて、シールドをオーバーヒートさせ、装甲が赤熱化する。


「ん」


手負いの宙賊艦とすれ違い、格闘形態に変形したシルヴァーナは改めて、航行軌道を見切り、オレンジ色の閃光が、宙賊艦を爆散させる。


弧を描き、飛行形態に変形したシルヴァーナは旋回し、すれ違い、戻ってきた2隻を狙う。


宙賊艦のレーザー砲が連射されるが、碌に狙いが定まっていない砲撃など、ネオンが駆るシルヴァーナに当たるはずもない。


格闘形態に変形したシルヴァーナが放つオレンジ色の閃光が、宙賊艦を撃ち抜く。


最後の一隻は慌てて逃亡するが、それを見たネオンは格闘形態から飛行形態に変形する。


飛行形態のシルヴァーナの航行速度は下手な高速艦よりも速い、簡単に追いつくことができる。


『待っ…!』


ブレードに変形した機動鋼翼で、宙賊艦を後方から真っ二つに切り捨てる。


《撃破時間は3分12秒です》

『ん、及第点』


他に宙賊艦がいないことを確認したネオンは、ジーベックに帰投した。


◆◆◆◆


アイベルサスコロニーへ無事に戻ってきたジーベックを、停泊させ、二人は艦長室で傭兵ライセンスを通じて、マセナリーに通信し、依頼達成を報告する。


『依頼が完遂されたことを確認しました、報酬金をお支払い致します。それでは失礼します』


マセナリーとの通信を終えたアレンは、報酬金受け取り口座を開き、報酬金が振り込まれたことを確認する。


「よし、初仕事を終えた記念に、外食するか」

「ん、行く」


トラムに乗り、二人は適当な商業区画で降りて、ネオンが予め決めていた飲食店に入る。


コロニー内で提供される料理に使われる肉は、大抵が工場で作られた合成肉で、野菜は遺伝子組み換えにより大量生産に向いた品種を植物工場で、生産したものばかりだが、軍のレーションに比べたら何倍もマシだ。


アレンはそこまで食に頓着するタイプではないが、それでも合成肉のステーキの味は、金を払った甲斐があると思った。


「いつか天然肉のステーキが食べてみたい」

「ネオンの夢が叶えば、食べられるさ」


惑星に居住する人間は天然の肉を食べる機会があるそうだ、当然高級品なのだが、コロニーではその機会すらない。


惑星の環境下での畜産は、工場生産の合成肉に比べると効率が悪い、それでもネオンのように需要がないわけではないので、天然肉の生産は一部の惑星で行われている。


「そういえばアレンには、夢みたいなのは無いの?」

「夢と言っていいかは分からないが、シルヴァーナの後継機を作ってみたいんだよな」


「後継機?、シルヴァーナの妹ってこと?」

「まぁ、そんな感じだな、今のところあるのはシルヴァーナの派生設計だから、後継機とは言えないんだよ」


「派生設計?」

「ああ、シルヴァーナのパイロット問題を解決する為に色々と考えてるんだ」


こちらを探る視線などがないことを確認して、アレンは腕時計型の小型端末を操作して、ホロディスプレイを表示する。


「おお!!、すごい!」


アレンが見せてくれた設計メモには、シルヴァーナの派生形態がいくつか描かれていた。


アレンは、すぐに消す。


「一番見込みがありそうなのは、高機動を捨ててエルトロンエンジンの出力を、火力に回した砲撃型のARMSかな」

「名前は?」

「まだつけてない、こいつらは全部試作段階だからな」


火力特化、機動力特化、近接特化、エトセトラエトセトラ、いずれにせよ、実用化には程遠い。


「結局俺の作る機体はワンオフ機にしかなり得ないんだよな」

「エンジンが高出力だから?」


「そう、エルトロンエンジンはピーキーなのが問題と言えば問題だな」

「エルトロンエンジンって軍用の工廠ファクトリーじゃなくても作れるの?」


「ーーー」


アレンは無言で微笑み、ネオンは思わず目を逸らす。


「アレンってよく軍部に処刑されなかったね」

「色々とセーフティネットは用意してたからな」


そのお陰で前線に左遷されただけで済んだとも言える。


「アレンは自分の作った物の価値をよく分かってるんだね」

「分かってるの、俺が発明したいろんな物は、共和国には早すぎた」


エルトロンエンジンらのウルトラテクノロジーは共和国の無能共には、荷が勝ち過ぎる、逆に身を滅ぼすのがオチだ。


現にシルヴァーナとネオンには、脱走されている。


「まぁ、そうは言ったがエルトロンエンジンを民間で製造するのは簡単じゃない、そういう意味では夢とも言えるかもな」

「シルヴァーナの姉妹を作るアレンの夢、私も協力するから」


「ありがとう。とりあえず目下の目標は傭兵として安定した稼ぎを得ることだな」


言いながらアレンは、切り分けた合成肉のステーキを口に運んだ。

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銀の操縦士と黒の整備兵は、脱走し傭兵団を作る。 龍帝 @ryutei_syumi

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